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第198話 逃げたその先には

 女騎士とフレンツを担いで逃げているソーティ。

 それが到着した先は。

 やはり、妖精の暮らした跡の内の1つ。

 ウタレドの西にある3つの跡を利用して、アジトをコロコロ変えていた。

 しかしそこには、王族を裏切った者達の他には1人しか居ない。

 そう、ウタレドでの魔力吸い上げを発動させている者だけ。

 本拠地をここに構えるにはリスクが有ると、ケミーヤ教を率いる者が判断した結果。

 今それが何処に在るかは、フレンツ達にも知らされていない。

 何か要件がある時には、向こうから知らせて来る。

 それまでは勝手に動いていろ。

 そう言う指示だった。

 すっかりケミーヤ教に傾倒しているフレンツは、ここで排除するつもりだ。

 実の兄を。

 女騎士がフレンツに問う。


「宜しいのですか?向こうの中に皇帝が紛れていた事を、《本部》へ知らせずにいても。」


「どうせ連絡は取れないんだ。それに、これは俺の面子の問題だ。自身の境遇にけりを付ける、な。」


 強気に答えるフレンツ。

 王族としてのプライドだけは捨てきれないらしい。

『そうですか』と言うだけに留めた女騎士。

 その実、内心ではこう思っていた。

『こいつはもう限界だし、どうでも良いか』と。




 フレンツがケミーヤ教に触れる切っ掛けは。

 この女騎士と巡り会ってから。

 先々代の皇帝に輿入れした側室の縁者。

【ロイス・ヘイトルーバ】と名乗るその人は。

 幼いフレンツの教育係兼ボディーガードとして、ずっと付き従った。

 昔のフレンツは何故か襲われる事が多く、その度にロイスは華麗な剣捌きで撃退していた。

 自然と、その強さに憧れる様になっていた。

 そして、何度も強さの源を問うフレンツ。

 聞かれる度にロイスは、『何時かお教えしましょう』と答えるだけ。

 そして、フレンツが10才の誕生日を迎えた日。

 とうとうロイスが打ち明けた。

『他言無用』としっかり口止めをして。

 それが、ケミーヤ教。

 ケミーヤ教に纏わる話を聞いては、興奮するフレンツ。

 特にお気に入りなのが、グレイテストの活躍秘話。

 圧倒的強さで敵をなぎ倒す、凛々しい姿に。

 自分の未来を重ねる。

 こう有りたい。

 こう成りたい。

 何時しか、フレンツの理想像はグレイテスト其の物となった。

 偶像を追い駆け、錬金術もこっそりロイスから学んだ。

 しかし、賢者の石は使いこなせなかった。

 どうやっても無理だった為、嘆いていると。

『1つだけ手段がある』とロイスに言われた。

 かなり残酷な手法ではありますが、お覚悟は?

 そうロイスに問われたフレンツは即答。

 是非も無し。

 そして処置を施され、錬金術を体得した。

 その代償が、悲劇的な物となる事も知らずに。

 こうしてフレンツは、ケミーヤ教の手先と成り果てた。




 それをほくそ笑んで見ていた人物。

 ロイスを送り込んだ張本人。

 フレンツからは義祖母に当たる側室。

 彼女こそ。

 時の皇帝にグスターキュ帝国侵攻を進言し、長きに渡る侵略計画を立案した元凶。

 実は、ケミーヤ教の関係者。

 ずっと前から存在する怪しい集団が、宗教めいた団体へと成り代わったのは。

 輿入れが成功したから。

 ある《謀略》を実行する為にケミーヤ教を名乗り、実働部隊となったのだ。

 それは一体何なのか?

 それを知る者は3人のみ。

 謀略の立案者と。

 過去から未来まで、全てを知っている魔法使いと。

 あと1人は……。




 フレンツ達が隠れ家へ到着した頃。

 一行は悩んでいた。

 前から怪しいとは思っていたが、その圧倒的な力に見惚れていた。

 しかし、フレンツが残した言葉のせいで信頼が揺らいでいる。

 ならば行動で示すまで。

 クライスは単身、乗り込む事にした。

 あくまでマイペースなエミルは、その後を付いて行きたがったが。

『足手まといになるだけ』と、メイに一喝される。

 妖精が暮らしていたとは言え、もう人間が入れる様になっているのだ。

 訪れた所で、その痕跡を見る事は出来ないだろう。

 それに相手は全員、エミルの姿を捉えられる可能性がある。

 捕まりでもしたら、逆に利用されかねない。

 それを回避する事が出来る程に狡賢ずるがしこくないエミルは、寧ろ戦闘の邪魔なのだ。

 純粋故に、遠ざけられる。

 アンはそれを哀れに思い、しくしく泣くエミルを慰める。

 クライスはアンに、皆の安全を託す。


「頼んだぞ。」


 そう言って、メイを伴い西へ向かうクライス。

 その後ろ姿へ向かって、一言。

 御無事で。

 祈る様に、声を掛ける事しか出来ないアンだった。




 クライスとメイは、フレンツ達が居る場所の見当が付いていた。

 感知出来ない程に細い金の糸を、ソーティの右足裏へ繋げていたのだ。

 それをゆっくり確認する様に辿るクライス達。

 西にある3つの跡。

 北から〔ゲイブー〕〔マヌガ〕〔ヘト〕と呼称される、それ等の中で。

 距離的にもほどほど近く、尚且つひそみ易い場所。

 人の背丈を越える高さの草が、広範囲で生い茂っている。

 それが、ゲイブー。

 そこへ向かって、金の糸は伸びている。

 辿り続けるクライス達。

 その途中で、遭遇。

 メイの姿を見て、道沿いの草むらから飛び出して来る姿は。


「メイ!メイじゃないの!」


「【イェト】、ここに居たのね!」


 姿はカラスそのもの。

 ツァッハを監視する様、魔法使いに言われていた使い魔。

 クェンドであくせく格闘した後、敵の後を付けて消息を絶ったが。

 今漸く合流出来た。

 早速挨拶するクライス。

 イェトが話す。


「ご主人から聞いているわ。私は使い魔のイェト、この辺りの担当よ。宜しくね。」


「ああ。今回は本気を出さないと、こちらもヤバいからな。サポートを頼む。」


「了解。」


「まず状況を教えて頂戴。」


 メイがイェトに、事態の経過を尋ねる。

 イェトが話す内容は、以下に。




 元々ゲズ家は、雲行きが怪しかった。

 弱小の為、一族の存亡を賭けて王族反対派へ付いたが。

 十数年前に娘が女中と失踪し、跡取りが消えた。

 それが切っ掛けで、ズルズルとケミーヤ教の言いなりに。

 そしてつい最近、一族が秘密裏に抹殺された。

 それが明るみに出る頃には、首都のウタレドはあのざまに。

 更にクェンドへと侵攻。

 魔力を絞り出すアンテナを、更に増やす為。

 そして戦争の火種を付ける為。

 クェンドは大混乱。

 建物は化け物と化したソーティに破壊され、『残骸は邪魔だ』とフレンツに消された。

 何とか住民のアンテナ化を阻止したが、操られるのを防ぐ事は出来なかった。

『せめて証人を残さないと』と、子供達3人を逃がした後。

 確認しに現れた人間の後を付けて、ここまで来た。

 そいつが、ウタレドの住民をアンテナ化した張本人。

 倒せば元に戻る筈。

 しかしその程度は分からない。

 気絶させるだけで良いのか。

 完全抹殺までしないといけないのか。

 判断が付かなく、迷っている内に。

 クライス達が現れた、と言う訳だ。




「じゃあこの先に、そいつが居るんだな?」


 クライスがイェトに確認する。

 イェトが、少し言葉に詰まりながら答える。


「私が付けて来た時は、確かに居たわ。でも……。」


「でも?」


「中で移動してる可能性があるの。感じる魔力が揺らいでいるから。」


「3つの痕跡の中で?」


 メイがそう聞くと、イェトがコクンと頷く。

 3つが繋がっているとすると。

 虚を付いても、逃げられるかも知れない。

 それでも今は、飛び込むしか無い。

 そこには恐らく、あの3人も居るだろう。

『ケミーヤ教の連中は他に移っているみたい』と、イェトが付け加える。

 付けて来た奴がそこに入るまでは、中から誰の魔力も感じなかったから。

 そう言う事らしい。

 アンテナ状態を保つ為には、術者だけはこれ以上離れられないと言う事だろう。

 そして吸い上げた魔力はここでは無く、ケミーヤ教の本拠地に直接飛んで行っている。

 何処に向かっているかは、途中で空間が湾曲しているのかメイ達にも感知出来ない。

 それは魔法使いに聞くしか無い。

 そう頭の中を整理すると。

 クライスの目がギラリと光る。

 そして腰の左側に下げている布の塊を、ポンポンと叩く。

 目覚めの合図の様に。

 イェトには念の為、ここで見張っていて貰う事にして。

 クライスと。

 その右肩に乗るメイが。

 草むらの中に突入した。

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