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第197話 交錯する欺瞞(ぎまん)

 ウタレドは仮にもツァッハの首都。

 人の数が少ない訳では無い。

 数百、数千は暮らしている。

 それが皆、立ちっ放しと言う異様な光景。

 その中で高笑いするフレンツ。

 許さん……。

 許さんぞー!

 気付いた時には、フレンツに向かってテノが走っていた。


「ば、馬鹿!」


 慌ててロッシェが追い駆ける。

 人影に反応するフレンツ。


「おっと。現皇帝でらせられる兄様が、何故ここへ?」


「そんな事はどうでも良い!今すぐ止めろ!」


 命令口調でフレンツを怒鳴るテノ。

 懐からナイフを取り出し、フレンツへ切り付ける。

 微動だにしないフレンツ。

 ナイフが喉元へ届くかと思われた。

 その時。


「俺の目を見たな?」


 ニヤリとするフレンツ。

 硬直するテノ。

 しまった!

 怒りで我を忘れて、忠告を……!

 事前に、『弟君の目を見てはいけない』とクライスから聞かされていた。

 フレンツをる覚悟で突っ込んだ。

 どうしても相手の目を見てしまう。

 テノの失態。

 ロッシェは左手に持つナイフで目線を遮りながら、テノに接近する。

 ギラつくナイフ。

 それが鬱陶うっとうしいのか、テノの陰に隠れながらもナイフを払おうとするフレンツ。

 空いている右手で、横からフックの様に腹をぶち抜こうとするロッシェ。

 2人の腕が交差する。

 ロッシェのナイフが弾かれ、彼方へ飛んで行く。

 フレンツは腕力に自信があった。

 おまけに、術で身体能力を強化している。

 勝った!

 終わりだ!

 お前も!

 ギロッと睨むフレンツ。

 その先には。




「ま、またかぁぁぁぁぁ!」




 ロッシェはちゃっかり、セレナからサングラスを借りていた。

 無策で突っ込む程、自分を見失ってはいない。

 サングラスのレンズがキラッと光る。

 自分の目と目が合ってしまうフレンツ。

 テノに掛けられていた術が解ける。

 そのままテノのナイフが、フレンツの頬をかすめる。

 同時にロッシェの右拳みぎこぶしが、フレンツの腹をえぐる。


「ぐわっ!」


 フレンツはそう叫ぶと、奥に見える民家の壁に激突。

 防御力を底上げしているとは言え、騎士を名乗っている男の拳をもろに受けた。

 真面まともにダメージを食らう。

 すかさず突っ込むロッシェ。

 その前に、シュッと割り込む影が。

 ロッシェの前に立ち塞がる。

 フレンツの方を見やって、一言。


「情けないですね、王子。」


「く、くそう!こんな筈では……!」


 余裕の表情を見せる、その影は。

 騎士の姿をした女。

 弱音を吐こうとするフレンツを叱責する。


「無様ですね。《理想》とする姿には程遠いですよ。」


「い、今!本気を出そうとした所だ!」


「なら最初から全力でおやりなさい。かなりの手練てだれですよ。」


 フレンツと会話を交わす女騎士。

 冷静に状況を分析し、ロッシェとの実力差を量っている様だ。

 ロッシェが怒鳴る。


「仮にも騎士なら、名乗ったらどうだ!」


「それはあなたも同じでしょう?」


「悪に名乗る名など無い!」


「悪?どうして決め付けなさる?」


「町の住人をこんな風にしといて、何の言い草だ!」


「これは私達の仕業では無いもの。知った事ではありません。」


 くっ!

 言い詰まるロッシェ。

 どうやら、女騎士の時間稼ぎは終わったらしい。

 ゆっくりと立ち上がるフレンツ。


「今度こそ……仕留めてやる……!」


 吐き捨てる様に言うフレンツ。

 ジリジリとロッシェに迫る。

 ナイフでは分が悪い。

 せめて槍でもあれば……。

 すると。




「使いなさい!」




 後ろの方から、アンの声。

 よっしゃ!

 ナイフを持ち替えるロッシェ。

 あっと言う間に、槍へと変形。

 そこへ、剣を携えたセレナも到着。

 アンは、錬成した金属の盾をラヴィに与える。

 そして自身も防御態勢。

 ロッシェとセレナの後ろから、テノが叫ぶ。


「何故だ!何故国を裏切った!」


「裏切った?違うね!《正す》のさ、今こそ!」


「どう言う事だ!」


「返す時が来たのさ!グレイテストの血脈に、統べる地位を!」


「分からん!全く分からんぞ!」


「答えが知りたければ、《その小僧》に聞くんだな!」


 テノに対し、敵対心剥き出しで会話するフレンツ。

 そして、『ピーッ!』と口笛を吹くと。

 フレンツが背にしている民家から、『ボゴンッ!』と筋肉隆々の腕が飛び出て。

 女騎士とフレンツの腕を掴むと、『バギッ!』と建物の中へ引き込む。

 と同時に屋根を突き破って、両肩にフレンツと女騎士を背負ったソーティが。


「まだ終わってやらねえよ!じゃあな!」


 またもフレンツは捨て台詞を吐いて、彼方へと消えて行った。




「何故だ……。」


 何度もそう呟きながら、崩れ落ちるテノ。

 傍に控える、ロッシェとセレナ。

 そこへ駆け寄るアンとラヴィ。

 ああ言われては、問うしか無い。

 知っているであろう、その人物に。

 突っ立ったまま動かない住民を観察していた、クライス。

 皆の視線が注がれる。

 誰もが説明を待っている。

 止めろ。

 止めてくれ。

 そんな目で見るのは。

 クライスは目を背ける。

 そんな兄様の姿は見たくなかった。

 弱々しい兄様を。

 だから敢えて、アンが問い詰めようとする。

 しかし、メイがそれを遮った。


「ここでは無理よ。」


「でも!」


 興奮しているアン。

 黒歴史が間違い無く関係している。

 それを話せば、肩の荷が下りるのではないか。

 楽になれるのではないか。

 そう言う思いから。

 しかし、メイが冷静に伝える。


「周りを良く見なさい。解除されて無いでしょ?」


 確かに、住民はまだ立ったままだ。

 女騎士の言う通り、こんな事をした人物が別に居る。

 ならば解除しない限り、ここでの会話が敵に筒抜け。

 それを理解し、アンは押し黙ってしまう。

 絞り出す様に、一言言うのがやっと。


「何時、聞かせてくれるの?」


 クライスは、次の様に述べるにとどまった。

 発する言葉に誠意を込めて。




「ツァッハを片付けて、魔法使いの住む場所まで行けば。そこで出来るだけ答えよう。」

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