第196話 ツァッハの首都へ
尚もカベールに留まる一行。
そこへ、タタタとメイが戻って来る。
早速クライスへ報告。
「『帰って来ていない』だってさ。」
クェンドで子供達に逃げる様告げた、鳥の使い魔。
魔法使いに事態を知らせた後、『相手の様子を探る』と言い残して通信を終えたらしい。
なので、現在地不明。
しかし『魔力の繋がりは感じる』との事で、敵にやられてはいない模様。
上手く潜伏している。
使い魔が隠れなければいけない理由。
それは、敵の本拠地に近付いているからに他ならない。
そう考えるのが妥当。
クライスとメイの間で、話し合いが纏まった。
そこから、一行が今後どう振る舞うべきかを思案する。
まずは、地理の整理を。
クェンドから西に進むと、ツァッハの首都〔ウタレド〕に着く。
そこから北東に進むと、〔ハウ〕の村を経て《幻の湖》が漂う領域〔シキロ〕に至る。
北西に進めば〔ネンタリ〕の町へ、更に北へ進路を変えウォベリを目指す。
南に進めば、ゲズ家と懇意にしていた騎士【ツレイム・ファルセ】の領地〔メドム〕を通過し、ラミグへ到達する。
そしてウタレドの周りには5箇所、妖精の暮らした跡が在る。
真北に1つ、西側に3つ、南東に1つ。
シキロに近い箇所は、魔法使いとの関わりを避ける為使用していないだろう。
怪しいのは、メドム側にある箇所。
ファルセは、デュレイが警戒する様テノに進言した3人の貴族の1人。
ケミーヤ教と繋がっていてもおかしくは無い。
おまけに、フレンツがここまで出張っている以上。
デュレイが指摘した、《フレンツに仕える貴族》も帯同している可能性が有る。
敵側はかなりの戦力が整っていると思った方が良い。
地理的にも向こうが有利。
土地勘の無い一行は、動き辛い事だろう。
何か町に細工を施しているかも知れない。
何が待ち受けているか分からない。
それでも。
「行くしか無いだろうな、ウタレドへ。」
広げたPを眺めながら、クライスが呟く。
何処へ行くにしろ、ウタレドを通らねばならない。
交通の要所。
敵も上手く抑えたものだ。
メイによると、ソーティはフレンツを担いだままウタレドへと入った。
しかし町からは、何の反応も無かったらしい。
誰も居ないのか。
はたまた、クェンドの住民の様に操られているのか。
ここでうだうだ考えていても、しょうが無い。
一行は移動を開始した。
クェンドの住民は、暫くカベールで世話になる事となった。
子供達に見送られ、一行は丘を登る。
頂点を過ぎて、今度は下り。
要塞と化したクェンドへと入場。
周りを取り囲んだ壁の上を巡回する兵士。
アンが、壁の上を歩ける形状にしておいた。
その内側で、忙しそうに次々と小屋を建設する兵士達。
詰所、休憩所、それに食料等の保管庫。
その中を走り回るヒズメリ。
副司令官らしく、豪華な鎧を着飾っていた。
クェンドがこちらの手に陥落しやる気が出た為、だらしない格好を止めたのだろう。
清々(すがすが)しい顔で、あちこちに指示を出している。
もう、ただのおっさんなんて言わせない。
それを横目で見ながら、街道へ入ろうとする一行に。
ソインが声を掛ける。
「この度は世話になった。感謝する。」
「いえ。こちらの都合でもあったので。」
「ところでお前達は、本当にただの行商人なのか?」
ソインはいろいろ報告を受けていた。
決着の仕方。
聳え立つ壁の建設法。
行商人にあるまじき所業。
疑問に思うのも当然。
クライスが返す。
「もし褒美を頂けるんでしたら……。」
「何だ?」
ここでがめつさを発揮するのか?
疑っていたが、やはり商売人なのか?
そう考えたソインだったが。
クライスの言葉に肩透かしを食らった。
「『俺達は行商人』、そう認定頂きたい。余計な詮索は無用。宜しいですね?」
「そんな事で良いのか?」
「俺達には、何よりも重要です。」
商いを公認してくれ。
そう主張している様に捉えたソインは、クライスの言葉を受け入れた。
これまで商売に苦労して来たのだろう。
兵士が見た光景も、商いを認めさせる為に必死だった事から生まれた奇跡。
そうだ、きっとそう。
悪夢を見るよりは、まし。
静かに一行を見送る、ソインだった。
「念を押すと、逆に怪しまれるんじゃないの?」
遠ざかるクェンドを歩き見ながら、ラヴィはクライスに言う。
それには、ロッシェも同意。
「『詮索無用』って、余計な言葉を付け足さなくても……。」
「かもな。少し言い過ぎた。」
珍しく反省の弁を述べるクライス。
妙に勘繰られて、変な足止めを食らうのを嫌った。
それで、つい……。
その気持ちは、皆も分かる。
まだ旅の途中。
次から次へと問題が噴き出て、前に立ち塞がる。
すんなりとは行かないと思っていたが。
ここまでとは。
それだけ、敵の本拠地へと近付いていると言う事だろうか。
気を緩める暇が無い。
しかしシキロへと入ってしまえば、少しは休める。
それまで持つだろうか……。
少し不安を感じながらも、一行は進む。
何とか進み続け。
ウタレドの入り口が見えて来た時。
メイが、はたと立ち止まる。
強い魔力を、町から感じる。
禍々しい魔力を。
それは悲鳴を上げて町中を埋め尽くし。
渦を巻く様に蠢いている。
メイの変な例えに、ラヴィが突っ突く。
「悲鳴って何よ?まるで生きているみたいじゃない。」
「あんたには分からないでしょうね。あいつを見てみな。」
くいっと顎で、クライスの方を指す。
曇った表情をしている。
ラヴィが呆れ気味に言う。
「まさかあんたも、同じ事を言うんじゃないでしょうね?」
「メイの表現は的を射ているよ。」
クライスはそう言うと、更に顔を曇らせる。
眉間にしわを寄せ、苦悶の表情へと変わる。
何が彼をそうさせるのか?
気になるラヴィだが、セレナがそれを止める。
魔力に鈍感な我々が何を言っても、慰めにもならない。
それを良く理解していた。
元凶を早く止める方が先決。
町の中を伺おうと、少しずつ近付く。
町を囲む柵の陰から、こっそりと覗き見る。
すると。
「何よ……あれ……!」
身体が震え出すラヴィ。
背中がゾッとするセレナ。
事実をジッと見据えるテノ。
各自、それぞれ感じ方は違うが。
その悍ましい光景を目の当たりにし、怒りが沸々と湧き上がるのは共通していた。
町の中では。
人が立っていた。
ただただ棒立ちで。
恐怖に満ちた顔付き。
それでも動けない。
子供も年寄りも。
男も女も。
平等に、げっそりと。
昼間なのに、空は雲で覆われ薄暗い。
その中で、『フハハハハ!』と高笑いする男。
その姿を見て、思わずテノが漏らす。
『絶対に許さない』と言った口調で。
「そこまで堕ちたか、我が弟よ……!」




