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第193話 司令官へ、売り込み

「私が、ですか?」


「ああ。引き受けてくれるかい?」


「ええ、構いませんが……。」


 襲って来る人々に、暗示を上書きする事が出来る者。

 それはエミルしか居ない。

 しかし、普通の人間にエミルは見えない。

 暗示を掛けたい相手がエミルの方を向いていれば、それで良いのだが。

 それでは、プレズン軍の司令官は納得しない。

 説明の為の代理を立てる必要がある。

 そこで白羽の矢が立ったのが、セレナ。

 最初はラヴィに頼もうかと思ったが。

 エミルがまだ怖がっている上、ラヴィだと図に乗って余計な事をやらかすかも知れないと思い直した。

 アンには別に重要な役目を果たして貰う為、セレナの助手と言う事にした。

 クライスはアンとセレナ、それにエミルと具体的な作戦の打ち合わせを行う。

 蚊帳の外で退屈そうなラヴィ。

 セレナと仲が良いせいか、子供達がラヴィにまとわり付く。

 弟妹の相手をしている様で、悪くは無かった。

 それを微笑ましく見ているテノ。

 自分にも、同じ位の子供が居てもおかしくは無い。

 ただ、嫁をめとる程の身辺的余裕が無かった。

 暗殺の危険性が除去されるまで、標的と成り得る者を増やす訳には行かなかったのだ。

 何時か平和が訪れた時には、私も。

 そう考えるテノだった。




 クライス達の会議は終わり、いよいよカベールの町へ向かう一行。

 ラヴィとセレナに囲まれて、楽しそうな子供達。

 しかし町に入り、兵士の姿を見ると顔が硬直。

『大丈夫だから』とセレナが声を掛けても、その後ろに隠れたまま。

 ラヴィとセレナの腰に、ギューッとしがみ付いている。

 仕方無いので、そのまま進む。

 町の中心から少しツァッハ寄りに置いてある、大きな鍋。

 その傍で、待ちくたびれた様子のおっさん。

 軍の副司令官を名乗った、ヒズメリ。

 その職には似合わない、住民と同じ格好。

 よれよれの服に、ボロボロの靴。

 見た目はクライスの倍の年齢にも関わらず、背はクライスよりも小さく小太り。

 頭の毛も少し薄い。

 だからクライスには、ただのおっさんとしか見えなかった。

 威厳の欠片も無い姿に、疑い始めるラヴィ。

 こそっとクライスに囁く。


『本当に司令官を紹介してくれるの?』


『今は信じるしか無いな。こちらの事も信じ切って無い様だし。』


『まあ、そうね。』


 ひそひそ話が終わった後、ヒズメリに話し掛けるクライス。

『本当に連れて来たな、では行くか』と、更にツァッハ寄りの建物に入って行くヒズメリ。

 付いて行く一行。

 子供達はまだ怯えていた。




「ほう、策が有るとな。」


 建物に入ってすぐの、かなり大きな部屋。

 迎賓館に有る、ダンスホールの様な感じ。

 本陣が置かれていると思われているその場所で。

 面会して早々、司令官のソインが食い付く。

 クライスがセレナを紹介。

 会釈をするセレナ。

 すると、当然の要求。


「実際に見てみない事には、にわかには信じられんな……良し!」


 ソインが、入り口の警護をしている部下の兵士を傍に呼ぶ。

 そしてセレナに言う。


「こいつにちょっと暗示を掛けて見てくれ。それで判断しよう。」


「承知しました。」


 そう言うと、兵士の前に立つ。

 そしてジッと兵士の目を見る。

 照れくさそうな兵士。

 すると突然、兵士が必死の形相で部屋の中を駆けずり回り始める。

 呆気に取られるソイン。

『押さえろ!』と命令すると、慌てて部屋の中へ入って来た兵士達が取り押さえる。

 尚ももがく兵士。

 何やらうめいている。

 ソインが聞き耳を立てると。


「待ってくれ!お願いだ!待って……!」


「何だこれは!」


 おかしな台詞せりふにギョッとするソイン。

 セレナに説明を求める。


「どう言う暗示を掛けたんだ!」


「そ、それはですね……。」


 そこからは、エミルから聞いた内容をそのまま話すセレナ。




 兵士には、故郷に置いて来た恋人が居る。

 その彼女が突然、兵士の目の前に現れて。

 別れ話を切り出す。

 焦った兵士は幻覚と思わず、追い駆けて思い直す様説得しようとする。

 しかし、周りが急に花畑へと変わって。

 その中を逃げながら、彼女は『ずっと戻って来ないじゃないの、もう限界なの』と言って聞かない。

 その時、兵士が動けなくなる。

 そして花畑から遠ざかる様に、彼女が去って行く。




 兵士には、そう言う風に見えていたらしい。

 セレナが兵士の正面へ回り込み、暗示を解く振りをすると。

『幻だったんだ、良かった……』と漏らして、兵士が気絶。

 こっそり『こらっ!』と、エミルに怒るセレナ。

『やり過ぎちゃった、てへ』と誤魔化すエミル。

 こう言った時の妖精は、対処に困る。

 ラヴィの様にギロッと睨み付けても。

 アンの様に優しく接しても。

 不安定な動きをする。

 付き合いの長いクライスはその点、距離感を心得ていた。

『適当な奴には適当で良いのさ』と言った具合に。

 と言う訳で、暗示の凄さを示す事は出来たが。

 ソインの判断は……?




「これは凄い!やって貰おうじゃないか!」




「ありがとうございます。」


 クライスが頭を下げる。

 そして助手として、アンを推薦。

 少女が助手とは、心許無こころもとないが。

 セレナの口添えもあって、アンも同行する事に。

 ソインがセレナに言う。


「では早速、向かって貰おうか。奴等は今丘の向こう、クェンドで固まっている筈だ。」


「『固まっている』とは?」


「『密集している』と言う事だ。丘の方へ押し寄せる時は、横一列に広がりながら進んで来るがな。」


「そうですか、了解しました。行きましょう。」


 そう言って部屋を出て行くセレナ。

 去り際に、ラヴィへ一言。


「子供達を頼みましたよ。」


「任せといて。セレナも十分に活躍して来てね。良いアピールになる様に。」


「はい。心得ております。」


 出て行くセレナに、アンも付いて行く。

 クライスは、窓の外から覗いているメイに視線をやる。

 コクリと頷くと、メイもセレナの元へ。

 後は、手筈通りに。

 念の為、俺も用意しとくか。

 そう考えたクライスの姿は、それから少しの間見えなくなった。




 泥水が煮立った鍋の傍で、ラヴィと子供達が談笑する。

 同じく鍋の傍で、テノは丘の頂上を見つめる。

 戦場の最前線では、この様な攻防が行われているのか。

 執務室で話を聞くのとは、全然趣が異なる。

 やはり経験が足りんな、皇帝として。

 如何いかに自分が、安全な所から眺めているだけだったか。

 思い知る。

 民衆の苦悩を、分かった気になっていた事も。

 そんな苦悩の表情を見せるテノに、ロッシェが話し掛ける。


「立場ってもんが有るんだから、仕方無いさ。」


「そんなものか?」


「そうさ。あんたは大将なんだから、王宮でどっしり構えてれば良いんだよ。でも……。」


 そこで少し、ロッシェの本音が漏れる。

 民衆の代表が発したものとして、その言葉をテノは心に刻む事となる。




「自国の民がどんな暮らしをしてるか、たまには自分の目で確かめてくれ。伝聞じゃ伝わらない事も有るからな。」

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