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第191話 想定外

『マクテの村に在る鉱床が崩れ去った』と、クメト家当主【ムッソン・ハイス・クメト】に報告が入ったのは。

 クライス達がマクテを通過してから数日後。

 距離的に、1日で伝達されそうなものだが。

 労働者があちこちから出て来た金塊を運び出すまでに、それだけの期間が掛かった。

 すぐに報告が上げられると、ムッソンからの視察団がそれ等を見つけ全て取り上げられてしまう。

 渡したく無かった。

 採掘の腕に長けた技術者集団だからこそ、短期間で済んだ。

 後はトンズラするだけ。

 知らせを受けて視察団が到着した時には、マクテの村はもぬけの殻。

 誰も居ない。

 何も無い。

 ただ防風林だけが、村の在った痕跡を残している。

 愕然とする視察団。

 何て報告すれば良いのか、悩んだ挙句に。

 見た通りの事実だけを上奏しよう。

 想像の余地を挟むと、こちらに火の粉が飛んで来るかも知れないと危惧したのだ。

 視察団の帰る足取りは、とても重かった。




 プレズンの領域は、東西にやや横長の楕円形。

 オフォエの町は、中央よりやや東側。

 ここから街道が各地に伸びている。

 南北にも、東にも。

 西だけ若干の複数ルートがある。

 オフォエから北西に進むと、ペイドへと繋がる。

 そこからは、北と西に延びている。

 北は、〔幻の湖〕が出現する地域を避ける様にやや東を周って北の領域へ続く。

 西は、防衛上の重要拠点である城郭都市【ソウシェン】に到達する。

 オフォエから南西に進むと、マクテの村に。

 そこから西へ続き獣道の様な細い道幅へと変わった後、【ヤッシム】の村へ。

 ここもペイドが発展した煽りを受けて住民が少なく、建物も半ば朽ち果てつつある。

 ここが荒廃すれば街道も自然とすたれ、誰もここを通らなくなると言うムッソンの判断により。

 忘れ去られつつある、気の毒な村だった。

 人の流れをソウシェンに集中させれば、外敵より守り易いと言う考え。

 プレズンを取り巻く地域の内、残りは。

 北に接する部分の西半分は、幻の湖が漂うので天然の壁になっている。

 残りの東半分は、スラード家の支配する地域【セッタン】。

 プレズンの東隣は、イレイズ家が治める地域【ゴホワム】。

 どちらも王族に日和ひよっている連中だから、どうせ攻めて来ない。

 こちらが反逆の意思を示さない限り。

 そう考えていた。




 しかし『マクテ壊滅』の方が視察団から入ると、事態は一変。

 硝石採掘が王族に発覚すると、反対派に対する武器生産の手助けをしたと判断されてしまう。

 実際は、或る者から『ここを掘ればお宝が出る、我が方がそれを高く買い取ろう』と言われ。

 半信半疑でマクテを調査をさせた所、鉱床を発見。

 金に目が眩み、相手がどう言う連中かを良く精査せず話に乗ってしまっただけ。

 お宝と言われた物も、本当の所は良く分からない。

 何か、武器開発に使用するとだけ。

 それを尋ねると取引を中止されると懸念し、敢えて聞いていない。

 金儲けにはがめついが、政治的野心はそれ程でも無い。

 軍事力を強化しているのも、せっかく溜めた財産を奪われたく無い為。

 だからこその日和見派なのだ。

 神経を尖らせるムッソン。

 念の為、オフォエへ兵士を数人派遣する事にした。




 オフォエの町に着いた兵士達は、町中まちなかの慌ただしい動きに驚く。

 何でも『大地の神がお怒りなので、急いで祭壇を造っている』とか。

 何の事か分からない兵士達。

 のんびりした雰囲気の町だった筈だが。

 今は野菜収穫期の谷間なのに、てんてこ舞いとなっている。

『怪しい』、そう思った兵士達は詳しく調査する。

 そしてその内の1人が、ペイドへ状況を伝えに走る。

 その様子をこっそりと観察していた、居残りのモヅ。

 仕方無い、奴等に知らせてやるか……。

 そしてまた、気配を消した。




「大地の神だと!戯言ざれごとを!」


 怒り狂うムッソン。

 彼は神の存在を否定はしないが、肯定もしない。

『宗教が政治に絡むと碌な事が無い』、そう考えていた。

 なので。

 それまで伝承すら聞いた事の無い町でそんな動きが起こっている事を、非常に危険だと考えた。

 変な信者と、それを束ねる教祖的存在。

 生まれる前に潰さねばならない。

 懸念材料がどんどん増えて行く。

 誰だ?

 誰が仕掛けている?

 まさか、ツァッハの動きと関係が……?

 そう思ったムッソンは、ソウシェンへ伝令を。

『何としても、ツァッハからの【侵攻】を阻止せよ』と。

 侵攻?

 それをしているのは、クメト家側では?

 そう思うかも知れないが。

 真実は、クライス達の旅路を追って行けば自然と分かるだろう。




 ヤッシムの村へ到着した一行。

 ツァッハに居た使い魔が、こちらのルートを逃走経路に指定した理由。

 それをつくづつ感じていた。

 確かに追い辛い。

 人間だろうと動物だろうと。

 そして廃村状態の建物達。

 住民はどうやって暮らしているのだろう?

 ラヴィが疑問を持つ。

 畑も果樹も無い。

 農業で生計は立てられない。

 だとすると、狩猟?

 うーん。

 頭を抱え出す。

 その一方で、セレナは怪しい視線を感じていた。

 獲物を狙う様な、突き刺さる目付き。

 何処から……?

 すると。

 こちらに飛び出して来る者、数名。


「出て行けー!」


 びっくりする子供達。

 ギャアアアアッ!

 大声を上げる。

 村内に反響する叫び声。

 動揺してバタバタっと羽搏はばたく鳥達。

 不味いっ!

 見つかる!

 各々そう吠えながら、飛び掛かって来た者は姿をくらました。

 その言葉に反応するクライス。

 見つかると不味いのか?

 住民が?

 と言う事は、ここも危険だな。

 さっさと通り過ぎよう。

 そう考え、皆を街道の続きへ誘導。

 すると目の前に、大きなクマが現れたと思うと。

『バターン!』と倒れた。

 少し離れた所から、ジッと見るクライス。

 クマの首の後ろ側が、すっぱりと切られている。

 確かに、見つかると不味い奴が居る様だ。

 念の為、メイに不審な魔力の出所が無いか探って貰う。

 そして自身も、探索の網を展開。

 辺りを探ってみるが。

 引いた住民以外、何も居ない。

 メイも、特別変な物は感じなかったと言う。

 クマをもの欲しそうに見ている住民を見つけると。

『欲しいのなら持って行きな』とばかりに、クマの巨体を放り投げるクライス。

 手で投げたのでは無く、横たわるクマの下の地面から金の柱を瞬時に伸ばして押し出しただけ。

 それでも、かなりの距離を飛ばすのには十分。

 すかさず数人が集まると、素早く解体して各自持ち帰って行く。

 やっぱり、そうやって暮らしているのかあ。

 呑気に考えるラヴィとは逆に。

 感じた視線が住民とは別であると確信したセレナは、得体の知れない恐怖に震えていた。

 セレナの観察眼に感心しつつも、安心させる為クライスが声を掛ける。


「大丈夫か?」


「え、ええ。」


 セレナには、震えていると言う自覚が無かったらしい。

 肩に置かれたクライスの手の振動で、漸く気付く。

 クライスが言う。


「殺気に気付くとは、流石だな。」


「殺気?俺はそんなの感じなかったぞ。」


 真顔で答えるロッシェ。

『なあ?』と同意を求められ、『ああ』と答えるしかないテノ。

 実はテノも感じていた。

 命を狙われる事が多いので、そう言うのには敏感になっていた。

 では何故、クライスは殺気を見破れなかったのか?

 それは単純明快。

 殺気ではあったが、それはこちらでは無くクマへと向けられていたのだ。

 つまり見えない者は、クマを倒そうとしていただけ。

 それをセレナとテノは、自分達に向けられていると勘違いした。

 それ程敏感であると言う、裏付けでもあるが。




 ここでクライスは、大きな勘違いをしている。

 住民が不味いと言った対象は、クマの方だったのだ。

 深読みをし過ぎた為、見誤ってしまった。

 そうさせた原因は、モヅからの知らせ。

『クメト家の奴等が色々調べているぞ』と、ヤッシムへ着く直前にメイがメッセージを受け取っていた。

 警戒モードが、無意味に思考を働かせた。

 視線の主が住民では無いと判断したまでは良かったが、住民の恐怖の対象がクマの他にいると考えた。

 住民の思考は至って単純。

 怖い物を怖がる、それだけ。

 単純であるからこそ誤解したのかも知れないが。

 実は、他にも原因が有る。

 メイが嘘を付いたのだ。

 本当は微弱な魔力を感じていた。

 でもそれは、クライスが感じられる魔力と質が違う。

 要するに、魔法使い絡み。

 現時点ではまだ、クライスに明かす訳には行かなかった。

『ごめんね』と心の中で思い、メイはペロッと舌を出した。

 それに気付く者は居なかった。




 怯える子供達をセレナがあやす。

 子供達に一番好かれているのはセレナ。

 次に、メイ。

 逆に最初のインパクトが悪かったのか、クライスの方にはちっとも寄り付かない。

『嫌われてやんの』とラヴィに揶揄からかわれるが、気にしない。

 子供達が安心して進めるなら、それで良い。

 あくまでも淡々としたスタイル。

 貫く姿勢に感心するのは、アンだけだった。




 一行がどんどん進んで行く先は。

 2つの道が交わる場所。

 ソウシェンから南西、ヤッシムから北西に進み辿り着く地。

 それが本来のプレズン最西の町、【カベール】。

 子供達が逃げて来たクェンドは、その西隣。

 しかしカベールには、大勢のプレズン軍兵士が展開している。

 さて、どうする?

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