第190話 変わり果て続ける村
クライスからの説明内容が事実なら。
ツァッハの東方が、奴等に攻撃され。
更にプレズンから軍が侵攻し、占領した。
そう言う事になる。
問題は、最初に攻撃を加えた奴等。
ケミーヤ教の連中と考えて間違い無い。
負の魔力の供給元を絶たれたソーティ王子を上手い事操り、クェンドの町で暴走させ建物を破壊した。
見境無い攻撃に晒され、住民も逃げ惑った事だろう。
魔法使いから監視する様言われていた使い魔が、その前後にどう立ち回ったかまでは。
クライス達も掴んでいない。
メイを連れていれば、或いは話を聞けるかも知れない。
オフォエの町の問題を解決した翌日早々に、出発する一行だった。
『ここを離れる訳には行かない』と言う事で、モヅは居残り。
元々この周辺を監視する役目が有り、問題解決の際に神の使いとして祭り上げられた関係もあって。
町の行く末から目を離せなくなった。
隣のマクテもペイドも管轄内だが、そう言う事情で付いて行けなくなり悔しがるモヅ。
子供達に『元気でな』と声を掛けると、ギューッと抱きしめられシクシク泣かれる。
涙でぐしょぐしょにされながらも、子供達を元気付けるモヅ。
小さなモグラビットに見送られながら、子供達も一行に付いて行った。
途中で三叉路へ到達。
北西なら、クメト家の住まうペイド。
しかし今はテノを連れている上、プレズン軍がツァッハに攻め入っている。
そちらは避けた方が得策。
と言う訳で、南西のマクテへ向かう事に。
オフォエが畑だらけだった様に、プレズンは基本的に平たい盆地。
緩い丘陵地帯に囲まれている。
地形の関係上森林は少なく、見通しが良い。
しかしマクテ付近は吹き下ろしの風が強いので、周りに防風林が形成されている。
子供達がモヅを待っていたのは、その中。
見通しの良い中隠れられるのは、そこ位だった。
マクテ自体はそれ程大きく無い。
すぐ北には住むのに快適な首都があるので、皆そこへ流れている。
では何故マクテに人が住んでいるのか?
防風林を拵えてまで定住する訳。
それは、村に入ると分かる。
「わあーっ。」
思わず歓声を上げるラヴィ。
村を入り口から眺めると。
直径が100メートル以上もあろうかと思う程大きい、渦巻き状に段々となった造り。
それは下へ、下へと続いている。
所謂、露天掘り。
所々に、居住スペースを確保する為の開けた場所が。
そこに労働者は暮らしているのだろう。
マクテはその姿の通り、鉱床の村。
何を掘っているのか?
それは……。
中心へと出っ張っている滑車が、何かを引き上げる。
それは、縄で吊るされた籠。
中に入っているのは、白い物体。
ラヴィ達は何か分からないが。
クライスとアンは感付く。
硝石だ。
錬金術師の間では、《硝酸カリウム》とも呼称される物。
木炭・硫黄と共に、火薬の原料として使われる。
黒色火薬の中で酸化剤として機能するそれは、自然界では取れる量が少ない。
故に、鉄砲などの兵器はこの世界に存在していなかった。
錬金術師は、人工的に生み出す術を持っていたが。
大量殺戮に繋がるとして、世間一般に伝える事を禁止。
それは、ヘルメシア側で活動する者達も承知している。
なのに曽てクライスは、その兵器に狙われた事がある。
デュレイ救出の時。
大量の銃口が向けられた。
その疑問の答えが得られた気がする。
ここに供給元が誕生していたのだ。
しかも、採掘が始まったのはここ最近の様だ。
掘り進んだ後がまだ新しい。
とするとクメト家は、王族へ気付かれぬ間に反対派へと鞍替えを……?
そもそも誰が、この鉱床を発見したのか?
疑問が山程出て来る。
しかし今は。
さて、どうしたものか……。
アンと顔を見合わせるクライス。
クメト家が主導しているなら、ここも危険だ。
取り敢えず村を抜けよう。
そう判断した。
『防風林の中を移動する事にした』と、皆に伝える。
滅多に見られない村の様子を、じっくり散策したい。
そう思っていたラヴィは、少し反対した。
ロッシェも同じく。
対して、何か恐ろしい物を感じたテノは回避を主張。
セレナも賛同する。
子供達は。
異様な村の風景に、委縮している。
逃げて来た時は夢中だったので、中をじっくり覗く余裕など無かった。
出来ればすぐに離れたい。
壊されて行く我が町の様子を、思い出したのかも知れない。
子供達の表情を見て、ラヴィも回避を承諾。
『子供達に何かあっては事でしょ』とセレナに諭され、好奇心が強かったロッシェも渋々承諾。
村の人達に見つからぬ様、静かにゆっくりと防風林の中を移動。
反対側へ回り込み、ツァッハ側へと出る事に成功した。
「ちゃんと説明して。」
一応理由を尋ねるラヴィ。
でないと納得しない男が、1名居る。
自分もこの際聞いておきたい。
錬金術師が揃って回避を選んだ訳を。
クライスが言う。
「あれは、火薬の原料の1つだ。」
「あの、『ドッカーン!』って言う奴?」
火薬は、全く存在しない訳では無い。
この世界でも、祝賀時や緊急時に撃たれる空砲として用いられている。
それはあくまでただの道具であり、兵器では無い。
火薬が兵器として使われる事の危険性を。
アンが、銃を錬金術で再現しながら説明する。
最初は何と無く聞いていた一同も。
見る見る顔が青くなって行く。
呑気に見学しようと主張していたロッシェも。
空砲の大量生産位にしか考えていなかったラヴィも。
そして何より。
戦闘をより悲惨なものに変える材料が、こんな身近に存在していた事を知らされたテノ。
この世界の支配構造が、簡単にひっくり返ってしまう。
それ程の衝撃。
そこで、クライスが提案。
流石にこのまま見過ごせば、パワーバランスが崩壊してしまう。
この世界にはまだ早い。
社会が、これを制御出来るレベルまで成熟していない。
だから。
全会一致で、提案は採択された。
悪いな、あくせく働いている人達よ。
クライスは心の中でそう思いながら。
実行。
鉱床の奥深くで作業していた労働者から、外へ知らせが入る。
あれだけ大量にあった硝石が、一部を除いて消えてしまった。
崩落の危険がある。
慌てて労働者は、露天掘りの外側へ。
皆が無事に避難を終えたのを確認した様に。
ズズズーン!
周りから崩れて行く。
そして土砂が、中央を埋め尽くした後には。
土砂崩れの中から顔を出す、純金の塊。
思わぬ宝を見つけ、大喜びする労働者達。
これだけあれば、何年分かの稼ぎに相当する。
早速掘り出しに掛かる。
それを見て、ほくそ笑むクライス。
働き場を奪った代わりにお詫びとして、金に変換した硝石を地中へわざと残した。
これで許してくれ。
哀願の言葉をボソッと呟いて。
クライスは、村を離れる一行を追い駆けた。
それから、マクテの村はどうなったか?
良くは分からない。
ただ、城郭の様に囲んだ跡。
丸く描かれた林の中に。
お花畑が出現した、とだけ記しておこう。




