第189話 犯人は、神の使い?
クライスは急遽、宿屋の主人と交渉。
子供達の事情は伏せて。
『大事な交渉先のお子さん方を預かる事になったので、申し訳無いがもう1部屋用意して欲しい』と。
難色を示す主人だったが、金を積むと顔色を変える。
『あの部屋で良ければ』と、1階奥の部屋に案内された。
ここは厨房に近く、変な虫が良く出るので誰も泊まりたがらないとの事。
クライスは快諾。
そう言う事なら、宿の人間も近寄らないだろう。
大声を上げても『また虫が出た』としか思わない。
匿うには絶好の場所。
念の為に、メイに結界を張って貰う。
『あたし本来の技じゃ無いんだけどねえ』とブツブツ言いながらも、クライスの頼みなので断れない。
後はモヅに、虫を処理して貰おう。
メイは乙女なので、ネコの姿をしているとは言え虫など取らない。
貸しと言う事で、モヅがパクパク。
その後は、埃や塵をクライスが掃除。
錬金を清掃に用いるのは贅沢かも知れないが。
金が一番、人体に害を及ぼさない。
粒子に変えて、壁の装飾の上塗りに使った。
綺麗さっぱりになった部屋をジロジロ眺めて、『すっげー!』と歓声を上げる子供達。
セレナに子供達の事を任せ、クライスとロッシェは対策本部へ向かう。
これ以上待たせると、またラヴィに難癖を付けられてしまう。
そんなの御免だ。
『悪いな』とモヅをむんずと掴むと、一目散に走っていった。
まだかしら……。
まだかしら……。
焦りで、段々目が泳いで来るラヴィ。
腕組みをし目を閉じながら、身じろぎ1つしないテノ。
アンはまだ、膝の上のエミルを慰めている。
早くしなさいよ!
ラヴィが心の中でそう叫んだ時。
「お待たせしました。」
クライスが小屋の中へ入って来る。
続いてロッシェも。
デレスキーの方を見て、ニコッと笑うクライス。
仕方無いので笑い返すデレスキー。
その目の前に。
ドンッ!
叩き付ける様に置かれた物が。
それを見て、自警団の連中が後ろへ飛び退く。
モグラ……じゃない!
変だ!
後ろ足がウサギみたいになってる!
何だこれ、気持ち悪い!
本能でそう判断したのだろう。
自警団は、後ろの壁に張り付いたまま動かない。
寧ろ震えている。
クライスが話す。
「この者が原因の様です。」
『打ち合わせ通りに』とクライスがボソッと言う。
仕方ねえなあ。
子供達の為だ。
頑張るか。
モヅが喋り出す。
「我は、大地の神の使いなり。」
言葉を発した事で、更に混乱する自警団。
『静粛に!』とクライスが告げると、静かになった。
モヅが続ける。
「神に感謝せず、供える者すらおらぬこの町を。どうしてくれようか……。」
「何ですって!」
思わず叫ぶデレスキー。
この辺りで神など聞いた事が無い。
そんな伝承にも心当たりが無い。
何を言い出すのか?
皆目見当が付かない。
黙って続きを聞くしか……。
そうやって、自警団は身構える。
更に続けるモヅ。
「我が神に野菜を献上した所、神は甚く気に入られた。」
「よ、良かった……。」
取り敢えず安心するデレスキーだが。
まだ続きがありそうだ。
そして。
「同時に惜しまれた。『これ程の物を無くす事になるのか』と。」
「な、無くす!」
「左様。主等は神の存在に気付かず、神からの恵みとも思っておらぬ。違うか?」
「いえ!いえええ!滅相も無い!」
「ならば何故祭壇が無い?何故取れた野菜を献上せぬ?だから我が代わりに献上したのだぞ?」
穴を掘って野菜を盗んだのでは無く。
神への献上品を頂いた。
そう言うシナリオ。
クライスは神に責任を押し付けた。
『天罰が下るぞ!』とモヅに言われたが。
とっくに下ってるよ。
そう言い返す気も起きない。
モヅは、神の存在を信じているらしい。
神が魔法使いと引き合わせてくれたのだと。
何の神がだ?
突っ込みも返す気は無い。
ただ淡々と、事態の打開を図るだけ。
後で文句はたっぷり聞いてやる。
だから言う事を聞け。
子供達を助けたいならな。
それだけを言った。
案の定、クライスの思い通りに。
その場に座り込み、平伏す自警団。
呆れた顔のラヴィとテノ。
苦笑するアン。
「確と申しつけたぞ。それでは。」
そう言い残し、モヅは小屋の左手奥隅にある穴から出て行った。
その後は、急に騒がしくなる自警団。
輪になって会議を始める。
「この穴は、神の使いの出入り口だったとは!」
「それよりも畑だ!あそこの穴の正体は!」
「こりゃあ、とんでもない事になって来やがった……。」
そして。
「悪いな姉ちゃん!俺達、町中に知らせねえと!」
『ありがとよ!ゆっくりしてってくれ!』と言い残し、デレスキー達は小屋から飛び出した。
そして各自散り散りとなって、町中に神の存在等を知らせに回った。
残された者達は。
まず、ラヴィが。
「まーた、大事にしてくれちゃって。」
「良いだろ、これで全て丸く収まる。」
あくまで冷静なクライス。
ロッシェも言う。
「俺もやり過ぎだと思うぜ、流石に。ホントに祭壇を拵え始めたらどうすんだよ。」
「その時は俺達も居ない。そうだろ?」
「へいへい。」
こりゃこれ以上言っても無駄だな。
さっさと諦めるロッシェ。
漸く、テノが発言。
「今まで、こんな行き当たりばったりの事を続けて来たのか?」
「まあね。呆れるでしょ?でもクライスにとっては、当然なのよ。」
「良く分からん。うーむ……。」
ラヴィの返事に悩み出すテノ。
緻密な戦術とは何だったのか。
これでは、その場しのぎの方が強いではないか。
戦に於いては、定石すら通じない相手だと言う事か?
錬金術師と言う者は。
恐ろしい、恐ろしい……。
ブツブツ言い始めるテノ。
そこへひょこっと、穴から顔を出すモヅ。
「どうだい、おいらの演技も満更じゃ無いだろう?」
そう言って自慢するが、まだラヴィ達に自己紹介をしていなかった事に気付くと。
シュタッと右手を上げて。
「おいらはモヅってんだ。使い魔をやってる。宜しくな。」
「へえ、使い魔なんだ。」
ラヴィはモヅの傍へ寄って、しゃがむと鼻をツンツン突く。
怯むモヅ。
「何だ、こいつ!驚かねえのかよ!」
その光景に、小屋は笑いに満ちる。
しかし、のんびりしてはいられない。
『色々知らせたい事が有るんだ』と、クライスに宿まで戻る様促され。
ラヴィ達は小屋を後にする。
モヅは穴から先回り。
そこから、宿の食糧庫に繋がっているのだ。
宿へ戻ると、セレナが子供達を風呂に入れた後だった。
衣服は洗濯中。
代わりに宿の主人から適当な衣服を借りて、それを着させている。
子供達の笑顔から程遠い真実を、この後聞かされ。
困惑するラヴィ達。
すぐに作戦会議。
明日は、早くに出立する事となった。
それからは、旅の中で煮詰めて行く事に。
今夜は早く寝る事にした、クライス達だった。




