第188話 小さな証人達
「クェンド?」
「そう、クェンド。」
「そこって確か……。」
ロッシェは考える。
記憶があっているなら。
その町は、元々ゲズ家が支配する地域〔ツァッハ〕の東方に位置する。
しかしテノからの情報で、プレズンに組み込まれたばかりの筈。
その町の住民が、どうしてここまで……?
ここは、プレズンの中央付近の町。
突っ切って来たとでも言うのか?
そういや、モヅの言葉の中に。
『着の身着のままで逃げて来た』。
子供達はその通り、寝間着姿に見える。
夜遅くに急襲され、慌てて飛び出したのだろう。
集団で逃げている途中で、親と逸れたのか?
それ以上は想像の域を出ない。
直接話を聞かないと。
こんな時は。
セレナが子供達の前に進み、しゃがんで話を聞く体制を取る。
相手が女性なので、少し心が緩んだ様だ。
顔にホッとした表情が現れている。
そのままセレナが尋ねる。
「良かったら、名前を教えてくれないかな?」
お互いの顔を見合う子供達。
この人なら。
モヅを虐めなさそうだし。
順番に名乗る。
「僕は【スーゴ】。」
「私は【ニーシュ】。」
「俺は【ワス】。」
「スーゴに、ニーシェに、ワスね。ありがと。」
ニコッと笑うセレナ。
話を続ける。
「それで、どうやってここに来たのかな?」
そう言われて。
グスンと涙ぐむスーゴ。
彼の頭を撫でるニーシェ。
泣くのをグッと堪えて、ワスが答える。
「良く分かんないんだ。気が付いたら、ここに居て……。」
ジッとモヅを見る。
モヅと出会ったらしい。
何処かで隠れてモゾモゾしている時に。
モヅが言う。
「元々《この辺》は、俺がご主人から任されてたんだ。監視をな。」
「この辺って、プレズン全体の事?」
セレナが聞き返すと。
モヅは否定する。
「流石のおいらも、プレズン全体はカバー出来ねえよ。ここ〔オフォエ〕と、その西の【マクテ】に【ペイド】。それ位かな。」
オフォエから北西に進むと、プレズンの首都ペイドに着く。
南西に進めば、マクテの村に出る。
普通は栄えているペイドを経由するが、どうやらそこは危ないと思った様だ。
マクテを通って来たらしい。
しかし、子供3人では難儀な旅立っただろう。
誰がそのルートを指示したのか?
それは。
「連絡が有ったんだ。『逃がしてやってくれ』ってな。」
モヅの話によると。
ツァッハ担当の使い魔から緊急連絡。
町が次々と襲われている。
その大事な《証人》をそっちへ逃がすから。
助けてあげて。
私は、現状をご主人に報告するから。
だそうだ。
切羽詰まった様子が漂っていた。
これはただ事じゃ無い。
証人と落ち合う場所に指定された、マクテ。
ツァッハ側の入り口で、隠れて待っていると。
トボトボと歩いて来る3人の子供。
そして入り口の傍で座り込み、木陰へと潜む。
子供達から、その使い魔の魔力を感じる。
それで証人はこの3人だと確信し、近寄って声を掛ける。
少し驚いた顔をしたが、〔ここに行く様指示した使い魔〕と言うクッションがあったお陰で。
モヅの話を聞いてくれ、素直に従ってここへ来た。
と言う経緯。
一体この3人は、何を見たと言うのだろう?
使い魔が必死に逃がす程の何か。
それは。
恐怖に堪えながらも、涙ぐんでいたスーゴが語ってくれた。
僕達、見たんだ。
夜中にね、『ドーン!ドーン!』って言う凄い音がするからね。
窓からね、外を覗いたんだ。
そしたらね、《変なおじいちゃん》がね、暴れてたの。
そこら中の家をね、勝手にね、壊しちゃうの。
『ガーン!』ってグーで叩いてね、そしたら家が『ボーン!』ってなってね。
『あわわ』ってなってたらね、お父さんが『逃げろー!』って大声で言ったの。
それでね、窓からね、ゴロンってね、出たの。
お父さんとお母さんをね、探したんだけどね、居なくって。
その時にね、ニーシェとね、ワスとね、会ったんだ。
2人も町のみんなを探してたんだって。
でも見つからなくって。
その時にね、変な鳥さんにね、『危ないから走りなさい』って言われてね。
なーんにも考えないでね、走ったの。
そしたらね、クェンドの町からね、出られたの。
『お父さーん!お母さーん!』って呼んだんだけどね。
真っ赤な火がね、『ボウッ!ボウッ!』ってね、うるさくってね、声が消えちゃうの。
ショボーンってなってた時にね、鳥さんに言われたの。
『私の仲間が居るから、そこに行きなさい、お父さん達は私が助けるから』って。
『そこに居ても、あなた達には何も出来ないから』って。
悔しいけど、3人で話して決めたんだ。
助けを呼びに行こうって。
それでね、鳥さんの言う通りにね、行ったんだー。
そしたらね、トコトコってね、モヅがね、『迎えに来たぞ』って寄って来たんだ。
『良かったあ』って思ってね、モヅの後ろにね、付いて行ったの。
この町に入ったらね、『ここで隠れてろ』ってね、この小屋に入れられたの。
『怒られないの?』って聞いたんだけどね、『任せとけ』って言われたの。
そしたらね、お腹が空いてね、畑が遠くに見えてね、つい食べちゃったの。
ごめんなさい!
ほんとにね、ほんとにね、お腹が空いてたんだー。
我慢出来なかったの……。
その後はね、モヅがね、『俺が野菜を持ってきてやるから、もうここから出るなよ』ってね、言ったんだ。
だからね、僕達ね、怒られない様にね、ジッとしてたの。
だからね、モヅが悪いんじゃ無いんだ。
僕達のせいなんだ。
モヅを怒らないで!
お願い!
お願いだよう……。
グスン。
最後にまた涙目になりながらも、話してくれたスーゴ。
その時味わった恐怖が蘇ったのか、ニーシェとワスも泣きそうに。
慌ててあやすセレナ。
深刻そうに話を聞いていた、ロッシェとクライス。
ロッシェが切り出す。
「ヤバいんじゃねえか、これ?」
「ああ。相当な。」
真剣な目付きになるクライス。
もう少し話を聞きたいメイは、あやすセレナの横をすり抜けてスーゴに話し掛ける。
「変なおじいちゃんが暴れてたって言ったわね。」
「うん。グスッ。」
「何で『おじいちゃん』って分かったの?」
「だって、長ーいお髭とね、白ーい髪の毛だったんだ。あと顔もしわっしわだったよ。」
「私も見たよ。」
「俺も。」
ニーシェとワスも目撃したと証言。
その後に、ワスが付け加える。
「変なじいちゃんだったよなー。筋肉盛り盛りでさ。道具も持たないで、家を壊しちゃうんだぜ。」
「おじいちゃんなのに、筋肉が盛り上がってたの?」
メイが聞き返す。
ワスが即答する。
「そうなんだよ。だから変な奴って思ったんだ。……そう言えば!」
何かを思い出したらしい。
ワスが言った。
「じいちゃんの傍に、変な奴が居たなあ。こーんなの被って。」
そう言って、セレナの身に着けているローブを指差す。
顔を隠すためのフード付き。
その姿を想像して、セレナは思い出す。
スラッジで、クライスに一杯食わせた老人を。
ロッシェも感じた様だ。
セレナが聞いてみる。
「顔は見えた?」
「うーん……。」
考えるワス。
その後、子供達の中で会議。
しかし返って来た答えは。
「顔までは、見えなかった。ごめん。」
「謝らなくて良いよ。ありがとう。」
子供達の頭をそれぞれ、優しく撫でてあげるセレナ。
思わず泣き出す子供達。
今は思い切り泣かせてやろう。
そう思うクライスだった。
子供達の気持ちが落ち着いた所で。
これからの事を話し合うクライス達。
まずセレナが切り出す。
「モヅは、ラヴィ達が居る対策本部へ行ってもらうとして。」
「決定かよ!」
「当たり前でしょ!子供達を突き出す気?」
「そ、それは……。」
損な役回りに、不満ながらも従う他ないモヅ。
セレナは続ける。
「町を襲っている奴は……。」
「間違い無い。ソーティ王子だな。」
確信を持って告げるクライス。
後は。
「あの時の老人も一緒だな。とすると、あの亀を再利用……。」
ブツブツ独り言モードに入るクライス。
そうか、その手があったか。
考えれば考える程、老人を手強く感じる。
だとすると、かなり骨が折れるな。
面倒臭い事になった。
後は、ラヴィ達が納得するか。
クライスの気苦労を察するロッシェ。
クライスの肩に手を置いて言う。
「まあ何とかなるだろ。と言うか、何とかするさ。」
「そうだな。」
ここでもロッシェに救われる、クライスだった。




