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第185話 部屋割り、小屋割り

「ごゆっくり。」


 宿屋の受付で、主人が頭を下げる。

 幸いにも、部屋を3つ確保する事が出来た。

 帝都から新規に旅立つまでは、騎士と使者と言う立場で動いて来た。

 その前は行商人だったが、人数が4人と少なかった事も有り。

 宿には滅多に泊まらなかった。

 それは、なるべく隠密に行動する必要が有ったからもあるが。

 部屋決めで揉める事は無かった。

 今回の旅は、宿屋に宿泊する回数が増えるだろう。

 装っているとは言え、現皇帝を頻繁に野宿させる訳には行かない。

 それに野宿は、襲って来る隙を夜盗に与える事にも繋がる。

 安全に、それも急ぐ為。

 宿屋は必須。

 だからこそ、今の内に部屋割りを固定して置く必要がある。

 そしてそれは、新たな問題を引き起こす。

 それは。




「お、俺?」


「それしか無いでしょ。」


 ラヴィに主張を通され、困惑するロッシェ。

 そう、『テノと一緒の部屋になるのは誰か』。

 ここで意識の差が出る。

 テノは独りの方が良い。

 でもそれでは、部屋数が増えてしまう。

 行商人が2人部屋を1人で泊まる行為も、誤解を生んでしまう。

 ならば、誰が適するか?

 女性は皆、拒否権を発動。

 大人であるテノの力に抵抗出来ない。

 テノを信頼していない訳では無い。

 でも、間違いの可能性は少しでも潰さねばならない。

 ではクライスか?

 そうなると、ロッシェが誰となるかで結局揉めてしまう。

 結論。

 テノと一緒の部屋になるのは、消去法でロッシェしか居ないのだ。

 後は、クライスとアンの兄妹。

 ラヴィとセレナのコンビ。

 すんなり収まる。

 後は、テノが納得するかだけなのだが……。


「同行させて貰っている身だ。文句は言えまい。従おう。」


 あっさり受け入れた。

『宜しく』と握手を求められるロッシェは、戸惑いながらも『宜しく』と応じる。

『今の内に、取り入っておきなさいよ』と、耳元でボソッとラヴィに呟かれるロッシェ。

 ハハハと笑うしか無い、ロッシェだった。




 3階建ての2階に、それぞれ泊まる事となった。

 早速、部屋に荷物を置く。

 クライスは窓から、対策本部とやらが在る小屋を確認しようとするが。

 部屋とは反対方向の廊下側に在るらしく、ここからは見えない。


「兄様、悪い癖。」


 ポツリと漏らすアン。

 安全確認が体に染み付いているクライス。

 何気無い動作のつもりでも、アンには気になるのだろう。

 済まんな、心配を掛けて。

 心の中で謝りながらも、クライスは廊下へと出る。

 同じ様に、ラヴィも廊下に居た。

 部屋に合わせて、等間隔で窓が並んでいる。

 その内の1つを、そっと覗いていたラヴィ。

 少し寂しそうだった。

 現在の旅の目的からか。

 それとも、世界統一と言う野望のゴールが未だに見えないからか。

 気にはなったが、詮索しない事にした。

 それより、今は。


「何か見えるか?」


「ああ、居たの。」


 ラヴィは、ボーッとしていた様だ。

 一旦クライスの方を見やるが、再び目線を窓の外へ移す。

 そして見下ろす。

 木の板の上に茅葺かやぶきされた屋根。

 それは小屋の大きさからはみ出ている為、上からは様子が分からない。


「ご覧の通りよ。」


「やはり、直接乗り込むしか無いか。」


 クライスはそう漏らすと、ラヴィと同じ様にボーッと見つめる。

 その横顔も、ラヴィと同様に寂しそうだった。

 彼には彼なりの思いがあるのだが。

 それは悟られてはいけない。

 恋心では無く。

 望郷の念でも無く。

 ただの《後悔》だった。




 そんな2人をそっと見守る影。

 セレナだった。

 切なく映る2人の姿を見て、声を掛けられない。

 間に入れない空気。

 どうしよう。

 もじもじしていたその時。

 空気を読まず、ぶち破る者。


「おーっす!どうした?何か見えるか?」


『こら、ロッシェ!空気を読みなさいよ!』


 そう心で叫ぶが。

 これは好機。

 どさくさに紛れて、自分も混ざろう。

 切っ掛けをくれたロッシェには、後で感謝しよう。

 こっそりと。

 セレナはそう思う事にした。




「何だ、見えないのか。」


「そう言う訳だ、ロッシェ。早速乗り込むぞ。」


「乗り込むって、物騒な……。」


 急にやる気を見せるクライスに、『何か有ったな』と思いつつも乗っかるロッシェ。

 こんな時、ロッシェの能天気さは有り難い。

 アンとテノも、すぐに部屋から出て来る。

 6人全員揃った所で、一旦宿屋を出て隣の小屋へ。

 入り口のドアは開けっ放しになっている。

 その傍に、膨れっ面のメイがちょこんと座っている。

 宿屋の主人に、『申し訳ありませんが、動物はちょっと……』と断られてしまったのだ。


「あたしだけ野晒しにする気?酷ーい!」


 文句を垂れる先は、エミル。

 宿屋の主人には姿が見えないので、こっそりクライスの部屋に入るつもり。

 なので、気楽な身。

 愚痴を聞く事位しか出来ないけど。

 それで気が済むんなら、良いか。

 エミルなりの気遣い。

 それが反って、メイの反感を買っている事を知らずに。

 プンスカ怒っているメイに、クライスが声を掛ける。


「ごめんな、融通が利かなくて。」


「ほんと、その通りだわ。」


 まだ機嫌が悪い。

 クライスでは手に余る。

 そこで、アンが。


「これでも食べて、機嫌を直して。ね?」


 差し出されたのは、取って置きの魚の姿煮。

 何時いつの間にこしらえたのやら。

 この世界にも魚はいるが、調理法は焼き魚か干し魚が精々(せいぜい)。

 保存食扱い。

 生なんて、滅多にお目に掛かれない。

 なので、姿煮なんて物は珍しい調理法。

 しかも錬金術師お手製なのだ。

 特別製なのは確か。

 試しにペロッと舐めてみる。

 気が付くと、がっついていた。

 すぐに食べ終わると、ご機嫌になるメイ。

 ネコ扱いされたのが少し引っ掛かるが。

 それを打ち消す満足感を得られたので、良しとしよう。

 感謝の意を込めて、アンに伝える。


「今、中は誰も居ないわよ。探ってみれば?」


 言われた通りに、アンがスルッと中へ。

 それを隠す様に、クライス達が表で談笑。

 時間を稼ぐ。

 中を見渡すアン。

 内部は縦横3メートル、高さ2.5メートル程で、やはり小屋の流用らしい。

 置かれているのは。

 木製の椅子、それも1人掛けが4つ。

 木製のテーブルを挟んで両脇に2つずつ。

 テーブルもそれ程大きく無く、縦2メートル、横1メートル程。

 仰々しい看板の割には、ただの休憩所に見える。

 拍子抜けするアン。

 ホッとしたその時。

 部屋の隅で、何かが動いた様な気がした。

 小屋には入り口の他に、縦横50センチ程の小窓が1つ。

 それも右側の壁にしか付いていないので、薄暗い部屋の内部。

 その隅を、目を凝らしてジッと見つめる。

 定点観測。

 すると。


「……モグラ?」


 左隅の辺りに。

 体長30センチ程の、寸胴ずんどうが見える。

 それに付いている、土を掘り易そうな前足。

 鼻は尖っていて、目はクリクリッと丸い。

 アンがそう判断するのも無理は無い。

 しかし、部屋の中に何故モグラが……。

 そう思った時。


『あー、疲れたなー。』

『全くだ。』

『何時まで続くんだ?もうウンザリなんだが。』


 畑を見回っていた自警団が戻って来た。

 きちんと確認出来ないのは悔しいが。

 一時撤退。

 素早く外へ出るアン。

 入れ違いで、自警団の男達が小屋へ。

 危ない所だった。

 見つかる前に外へ出られた。

 そう思った矢先に。




「何だ?侵入の後があるぞ!」




 部屋の中で叫ぶ男。

 慌てて他の仲間を呼びに行く者も。

 クライスは、不安気なアンに対し首を振る。

 アンの侵入はバレていない。

 別の何かの仕業。

 やっぱり、見間違いじゃ無かった。

 あれのせいだ!

 一旦小屋から離れる一行。

 アンが、目撃したモグラの様な物について話す。

『うちに任せて!』と、エミルがピューッと飛んで行く。

 小屋の中に飛び込むと。

 隅っこ、隅っこ、と。

 ……ん?

 発見!

 入り口から見て、左奥の角。

 何故かそこには、穴が開いていた。

 うちは通れるかな……無理みたい。

 取り敢えず、クライスに報告だ。

 ピューッと小屋を飛び出し、一目散にクライスへ向かうエミル。

 しかし、それをこっそり見る者が。

 さっきアンが目撃した、モグラの様な物。

 一体、何を企んでいるのか?

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