表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/320

第177話 時の鎖

いったあ……。」


 クライスが声を掛けた方から聞こえる声。

 その主は。

 この日に帰国の途へ就いた筈のラヴィ。

 それにセレナ、ロッシェ、アン。

 ユーメントまでも居る。

 メイを胸に乗っけて。

 皆、尻餅を付いた格好。

 でも服装はまちまち。

 ラヴィとセレナは、パジャマらしき物。

 アンは、普段着。

 ロッシェは、傷1つ無いグスターキュ帝国騎士の鎧。

 ユーメントは、出発の時と同じ騎士の格好。

 5人の中で、何が起こったか理解出来る者は居なかった。

 逆に、悲鳴の様な大声を上げる。




「あれっ?今って夜じゃないの?」

「きゃあっ!誰っ!勝手に寝室に入ってるのはっ!」

「騎士のみんなは?何処行った?」

「確か両親が見送ってくれて、それから……。」

「はて?王宮へ戻る途中だった筈なのだが……?」




 話す内容から、ここへ飛ぶ前のシチュエーションがバラバラだと分かる。

『しょうが無いなあ』と思うクライス。

 こんがらがった頭をリセットさせる為に。

 5人へ向かって怒鳴る。




「『お帰り』って言ってんだろ!このボンクラ共!」




 〔ボンクラ〕と言う言葉に過剰反応する者、2人。

 ラヴィとユーメント。

 カッとなって、声の方へ向いて怒鳴り返す。


「誰よ!失礼ね!」

「私を誰だと思っている!そこへなおれ!」


「俺は誰だ!この部屋に見覚えは無いのか!」


 声の主は。

 胸に右手を当てて、左手を横へ広げる。

 オペラでの歌唱の様にオーバーアクションで、存在をアピールする。

 ようやくそれがクライスだと自覚した2人。

 周りを見渡す。

 そして愕然とする。

 他の3人は。

 一連のやり取りを見ている内に、自然と冷静になっていた。

 同様に呆然としている。

 何て事だ!

 ここは、ヘルメシア帝国の帝都ガティ。

 その真ん中にそびえ立つ王宮。

 そこに在る、皇帝の執務室。

 はっきりと覚えている。

 かなり前、そこに居た。

 そして目的の為、それぞれ後にした。

 なのに今、ここに居る。

 何故?

 それは、彼が一番良く知っている。

 この町で別れた、クライスが。


「これからきちんと説明するから、適当に座ってくれ。陛下も、宜しいですね?」


 クライスがそう言うと、執務室の両側の壁にあるソファへ各自着席。

 入り口左のソファには、入り口側からラヴィ、セレナ、ユーメント。

 右のソファには同じく、入り口側からアン、ロッシェ。

 書斎机の傍にある椅子、いつもは皇帝が座するが都合上クライスが座る。

 机の上、ラヴィ達側にちょこんとメイが陣取る。

 アン側にはエミルが、眠そうに丸くなる。

 そして偉そうに腕組みをしながら、クライスは話し出す。




 まず、今は何時いつか?

 皆が各方面へ旅立った、あの日だ。

 ここは、見た通りヘルメシア帝国皇帝の執務室。

 そして、俺はクライス。

 見たら分かるって?

 それが分かっていない証拠。

 俺は、あの日陛下を見送ってからここを動いていない。

 つまり俺は『あの日の俺、皆にとっては過去の存在』なんだよ。

 どうして、そんなややこしい事になっているか?

 それが、魔法使いが施した術の正体。

 あの時貸してくれた力、俺が『この場を何とかしてくれ』と頼んだ結果。

 その術の仕組みを次に、解説しよう。




 ビンセンスさん達から聞いた筈だ。

 魔法使いがやった事を。

 まず、皆の心臓を白い釘が貫いた。

 次に、俺が座っている辺りの床に黒い剣が突き刺さった。

 各、5本。

 それぞれを虹の鎖が繋いだ。

 鎖によって、各人とこの部屋が繋がった。

 これで、『皆とこの部屋、それぞれ固有の時がリンクした』んだ。

 平たく言うと、『この時この場所へ皆を引っ張り戻す紐が、魔法使いの力で張られた』。

 何だよロッシェ、これでもまだ難しいか?

 なら、具体的に言おうか。




 例えばここに、1匹の犬が居るとする。

 犬小屋があって、それを中心に周りには囲いの柵。

 柵の中は自由に動き回れ、しかも1箇所抜けられそうな穴がある。

 〔ゴール〕と書かれた看板付きで。

 でもそこには、ある仕掛けがしてある。

 それは『穴を通ろうとしたら、強制的に或る場所まで戻される』と言う物。

 何処に戻されるか?

 それは、犬小屋の後ろに掘られた穴。

 2つの穴はトンネルの様に繋がっているんだ。

 犬小屋から離れて外へ出たつもりが、犬小屋まで戻っている。

 結局犬は、外へは出られない。

 酷いと思うかい?

 でも飼い主の立場になってみろよ。

 出来ればこんな事はしたく無い。

 でもしょうが無い、分かってくれないんだから。

 飼い主の愛情の深さ。

 それを理解出来る程の知恵を、犬は持っていないのさ。




 それを踏まえた上で、状況を整理しようか。

 犬は、ここに居る5人。

 犬小屋は、この執務室。

 柵は、時空の境目。

 空間的広さだけでは無くて、時間の長さも併せ持つんだ。

 看板付きの穴は、【一定の目的を達成した時点】。

 目的達成の条件は人によって違うけど、魔法使いがあらかじめ指定したのさ。

 ラヴィとセレナ、ロッシェは『グスターキュ帝国国王に旅の報告を終えた直後』。

 アンは、『宗主家へ戻り、両親に報告を終えた直後』。

 陛下は、『ヤフレ家の協力を無事取り付けた直後』。

 それぞれ達成後1日間の期間が、引き戻しの対象になる。

 1日の中であれば、後は消えても支障の無いタイミングで。

 ラヴィとセレナは、他に人が居ない夜の寝室だった。

 アンと陛下は、出立直後。

 ロッシェは……まあ良いか。

 ここで鍵となるのは、《空間移動》では無く《時空移動》だと言う事。

 何もしないままだと、それぞれの《目的達成時》の執務室へ戻る事になる。

 その時期は皆バラバラだから、5人が揃う事は無い。

 そのままだと、微妙にズレているんだ。

 だから揃える為に、もう一工夫する。

 ここまで言ったら、後は分かるな?

 白い釘と黒い剣は、言わばマーキングさ。

『始まり』と『終わり』を明確に規定する為の。

 虹の鎖は、トンネルの中を通っている紐。

『始まり』と『終わり』を結んでいるんだ。

『終わり』は全て、この時点の執務室に固定してある。

 俺が合図すると、紐が引っ張られて『始まり』が『終わり』へと縮んで行く。

 1つの点へと重なる様に。

 皆が時を飛び越えてここに現れたのは、その仕掛けのお陰なんだ。

 分かって貰えたかな?




 ここまで話し終えるクライスに。

 早速ロッシェが挙手。

 クライスに質問する。


「つまり、『やることやったんなら、帰って来ーい!』ってクライスが引っ張った結果だってのか?」


「言い方は乱暴だけど、まあそんなとこかな。」


「えー!何だよそれー!」


 不満気なロッシェ。

 言いたい事は分かる。

 そんな事が出来るんなら。

 直接5人を目的地にワープさせて、用事を済ませたらまたワープで戻せば良いじゃないか。

 ごもっとも。

 しかし、クライスにも言い分は有った。


「前に言ったよな?転移装置を人間が通り抜けられるのは《魔物が憑依した状態》だって。」


「ああ、そんな事を言ってた様な……。」


「お前達全員に魔物を憑り付かせるのか?それがどれだけ大変な事か分かってるのか?」


「そりゃあ、魔物を5体集めるのは苦労するだろうけど……。」


「そう言う事を言ってるんじゃ無い!乗っ取られたら最後、元に戻せないかも知れないんだぞ!」


 クライスは、皆が考えている程万能では無い。

 今までは、たま々上手く行っていただけ。

 これからもそれが出来る保証は、何処にも無いのだ。

 仲間を危険な目に会わせたく無い。

 クライスの例え話に出て来た『飼い主の愛情の深さ』とは、正にこの事。

 ロッシェ以外はそこで気が付き、クライスの思いを痛感した。

 セレナに指摘され、やっとロッシェも理解する。

 自分が愚かな犬だったと言う事を。

 俯き反省する事、しきり。

『分かってくれれば良いさ』と、優しく声を掛けるクライス。

 そして、話の続きを。




「魔法使いのこの術は、憑依と同じ状態を作り出す事が出来るんだ。ただ、時間が掛かる。だから行使出来るのは一度きり。」


「どうやって?」


 尋ねるラヴィ。

 クライスは続ける。


「『始まり』は白く、『終わり』は黒い。つまり強制的に魔力の流れを渡したんだ。」


「その流れが……。」


「そう、虹の鎖さ。」


 虹の鎖を通じて、魔力の流れが未来から過去へと強化される。

『始まり』を持つ本体の経過する時間が、経てば経つ程。

 目的を達成する頃には、十分な魔力で満ちる筈。

 魔法使いはそう考えた。

 ラヴィはそこまで理解した。

 でも疑問がもう1つある。

 それは。


「誰かが目的を達成出来なかったら、どうなってたの?例えばさ、私達が敵に捕まって動けなくなったりとか。」


 セレナもユーメントも、同じ事を考えていた。

 こちらの方が、余程注意しなくてはならない点では?

 しかしクライスは、自信たっぷりにこう言った。




「決まってるじゃないか。皆無事に達成する、それを最初から知っていたのさ。何しろ【次元の○○】だからね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ