第174話 抑止力、その未来
ここからは、核心に迫って行く。
貧民街が出来た理由は分かった。
では何故住民が〔語り部〕〔守護者〕となるのか?
ユーメントが話を受け継ぐ。
「はっきり言おう。彼等は《抑止力》だったのだ。」
「よく……し?」
ハリーには難し過ぎたか。
彼女にも分かる様話そうか。
ユーメントは続ける。
「妖精の道具があのステンドグラスと分かったら、普通なら都合の良い場所へ運ぼうとする。」
その方が、魔力の流れを制御し放題。
そんな事が出来なかったのは。
「正体が判明したのは、或る《人物》からの告発だった。それを聞いた時の皇帝が、移送を防ぐ為ここに王宮を築いたのだ。」
「この何時でも戦闘になろうとも大丈夫な造りは、そんな理由が……。」
「そうなのだ、王女よ。君達と争う気は無い。寧ろ、内部の敵とずっと戦って来たのだよ。」
ユーメントの言葉に納得するラヴィ。
暗躍する者が組織だって攻めて来れば、易々と運び出されるだろう。
危険な物を黙って盗み取られまいとして、己の人生を犠牲にしてまで守ろうとするその気概。
汲み取ってあげたい。
となると……。
クライスの方をチラッと見る。
静かに頷く。
次にデュレイの方を見る。
さあ、今度こそきちんと話して貰いましょうか。
ラヴィからの熱いメッセージ。
応えない訳には行かないデュレイ。
そして話し出す。
王宮を築かれると言う事は、王族に道具の所在がバレたと言う事。
その間に運ぼうとするに違いない。
そこで伝承を利用しました。
『救世主が現れるのはここだ』と明言させる事によって、容易に教会を壊させない様に仕向けたのです。
あれだけの物を運び出すには、教会を解体するしかありません。
でも住民の信仰心を煽っておけば、そんな事は出来ますまい。
そうやって、どうにか動きを止めたのですが……。
ここからは、デュレイに代わってユーメントが。
一矢報いようとしたのだろう。
魔力制御のスイッチをどうにか弄って、負の流れを作り出す事に成功したのだ。
それが精一杯だった様だが、それでも奴等にとっては朗報。
少なくとも1箇所は、そう言う場所を作れたのだから。
それから王宮が完成して、監視の目がキツくなり輸送を断念した。
それからは、そこを中継地点として帝都へ出入りする様になった。
出口は1箇所でも、入り口は作り放題。
しかしその出口付近では、暮らす者達が居る。
怪しい格好は出来ないし、やたら大勢の移動も出来ない。
それが、抑止力。
相手の思い通りにさせない為、敢えて常駐する人間を残したのだ。
どうか、理解して欲しい。
「なるほど、良く分かりました。」
結局、誰かが居なくてはならない。
偶々元スラッジ民が流入してくれたお陰で、それを維持出来た。
理解はしたが、ラヴィの中には不安が。
何せ、クライスが肝心のその人達を根こそぎ連れて来てしまったのだから。
しかし、クライスの顔は自信満々。
そこでハッと気付く。
スラッジの建物を金に変換した理由。
教会をそのまま残した理由。
まさか!
バッとクライスの方を見るラヴィ。
他の者も皆、クライスの方を向いていた。
『当然』と言った顔付きで、クライスは言う。
「魔力の流れを変えたのさ。邪魔な物を廃し、スイッチも入れ直した。」
建物を変換したのは、負の魔力を浴び過ぎてその力を蓄えてしまっていた為。
一度開放して、0に戻す必要が有った。
その中でも、思い出の品は。
大切にしていた為に正の魔力の方が強く。
寧ろお守りになると考え、材質を金にしただけに留めた。
一方教会は、綺麗に消してステンドグラスのみにする事も出来た。
それでは解決にはならない。
敵が運び易くしても仕方無い。
それより元スラッジ民の解放のシンボルとして残した方が、それを聞いて訪れる者も増えるだろう。
何よりも、伝承と合わせる事でそこに永久に固定可能。
負の魔力の影響でボロボロになってしまったが。
建物の強度自体は、正常な魔力の流れの一部となる事で補強されている。
崩れる事は無い。
そこまで考えての行動。
それらを踏まえた上で、後から考えると。
クライスの洞察力、先を見通す力の凄い事と言ったら。
感服するばかり。
凄い。
その一言。
そしてクライスは言った。
「スラッジで暮らした人達はもう、解放してあげても良いでしょう。ご決断を。」
「そこまでやってくれているとは。《幻》と言われる訳だな。」
錬金術師としてだけでは無く、賢者・軍師としても十分通用する。
これだけの人材はそうは居ない。
家臣として、手元に置いておきたい。
権力者としての欲に駆られるが。
そう申し出たら最後、逆に飲み込まれるだろう。
底知れぬ恐ろしさも兼ね備えた存在。
そのまま幻として人生を全うして貰った方が、本当は有り難いのかも知れない。
ユーメントはクライスを諦めた。
そして宣言する。
「スラッジは廃止する。民も苦痛に耐えた者達として讃え、身の振り方を世話しよう。」
ユーメントは呼び鈴を鳴らす。
護衛隊が『何用でしょうか』と控えると、影武者を呼ぶ様指示。
すぐに影武者が参上し、執務室に入る。
指示を伝えるユーメント。
『承知しました』と、玉座の間へ向かう影武者。
その様子を見て、『良かったね』と思うラヴィ。
「少し休憩を挟もうか。疲れた者も居よう。」
そう言って、眠そうなハリーを見るユーメント。
その場は一時お開きとなった。
気になって、玉座の間へと向かうラヴィ。
セレナも後に続く。
代わってロッシェは、ここからが本番。
姉の探索の協力を取り付けるチャンス。
『お願いしたい事が』とユーメントに接触。
それに同席するトクシー。
先生として、騎士の先輩として。
見届ける義務があると思ったのだ。
出来れば力になりたいとも。
正騎士からの口添えもあれば、陛下も了承して下さるだろう。
そう考えていた。
部屋を真ん中で区切っている布。
そこを、横から通り抜けさせて貰うラヴィ達。
「あ、お姉ちゃーん!」
ラヴィを見つけて、手を振るケイ。
駆け寄るラヴィに対し、嬉しそうに話す。
「こーてーへーか?が僕達に、住む所をくれるって!」
「そう。良かったね。」
「うん!」
元気に答えるケイ。
本当に変われるチャンスが有った事。
それを喜んでいるのだろう。
他の人達も、顔が引き締まっていた。
手に職を付ける為、デュレイ家管轄の職人街で住み込みで働く事に。
『別に希望が有る者はそれに沿う様、要求を呑む』と、影武者は約束した。
活気が戻る、元スラッジ民。
最早その名称は適切では無い。
【煌めきの民】とでも改称しようか。
どん底から平民よりやや上の地位に、飛び級した彼等。
苦しみや虐げられる苦痛を知っているからこそ、優秀な働き手となろう。
ラヴィはそう思った。
ある1点を見上げるケイ。
不思議そうに同じ方を見上げるラヴィ。
そこには、王族の肖像画が掛けられている。
その中の1つを指差して、ケイが叫んだ。
「どっかで見た事あると思ったんだよ!あいつじゃないか!」
「ん?知ってるの?」
「前に言ったでしょ、時々遊びに来る奴が居るって。そいつの顔にそっくりなんだよ。」
「ふうん。」
デュレイとクライスが言っていた事を思い出すラヴィ。
反転の法を持続する為に、スラッジを訪れていたと思われる王子。
王女とは知らない警備隊に、人物を確認する。
「あの肖像画は、どなたでしょうか?」
その答えは、案の定。
「あれは四男のソーティ様。ソーティ・ベック・シルベスタ様だ。」




