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第173話 スラッジ“である”理由

「スラッジで暮らしていた民が今持ち合わせている物が何か、お分かりでしょうか?」


 デュレイの変な質問に『ん?』となるが、取り敢えず答えるラヴィ。


「えっと、殆ど着の身着のままね。それとやっぱり《錬金された物》かしら。」


「そうです。彼等は、家や家具などを金の食器等に変換されました。」


「退路を断って覚悟を強める為、だっけ?」


 ラヴィはクライスに、変換の理由を確認する。


「それも有るな。」


「別な理由もあるの?」


「当然。」


 でも今はそこじゃ無いだろう?

 デュレイの方を見るクライス。

 そうだ、説明して貰ってるんだった。

 ラヴィは、デュレイの方へ向き直す。


「そして、思い出の品々は原形を留めたまま金に変えられました。」


「クライスの心遣いでね。」


「その中に、混じっているものがあったのです。或る《証》が。」


「へえ、気付かなかった。」


「それは……。」


 デュレイから出た言葉。

 それを聞いた一同からは、呆れた声とため息が。




「心からの笑顔、です。」




「流石にそれは、説明になっていない気がするのですが……。」


 セレナが声を上げる。

 ロッシェも同調する。


「『笑顔が証です』って言われてもなあ。納得出来ないよ。」


「それは、私から説明しよう。」


 説明係が、デュレイからユーメントへバトンタッチ。

 皇帝の語る事だ。

 何か有るのでは無いかと、つい身構えてしまう。

 ユーメントが話し出す。




 実はあそこの住人は、或る《役目》を負っていたのだ。

 そのせいで、結果的にかなりの負担を強いてしまったのだが。

 それは《語り部》、そして《守護者》。

 大層な言葉と思うかも知れないが、そうとしか表現出来ぬのだ。

 あの場所へ行って、何か見たり聞いたりはしなかったか?




『確か大変な事態になった時、救世主が現れるとか』とラヴィ。

『ああ、そんな伝承が有るって言ってたな』とロッシェ。

『それを唱えた信奉者が教会を建てて、ステンドグラスに伝承の光景を残したんでしたよね?』とセレナ。

 それ等を受けて、ユーメントが続ける。


「左様。ちまたではそう言う事になっている。しかし真実はそうでは無いのだ。」


『へえ、そうなんだ』と軽い相槌のラヴィ。

 どう違うのか?

 興味が注がれる。

 すると。


「まず前提が違う。伝承に合わせてステンドグラスが造られたのは本当だが、製作者は人間では無い。」


「それはどう言う……?」


 少し面食らうラヴィに、ユーメントが答える。


「あれは、ここに住んでいた《妖精》が製作した物。伝承も元々は、妖精が伝えていたのだよ。」


「妖精!」


 エミルが即座に反応。

 関係者としては、黙っていられない。

 興奮する妖精に、ユーメントが言う。


「そう、この辺りは或る時まで妖精が暮らしていた。しかし妖精の持つ不思議な道具を狙って、攻め込んだ輩が居た。」


「錬金術師……。」


 アンがポツリ。

 かつてメイが、キョウセンの宿屋で話した事。

 Pを前にしながら。

 妖精の暮らす集落を次々と襲ったと言う、錬金術師の集団。

 ユーメントが続きを。




 妖精は何処かへ逃げ、攻め込んだ者達が血眼になって探した。

 しかし持ち去られたのか何も見つからず、残っていたのは1つのレリーフだった。

 それがあのステンドグラスだ。

 奴らは力と成果を誇示する為、妖精に伝わる伝承をまるで自分達が掲げた様に喧伝けんでんしたのだ。

 そして、その象徴として教会を建てた。

 全て、奴等にとって都合が良い物ばかりだったのだ。




 ユーメントの告げた言葉で、うつむき加減になる一同。

 しかし、或る事にアンが気付く。


「ちょっと待って!妖精の住んでいた跡なら、人間が暮らせる場所では無いんじゃ……?」


 メイはこうも言った。

 人間が暮らすのに適さない位、魔力の流れが歪んでいる。

 だからPに、印を付けて警戒していた。

 しかし兄が言った様に、確かに負の魔力が濃かったが人間が住めない程では無かった。

 話が矛盾する。

 そこへユーメントが答える。


「妖精は道具を持ち去ったのでは無い。大き過ぎて運び出せなかったのだ。」


「それじゃ、まさか……。」


 ラヴィの声が震える。

 ユーメントが断定する。




「あのステンドグラスこそ、妖精の不思議な道具。魔力の流れを調整する装置なのだよ。」




「「「「えーーーーっ!」」」」


 グスターキュ側は皆驚く。

 クライスを除いて。


「兄様、ご存じで?」


 驚いた顔のまま、クライスの方を見るアン。

 軽く頷き、言う。


「あれに向かって、負の魔力が流れていたからな。てっきりアンも気付いていると思ってたが。」


「そんな芸当、兄様しか出来ません!自然と魔力の流れを掴むのが、どれ程難しいか……。」


 それが出来るから、クライスは自由に錬成し。

 出来ないから、錬金術師は賢者の石に頼る。

 錬金術師としての、兄への嫉妬でもあった。

 アンのその発言は、語気が強かった。

 それで察する、ヘルメシア側。

 クライスと言う男は、やはり規格外。

 人間の物差しでは測れない。

 敵に回すと恐ろしいが、味方となると何と心強いか。

 そして始まる。

 ここからは、錬金術師2人の考察。

 妖精の道具に纏わる事象についての。




 恐らく教会建設時は、誰もその事に気付かなかった。

 だから普通に人間が暮らせた。

 それが或る時、気付いた者が現れた。

 そして何らかのスイッチを入れた。

 負の魔力が満ちて、ワープの出口とする為に。

 やったのは恐らく、ケミーヤ教の幹部。

 スイッチを入れた時期は、王宮の建設時期に近い筈。

 陛下によると、『私の前の前の代の頃だから、約60年前と言った所か』との事。

 ならば該当時期は、その少し前。

 魔力の流れが淀み始めたので、元々住んでいた者達は居心地が悪く感じ始めた。

 そして次々とこの地を離れて行った。

 去った人達は、信奉者に惹かれて定住した人間の子孫と考えられる。

 苦痛を強いられていた人には、信奉者の語る内容が魅力的に聞こえただろうから。

 魔力の質が負に傾いて行く中、寄り付くのは貧しい人や犯罪者など。

 負の感情が強い人達になっていった。

 そして貧民街が出来上がった。




 ここまで考察すると、『皇帝がスラッジに手を付けて来なかった理由』が少しずつ見えて来る。

 要するに、元スラッジ民は魔力の淀みを測るバロメーターだったのだ。

 それはそれで、酷い話では有るが。

 炭鉱に入る時連れて行く、カナリアの様な存在。

 危険度判定に利用されているとは、今玉座の間で待機している人達には思いもよらないだろう。

 デュレイをジッと見るアン。

『知ってたのね?』と言わんばかり。

 慌てて反論するデュレイ。


「探索の前に知らされたのです、特別に。今のアン殿達の話を聞いていて、合点が行きましたが。」


「デュレイよ、それは何ぞや?」


 ユーメントがデュレイに尋ねる。


「陛下。報告に漏れましたが、やはりゲズ家の娘は一時あの場所に滞在していました。」


「そうか。娘が見つかれば、ゲズ家再興の道も開けるだろうに。」


「今更だけど、見つけるからには何か特徴が有ったのよね?」


 口を挟むラヴィ。

 それにデュレイが答える。


「ブローチです。ほら、ハリーも首から下げているでしょう?」


 そう言って、ハリーの方を見る。

 ハリーは服の中からブローチを取り出し、グスターキュ側に見せる。

 12貴族である証。

 前面には紋章が彫られている。

 あれ、何処かで見た事の有る様な……。

 ふとそんな考えが過ぎり、ハリーに尋ねるアン。


「持っているブローチの違いって、彫られている紋章だけ?」


「まあ、そうね。大きさも材質も同じかしら。作る職人が指定されているのよ。」


 同じ人が作ってるって事か。

 なるほど。

 そう思って、クライスを見るアン。

 兄もどうやら、ゲズ家の娘について思い浮かぶ人物が同じらしい。

 名を声に出そうとするも、クライスは首を振る。

 ここでは話さない方が良い。

 《あいつ》が該当する人物なら。

 そう言いた

 アンは言葉を飲み込み、デュレイに言う。


「何時か、見つかると良いですね。」


 そう掛けるアンの言葉には、心苦しさが入り混じっていた。

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