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第172話 ソーティの身、元スラッジ民の身

 反転の法。

 それは何ぞや?

 簡単に言うと、『逆にする』法。

 体力や見かけの年齢等が逆になる。

 ソーティのケースで見てみようか。

 彼は、評議会を欠席せざるを得ない程の虚弱体質。

 年齢も15才と若い。

 それが逆になると。

 超人の様な、尋常では無い体力。

 老人と見間違える程年を取り、見かけは若人とは思えない。

 つまり、素性不明の化け物が誕生する。

 そしてこれには、副作用が有る。

 逆転現象が性格にも影響を及ぼすのだ。

 捕らわれの兄を心配して、せっせと手紙を送る。

 そんな優しさが逆転するとどうなるか。

 残虐非道、他に対して攻撃的。

 荒々しい姿へと変貌する。

 誰もあの王子とは思わない。

 それが敵の狙い。

 大方、『あなたの体を治す秘策が有ります』とでもだまくらかしたのだろう。

『兄達のお荷物にはなりたく無い』と常日頃考えていた当人にとっては、渡りに船。

 信用しきって術を受けた結果が、この通り。

 悪の手先と成り果てた。

 何と可哀想な事か。

 全てにおいて裏目に出た結果と言えよう。

 しかし彼を誰が責められようか。

 そんな境遇に彼を置いたのは誰だ?

 彼に寄り添えきれなかったのは?

 そう問われると、誰も返答出来まい。

 責めるべきは、彼をそんな風にしてしまった者。

 恐らく、ケミーヤ教とやらの手先。

 裏を返せば、凶悪な組織がここまで入り込んでいる事の証明。

 早く手を打たないと、何もかも手遅れになる。




「ソーティ様は、閣下と手紙を頻繁に交わしています。情報漏洩等は大丈夫なのでしょうか?」


 トクシーは、まずそこを心配する。

 クライスは『心配無い』と判断。

 何故なら。


「俺達を奴はスラッジで待ち伏せしていた。俺達の動きは向こうに筒抜けだった。しかしそれは《使者として》です。」


「なるほど。閣下の事までも筒抜けなら、こちらの動きはダミーと考え待ち伏せまではしませぬな。」


「そう、監視対象はあくまで俺達使者。何せ両国のトップが直接交渉する、その内容を知っている訳ですから。」


「あ、あのー。」


 クライスとトクシーがやり取りをする中、一人置いてきぼりのハリー。

 12貴族の娘と言う立場にも関わらず、そう言った帝王学的な教育はされて来なかった。

 その理由は2つ。

 1つは。

 ケミーヤ教はハリーの事を政略結婚の道具としか見ておらず、政治や経済の事を学ばせても邪魔にしかならないと考えた事。

 変に知恵を持たれると、言う事を聞かなくなる可能性が生まれ。

 道具として相応しく無いのだ。

 もう1つは、親心から。

 父のメルドは、幼き頃から苦労して来た。

 12貴族とは言え、弱小の部類。

 環境に振り回される事しばしば。

 そしてあてがわれた、ハリーの母親に当たる【フィア】。

 素性不明、しかし『契約の証として契りを結べ』と妻にめとる事を強要された。

 フィアが嫌いな訳では無い。

 何故か自分を良くしてくれ、世話好きだった彼女。

 しかしハリーを生むと、すぐに亡くなってしまった。

 元々、子を産めるだけの体力が無かったのだろう。

 フィアを連れて来た連中が、子作りをいたのだ。

 まるでそれが、役目で有るかの様に。

 忘れ形見となったハリー。

 この子は同じ苦労をさせたく無い。

 そう思っての事だった。

 リンツが魔物と契約した訳も、これに近い。

 ハリーの為、仕方が無かった。

 そんな事は、ハリーには知るよしもないが。

 だから、嬉々として話し合いをするトクシー達に混ざりたくても混ざれなかった。

 置き去りにされる感覚。

 寂しさが込み上げる。

 身体が震えて来る。

『ううっ』と涙が込み上げて来た、その時。

 いつの間にか横に座っていたアンが、ハリーの手をギュッと握る。

『隣りは年の近い子の方が落ち着くだろう』と言う、メルドの計らいだった。

『これから学んで行けば良いわよ』と、アンに励まされる。

 同い年の子が言うのだから、その言葉を信じよう。

 そう思い込む事にした。




 アンが、クライスに言葉を投げ掛ける。


「皆が兄様程に聡明では無い事、お忘れなさらずに。」


「おっと、これは失礼。」


 妹に注意され、思案する。

 皆に分かり易く、平易な言い回しの方が良いか。

 でもそれでは逆に面倒な事も……。

 クライスが考え込む。

 そこでロッシェが珍しく突っ込む。


「馬鹿で悪かったな。これでも学習してるんだぞ。お前に気を遣われるなんて、気持ち悪い。」


 気にせずさっさと話を進めろ。

 ロッシェはそう言いたかったらしい。

『了解』とクライスは話を続ける。


「とにかく、戦闘力はまだしも知恵比べなら左程脅威ではありません。実際にお会い出来れば、解除も出来ましょう。」


「そうか!助けられるのだな!」


 クライスの言葉に喜ぶユーメント。

 ここでクライスは『しかし』と前置き。


「解除後の反動もお覚悟下さい。何せ今まで何をやらかしているか、見当も付きませんから。」


「それは体の面と言う事か?」


「それもありますが。繊細な心境の持ち主ならば、それまでの行い如何によっては自ら命を絶たれるかも……。」


「クライス!悪い癖!」


 ラヴィから注意が飛ぶ。

 最悪の場合が起こっても良い様に、わざと心を折る様な事を先に言っておく。

 覚悟を持って事に当たる様、忠告しているだけなのだが。

 クライスは心の中でそう反論する。

 それをそのまま口に出すと、ラヴィと喧嘩になる。

 これまでに学習した事。

 面倒臭い、それは避けたいと思ったまで。

 だから黙ってラヴィに頷き、同意を示して更に続ける。


「まあスラッジを消してしまった以上、もう反転の姿での活動は困難になるでしょうが。」


「説明願おうか。」


 スラッジを消したと言う重大事項をサラッと言われたが、今は弟の身が気になる。

 敢えて聞かずにスルー。

 活動が困難とは?

 そこが聞きたかったユーメント。

 クライスが続ける。


「あの場所は負の魔力の溜まり場でした。だからワープの出口として適任だったのでしょうが。」


「ほう、そうなのか。」


「反転の法を持続するには、定期的に負の魔力を取り込む必要が有るのです。供給源が消滅すれば……。」


「維持出来ず元の姿に戻る、か。」


「その通りです。」


 アリュースとの手紙のやり取りは、負の魔力が薄れ元の性格に近くなった時にされていたのだろう。

 クライスはそう推測した。

 後はソーティの傍に、偽装の手紙を代筆している者の存在も考えられる。

 発覚を少しでも遅らせる為に。

 ソーティの存在を、敵は切り札として見ている様だ。




 後クライスは元スラッジ民に関して、一言言いたかった。

 ユーメントに対して。

 臆さず物申すクライス。


「スラッジの民をそのまま放置していたのは、わざとでしょうか?」


「質問の意味が分からんが。」


「施策の為では、とお尋ねしているのです。」


「施策とな?」


「はい。」


 ユーメントは薄々気付いていた。

 クライスの言わんとする事を。

 領土支配では良く見られる手法。

 題して〔あれよりは、まし〕。

 スラッジ民をそのまま放置、と言うよりは悪い境遇に晒す。

 それを見て、ガティの住民は『あいつ等よりはましだ、我慢しよう』とか『下には下が居る、私はまだ良い方だ』とか思う様になる。

 平民以下の階級の存在を作る事によって、支配者へ不満の矛先が向かない様仕向けている。

 権力者としては、道理の通ったやり方。

 でもクライスはそれが気に食わない。

 民の為の施策を取り民の為に尽くしていれば、そんな小細工は元々必要無い。

 支配者に不満が飛んで来る事は無いから。

 それをわざわざ用意すると言う事は。

 己の愚行を隠す手段に思えてならない。

 だから一言言いたかったのだ。

 自分の醜態を晒す真似を、自らしでかしているのか。

 問いただしたかったのだ。

 ユーメントは、その意図を酌んだ上で返答した。




「いや、違う。彼等には《そこに居て貰う理由》が有ったのだ。現在の住人は、それを知らない者が殆どだがな。」




 スラッジ民が存在する理由。

 少なくとも政治的理由では無いらしい。

 クライスは安堵した。

 そこへデュレイが話を切り出す。


「その件ですが、もう必要が無くなりました。ご覧になられたでしょう?」


「ああ、玉座の間に待機している者達か。」


 来た!

 ラヴィは内心そう思った。

 遂に聞ける。

『彼等をここに連れて来た方が都合が良い』と、デュレイが言った訳。


「彼等の所有物、注視されましたか?」


「勿論。じっくりと観察したが?」


 ユーメントは使者入城の前に、既にギャラリーの様な廊下へ潜んでいたのだ。

 客人達の様子を伺う為に。

 すると、明らかに身分の低い者がズラリと並んでいるではないか。

 それらをじっくりと観察すると。

 或る《もの》が目に付いた。


「《あれ》の事を言っておるのだろう?」


「はい。それが証拠です。」


 さっぱり分からない。

 ラヴィはがっかり。

 2人の会話からは、理由が読み取れない。

 眉間にしわを寄せ、ジーッとデュレイの方を睨む。

 ユーメントがその視線に気付き、デュレイに忠告する。


「お嬢さんが困っているぞ。きちんと説明した方が良いな。」


「そうでしたか。それは失敬。」


「みんなに分かる様に、お願いね?」


 念を押すラヴィ。

『善処しましょう』と答えるデュレイ。

 そこから語られる内容は。

 予想外の事だった。


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