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第17話 交渉 at レンド

 元領主を救出してから、一晩が経った。

 たったそれだけの時間で、レンド内は劇的に変わった。

 村から村へ。

 噂が噂を呼び、それは確かな情報へ。

 元領主の不当な幽閉と、その実行犯が敵国の者だった事。

 領地内の住民は、異常だった日常が再び平穏へと戻る事を期待した。

 時間は掛かるかも知れないが。



 元領主は、まだベッドから動けずにいる。

 それだけ体力が弱っていた。

 しかし、表情は豊か。

 幸いにも首から上はダメージが少なかったので、会話も出来る様になる程回復が早かった。


「皆の者、ありがとう。」


 目を覚ました元領主が最初に発した言葉は、周りに居た人達へ対する感謝。

 うっすらした意識の中で、誰かが助けてくれた事だけは覚えていた。

 その時、一行の中で傍に居たのはアンだけだったが。

 真の恩人が他に居る事を知り、『是非、直接礼が言いたい』と申し出る。

 そこでクライス達だけで無く、ヤンクも呼ぶ事にした。


「お、俺なんかが滅相も無い……!」


「あなたが村で俺達を止めなかったら、今が無かったんですよ。あなたのお陰です。」


 断ろうとしたが、クライスの一言で会う気になった。




「そなたがヤンクか。世話になった。感謝する。」


「勿体無いお言葉。身に余る光栄です。」


「そなたの様な者が居るトッスンと言う村は、さぞ良い所なのだろうな。」


「ええ、良い村でしたよ。皆心が温かく……。」


 クライスが口添えをする。

 元領主がクライスに話す。


「旅の行商人と申したな。私は【リーフ卿】と呼ばれていた者。大変世話になった。」


「いえ。実は、俺達はあなたに話が有って参ったのです。」


「何やら不思議な術を使うと聞いたが……。」


「それは、ちょっと……。」


 リーフ卿は何かを察したのか、『一行と差しで話がしたいと』言う。

 その言葉に従って、他の者は広間へと下がる。


「ではリーフ卿。ここにいらっしゃる《王女様》のお話を、どうぞお聞き下さい。」


 クライスがそう言うと、リーフ卿の方へラヴィが一歩前へ出る。

 ここに至るあらましを、リーフ卿に話し始める。

 リーフ卿は、驚きながらも冷静に聞いていた。




 聞き終わって、リーフ卿はため息を付く。


「私が領主の座から追われた後に、その様な事が起こっていたとは……。」


 痛恨の極みと言った、神妙な顔。

 少し考えた後、リーフ卿はラヴィに向かって言う。


「王には何かと世話になった身。協力致しましょう。それが民の為ならば。」


「ありがとうございます!」


 ラヴィは深々と頭を下げた。

 リーフ卿は体が動かぬ病床の身。

 これ以上負担を掛ける事はしたくなかった。

 でもそれでは、民衆は救われない。

『協力する』と言う言葉だけは聞いておきたかった。


「しかし、弟はどうか許してやって下され。あ奴も辛かったでしょうから。」


「それはあなたが決める事です。俺達じゃ無い。」


「かたじけない……。」


 そう言って、リーフ卿は涙を流す。

 なるほど、民衆に好かれる訳だ。

 今までのやり取りだけで、クライスはリーフ卿の懐の深さを見抜いた。

 これでまた、レンドは良くなるだろう。




 だが、問題が1つ残っていた。

 そう、邪魔なあいつをどうするか。

 リーフ卿の弟を騙し、混乱させた挙句に。

 今や、牢に居る身の男。

 寝室から下がった後、ラヴィはクライスに囁く。


『あの敵国の男、どうするの?』


『開放するさ。』


『え?折角捕まえたのに逃がしちゃうの?』


『そのままじゃ無いさ。記憶を改竄かいざんさせて貰う。俺の事とか向こうにバレると都合の悪い事は消したり、ね。』


『そんな事まで出来るの、あなた?』


『俺じゃ無い、エミルさ。妖精は幻惑が得意だからね。』


『だから悪戯好きなんだ』と言いた気なクライス。

 何故か腑に落ちたラヴィ。

『妖精って凄いのね』と改めて思う。

 それに慕われるクライスも凄いが。




「な、何をする!」


 要塞の外にまで引っ張り出された男。

 絶対に殺される。

 俺ならそうする、敵もそうに違いない。

 そう思い込んでいた。

 なので、クライスの言葉は拍子抜けだった。


「あんたの役目は終わった。いや、正確にはあと少しだが。だから解放してやるよ。何処へでも行くと良い。」


「こ、後悔するぞ!」


「後悔ついでに名前を聞いておこうか。雑魚扱いした詫びに。」


「ふん!俺はヘルメシア帝国皇帝に仕える12貴族の1つ、スラード家を継ぐ者!【ミセル・ファン・スラード】だ!」


「はいはい、ミセルね。じゃあもう良いよ。」


 クライスが縄を解き、ドンッと突き飛ばす。

 不意を突かれ、ミセルは吹っ飛んでゴロゴロと転がる。

 その顔の前にエミルがフッと現れると。

 草が舞い、ミセルの顔の周りをぐるぐる回り始めた。

 目を回すミセル。

 そこでエミルは暗示を掛ける。

 お前は、傀儡を立てた張本人だと言う事が民衆にバレて。

 追われる様に、命からがら要塞から逃げ出した。

 早くこの事を上官に伝えねば。

 伝えねば。

 伝えねば。

 伝え……。




 木陰に隠れて、それを見ている一行。

 バタッとミセルが倒れたと思ったら直ぐにむくっと起き、慌ててセントリアの方へ走り出す。

 命がけの逃避行。

 かなりの速さで敵軍に合流するだろう。

 これがクライスの与えた役目。

 状況が変わった事を知れば、敵軍の攻撃も緩もう。

 それからが勝負だ。


「策士ね。」


 少し意地悪そうに、クライスの顔を見て言うラヴィ。


「心理戦は、手駒が多ければ多い程有利だからね。」


「私も?」


「さあね。」


 とぼけるクライス。

 そこへアンが口を挟む。


「手駒なんて思って無いわよ。寧ろ、感謝すべき仲間。ね、兄様?」


「さあね。」


「照れてるでしょ?柄にも無い。ふふっ。」


 そう言って、アンはクライスに抱き付く。

 離れろ、離れろって!

 バタバタもがきながらも、嬉しそうなクライス。

 それを見て、一抹の寂しさを感じるラヴィ。


「弟君の事を思い出されましたか?」


 いつの間にか、セレナが寄り添っていた。


「いや。他の弟妹とも、ああやってじゃれ合いたかったなあって。」


「出来ますよ、何時いつか。」


「だと良いわね。」


 その為には、まだまだ頑張らないと。

 気を張るラヴィだった。

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