表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/320

第162話 検問所に何故テントが

 馬車を含む大所帯の一行本体。

 ぞろぞろ歩く姿は、やはり人目を引く。

 痛々しく見る目付きも有れば、嫌悪感丸出しの目付きも有る。

 南側は、ガティの要所。

 この町に入る者は、大抵南から。

 一行とすれ違う旅人、即ち見物人も増えるのだ。

 仰々しく連なる人の列に、異様さを感じる者もいよう。

 貴族の旅行列とは様相が、雰囲気が別。

 立ち止まって通り過ぎるのを待つ者は居ない。

 寧ろ距離を取り、関わらない様に自分から過ぎ去るのがほとんど。

 離れた所からジロジロ見るのだ。

 良い気分では無い。

 その代わり、罵声が消えたので悪い気分でも無いが。

 ラヴィやトクシーは、これまでの旅でこんな状況は慣れている。

 元スラッジ民は、冷たい目線を避けて来たので少しキツいか。

 心にこたえているのはハリー。

 12貴族としてのプライドが、まだ残っている。

 簡単に捨てられる物では無い。

 ツンと澄ましながら、周りを睨み付けている。

 その様子に気が気で無いリンツ。

 なだめたいのはやまやまだが、隣に居る事は出来ない。

 何せ馬車の運転席は、ハリーとセレナで定員一杯なのだから。




 クライスの離脱で、馬車周りの編成が少し変わっている。

 先頭はトクシー、馬車はセレナとハリーで変わらないが。

 列の一番後ろは、アンとロッシェの2人。

 馬車に並走するのは、ラヴィとリンツの2人に変更。

 特にリンツは。

 ハリーの機嫌が損なわれた時すかさずフォローに入る為、ハリーと同じ進行方向左側に付いていた。

 町中なので目立たない様、メイとエミルは荷車へと引っ込んでいる。

 余りにも人が寄って来ないので、一行はこのままスムーズに検問所へと辿り着いた。

 しかしそこで待ち受けていたのは、物々しい雰囲気の身体チェックだった。




「次!」


 係員が、検問所まで来た人を傍のテントまで誘導。

 そこで手荷物などをチェックしている。

 テントは縦横20メートル、高さ2.5メートル程の大きさで全体が真っ白。

 南側の真ん中に出入り口が有る。

 その横には、『ここで合格しないと通さない』との張り紙。

 怪しい雰囲気がするので、トクシーがまず様子を見に行く。

 テントの中を覗こうとすると。


「勝手に覗くんじゃない!」


 係員に制止される。

 テントの外に10人、中には声から察すると4人。

 良く見ると、全員兵士では無い。

 かと言って雇われ傭兵でも無い。

 おかしい。

 検問所には衛兵が数人配置され、それ等が通過の許可を下ろすのだが。

 影も形も無い。

 それに、テントから出て来た者は皆一様にがっかりした顔をし。

 とぼとぼ歩いて外周へと戻って行く。

 どうやらあれこれ難癖を付けて、誰も通さない気らしい。

 去り際の旅人達の愚痴が、それを物語っている。


「護身用のナイフが、何で禁止なんだよ!」

「献上品を運んで来ただけなのに、突っ返されるなんて理不尽な!」

「俺は使者だぞ!陛下への謁見も適わないなんて、帰ってどう説明したら……!」


 そうとは知らず、並ぶ旅人達。

 現状を、町の住人はどう思っているのだろう?

 少し前までは、こんな事になっていなかった筈。

 アリュースと皇帝のやり取りは、これまで正常に行われていたのだから。

 トクシーは、周辺への聞き込みを開始した。

 検問所近くに並ぶ、宿と言う宿。

 飛び込みで入っては、『何時からこんなに厳しくなったのか』『誰が主導しているのか』などを尋ねて回る。

 そこから得られた情報を総合すると、こう言う事らしい。




 まず事態が動いたのは、数日前。

 検問所の衛兵と、見知らぬ何人かが押し問答を繰り返した。

 2、3日それが続いた。

 そこへ突然ローブをまとった老人が姿を現すと、巻物を取り出し衛兵に見せた。

 びっくりした顔の衛兵は、納得行かない顔をしてその場を去った。

 すると上から下まで白尽くめの人間が20人程やって来て、綺麗にテントを設営した。

 そしていきなり、『通りたくば、ここでチェックを受けよ!嫌なら帰れ!』と。

 検問所前をうろうろしていた人達へ怒鳴った。

 急な状況変化に、戸惑う旅人達。

 中には、激しく詰め寄る者も居た。

 白尽くめの1人が『反逆行為と見做みなす!』と宣言したかと思うと、腰に下げていた剣で詰問していた者を一突き。

 死にはしなかったものの、大量の血が滴り落ちた。

 慌てて駆け寄る住民が、救い出して医者へと連れて行った。

 すかさず白尽くめが、その場に居る全員に聞こえる様に大声を出した。

『我等こそが正義!我等こそが法なのだ!』と。

 すっかり委縮してしまった人達は、理不尽な仕様変更に従わざるを得なかった。

 そして今に至る。




 話を聞いていたラヴィ達は、怒りを隠さない。


「何それ!酷い!」

「強引過ぎる!」

「許されるの?そんな横暴な事!」


 ざわつくラヴィ達の中で、1人アンだけが冷静だった。


「ビンセンスさんの話からして、これは切っ掛けが2つ有るわね。」


「2つ、ですか?」


 トクシーが聞き返す。

 一連の流れの様に感じていたので、分割する要素は無いと思っていたのだ。

 アンは答える。


「まず押し問答が始まった時。そして老人が来て巻物を見せた時。」


「なるほど。それなら2段階になるわね。」


 苛立ちが収まって来たのか、ラヴィがふむふむと聞き入る。

 アンが続ける。


「そして前者と後者のタイミングが、或る出来事と重なるわ。」


「そうなの?何かあったかなあ?」


 考え込むラヴィ。

『あくまで推測だけど』と前置きし、アンは言う。




「前者は〈ハリーが逃げ出した時〉。後者は〈私達がスラッジまで飛んで来た時〉。」




「あたし達が原因って事?」


 ハリーは思わず大声になる。

 ジロッと見て来る住民。

 視線を感じ、すぐに小声へ切り替える。


「何で?」


 疑問を呈するハリーに、アンが答える。


「余程、私達を入れたくないんでしょうよ。もっと言うと、『皇帝への謁見を妨害したい』かしらね。」


「陛下への謁見!初耳なんだけど!」


 予想外の単語に、ハリーが興奮する。

 これまでも『おかしいな』とは思っていた。

 騎士に同行する、敵国の兵士。

 それも、一癖も二癖も有る連中ばかり。

 しかもクライスは、『王宮でチャンスをやる』と元スラッジ民に宣言した。

 何故王宮?

 その疑問がようやく晴れた。

 馬車が曳く荷車の荷物も合点が行く。

 やたら豪華な物が積まれていたが、献上品だったのか。

 となると、旅の目的は……?

 大人になりかけの少女には、考察はここまでで限界。

 頭がパンクしそうになる。

 代わりにリンツが問う。


「あなた方の旅の終着点は、陛下の御前なのですか?」


一先ひとまずは。」


 そう答えたのはラヴィ。

 トクシーはアリュースの使い。

 ラヴィ達はグスターキュ帝国からの使者。

 今はそう。

 しかし、ラヴィ達の旅はそこでは終わらない。

 だからラヴィはそう答えた。

 まだ先がある。

 謁見は、野望へ一歩近付く過程に過ぎない。

 トクシーやハリーにはゴールでも、ラヴィ達にはチェックポイント。

 認識の違いが、そこには有る。

 だからこそ、ここでグズグズしている訳には行かない。

 クライス達は、とっくに内周の内側へと入っているだろう。

 彼等は必ず約束を守る。

 早く合流しなくては。

 この場面を切り抜ける為の緊急会議が始まった。




 会議に参加しても、力になれそうに無い。

 ハリーはそう思い、元スラッジ民が待機している場所へ足を運んだ。

 同じ人間であるが、生まれ育ちが全然違う。

 運命が交わらせたのだろうか。

 ならば、何故?

 その答えを求める様に、彼等へと歩み寄る。

 それを遠くから眺めながら、『心持ちが変わる切っ掛けとなれば』と願うリンツだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ