第161話 託す心、託される心
門の前は人集り。
群がる大男達の中で縮こまっている、門番2人。
仰向けになったままで、誰も起こしてくれない。
それどころか見下ろされ、睨まれている。
暴動でも勃発しそうな予感。
『待ってくれ!』と叫びながら、デュレイが駆け寄る。
誰かがその姿に気付く。
「お!旦那じゃねえですかい!」
その声を皮切りに、一気に質問が飛んで来る。
「どう言う事なんですかい、こりゃあ。」
「この転がってる連中なんですが……。」
「それより、屋敷がボロボロですぜ!大変だ!」
全てを受けきれず、困った顔をするデュレイ。
そこに。
「一篇に話す奴があるか!戸惑ってるじゃねえか!」
そう叱るのは、ちょっと遅れて到着のゲイル。
緊急事態の鐘に、町中が興奮して集まって来たのだ。
誰かがリーダーシップを取らないと。
一番適任のゲイルが現れた事によって、指示系統が整う。
ゲイルに頼むデュレイ。
「済まないが、医者を呼んでもらえるか?父上達が痩せ細ってフラフラなのだ。」
「それは尋常じゃねえ!おい、ひとっ走りして来い!」
『分かったぜ!』と命じられた男が、町中へ駆け足。
2人程付き添う。
それでも人集りは減らない。
皆が気にして、町の方がすっからかんの状態。
更に要望を出すデュレイ。
「屋敷の中や庭、家具等もボロボロなのだ。修繕を頼みたい。」
「そう言う事なら……。」
家具職人や大工達が前へ進み出る。
総勢60人程。
屋敷の中に突入後、各部屋へ現状把握の為に散らばる。
次に前へ出るのは、庭職人。
樹木の手入れのプロ。
外から見える草ボウボウの状況に、腕がうずうずしていた。
早く弄りたい。
ゲイルからゴーサインが出ると。
急いですっ飛んで行く。
庭全体を巡りながら、必要な道具を把握する。
その内、屋敷から大工達が出て来た。
皆口々に言う。
「痛みが酷過ぎる。」
「いっそ建て替えた方が良いかもな。」
「どうするか……。」
一斉にデュレイの方を見る。
『ふう』とため息をついた後デュレイが言う。
「屋敷は一旦取り潰し、新築する。やってくれるか?」
「「「合点でえ!」」」
『おー!』と勝鬨の様な声を上げる男達。
その前に。
患者を運び出さないと。
良いタイミングで、町中に戻った男達が医者を連れて戻って来る。
医者は『一応あれを運び入れてくれ』と指示し、男達は担いで来た担架を持って後に続く。
『こちらに』と、デュレイは医者を案内する。
ゲイルに一言、『駆け付けてくれてありがとう』と感謝の言葉を残して。
『当然です』と言った顔でデュレイを見送ると、『これから忙しくなるぞ、野郎共!』と周りに活を入れるゲイルだった。
「クライス殿!お待たせしました!」
デュレイが2階の書斎へ舞い戻って来た時には、アドレイム達は上体を起こされた形で壁に寄りかかっていた。
かなりの回復。
これなら担架で運んでも問題無かろう。
そう判断した医者は。
脈を取り心臓の鼓動などを確認した後、アドレイム達を順次担架に乗せて1階に降ろさせる。
『旦那様方を先に』と言う、召使い達の強い要望で。
まず体力の無いセリー、続いてアドレイムの順。
その間クライスが、召使い達の足を揉んだり腕を擦ったりして感覚を取り戻す手伝いを。
その繊細な動きに、医者も目を丸くする。
何と言う手際の良さ。
かなりの場数を踏んでいると見た。
感心している間に、召使い達を降ろす番へ。
『ありがとうございました』とクライスに礼を述べながら、次々と担架に乗せられていく召使い達。
皆を運び出した後、入れ替わりに家具職人が入って来る。
曽て納めた、丹精込めて作った机や椅子が朽ち果てているのを嘆く。
しかしそれが反って、職人魂に火を付けた。
今度はもっと素晴らしい物を作って、デュレイ家を驚かせてやろう。
やる気満々になると、急いで職場へと引き上げて行った。
担架で運ばれる人達一人一人に、門を出るまで付き添うデュレイ。
ずっと傍に付いていたい。
しかし重要な使命を帯びている今、ここで立ち止まる訳にも行かない。
迷いが脳裏を過ぎる。
そんな彼に、迎えの荷車に乗せられているアドレイムが言う。
「クライスと言ったか、彼と進むが良い。」
「しかし父上……。」
「お前はもう、立派な騎士だ。我々を見事に救ってくれた。」
「光栄です……。」
「でもまだ《救うべき命》が有るのだろう?」
「え?」
アドレイムの問い掛けに、一瞬顔を曇らせるデュレイ。
再び問うアドレイム。
「行くべき場所があるのだろう?彼が言っていたよ。『息子さんにしか出来ない事、それを正に成し遂げようとしています』とな。」
「クライス殿……。」
「自慢の息子、エメローよ。しかと成し遂げよ。その手で。」
「……分かりました。」
アドレイムに返答するデュレイの目は、涙が溢れそうだった。
何とかそれを堪え、キリッと顔を引き締める。
澄んだ目をするデュレイを見て、安心するアドレイム。
笑って診療所へ運ばれて行く様を、姿が見えなくなるまでジッと見つめるデュレイ。
そろーっとゲイルが声を掛ける。
「旦那、ここは俺達に任せて下せえ。」
『済まねえ、会話を聞いちまった』と頭を掻くゲイル。
ここは持ちつ持たれつ。
町の平和をデュレイ家が保証してくれるなら。
代わりに俺達がデュレイ家を助けよう。
相互依存では無く、共栄共存。
暗にそう言っていた。
「後は頼む。」
そう言うデュレイがゲイルの肩に置く手には、自然と力が入っていた。
悔しさと信頼感が手から伝わってくる。
『分かってますぜ』と、デュレイが置く手に自分の手を重ねるゲイル。
旦那の分まで、復興した姿を見届けましょう。
2人には、誓いの握手の様に感じた。
「お待たせしました。」
門の袂でじっと座っているクライスに、デュレイが話し掛ける。
顔を上げて、クライスは念を押す。
「宜しいのですね?」
「はい。彼らに任せておけば。」
「そうですか。」
多くは語らないクライス。
デュレイの心中を察して。
大丈夫。
この町は強い。
俺が一番知っているじゃないか。
そう思うデュレイ。
眼差しは目的の地へ向いていた。
クライスはスクッと立ち上がる。
そして元検問所の場所へ向かう。
デュレイも続く。
後ろは振り返らない。
それが信頼の証。
そして誰からも見捨てられた、門番だった者達。
置き去りにされた彼等だけが、見送り人だった。
問題の場所へ再び到着。
始めて来た時と同じ光景。
武器などは陳列されたまま。
しかし誰も居ない。
放棄したのか?
なら都合が良い。
デュレイの方をちらっと見るクライス。
静かに頷くデュレイ。
クライスがカウンターに手を置くと。
一瞬で、邪魔な全てが金に変わる。
それを、開け放たれた門へと変形させる。
ここはもう行き止まりでは無い。
どうぞ、ご自由に通過したまえ。
クライスは形状にそんなメッセージを込め、門を潜る。
続くデュレイ。
早く一行に追い付かねば。
逸る気持ちを抑え、ただ静かに歩みを進める。
クライス達が離脱した後、南の検問所へと向かった一行。
こちらでも、新たな足止めが発生していた。




