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第16話 ひとまず、決着

「り、領主様!」


 牢の檻越しに話し掛けるヤンク。

 それに対して、鈍い反応の男性。

 生かさず殺さず。

 そのぎりぎりで生活を強いられていた様だ。

 横たわったままの体は、かなりやつれていた。

 ここに来る途中ですれ違った守衛から、鍵をかすめ取っておいたクライス。

 早速錠を開ける。

 ギーーッと静かに開いた牢内は、ひんやりした空気に包まれていた。

 クライスが冷静に容体を診る。


「どうやら食事制限だけで無く、部屋に体温を奪われていたみたいだ。」


「だったら早く運ばないと!」


「まあ焦るな。下手に動かすと、体に入らぬダメージを与える事になる。」


「これでどうだ!」


 クライスとラヴィの会話を聞いていられず。

 ヤンクはすぐに自分の服を脱ぎ、元領主の体を温めようと服で優しくこすり始める。

 しかし、逆に元領主の皮膚に傷を付けてしまう。


「しまった!こんな筈じゃ……!」


「ですから慌てないで。素早く運ぶには……。」


 クライスが牢の床に手を置くと。

 パアァァッと床が光り、元領主の下から黄金のゆりかごが生まれた。

 そして、さっきここまで通って来た通路には黄金の道が生まれる。

 その表面はとても滑らか。


「これで、体に余計な負担を掛けずに運べる筈だ。」


 クライスはふと息を付く。

 ゆりかごは若干の熱を発生させていた。

 この温もりが、運んでいる途中で体に伝わり。

 幾らか症状が改善される。

 失われた熱は道から再び供給される為、緩やかな体温上昇が可能。

 そこまで計算されていた。

 その光景を、呆気に取られてボーっとしているヤンク。

 背中をポンとラヴィが叩いて、確信した顔で言う。


「この方は救われました。今、正に。」


 ハッと我に返り、同時にまばゆい景色が直視出来ないヤンク。

 それでも安心感が有るのは何故だろう?

 そう思っていた。



 クライスは、生み出した金なら自由に操れる。

 どんなに巨大な質量でも。

 なので、ゆりかご程度の移動は容易かった。

 ゆりかごの横に付いて、スタスタ歩くクライス。

 それに付いて行く、ラヴィとヤンク。

 エミルは、前方の様子を探りながら先行していた。

 ここに来るまでに、遭遇した兵士は皆勝手に眠ってしまったが。

 キーリのサービスだったのか、貸しをクライスに作りたかったのかは分からない。

 悪夢から目覚める頃には。

 兵士達は皆、元領主に生かされている事を思い知るだろう。




 アンとセレナは。

 広間の外で黄金の道が出現したのを見て、クライス達が元領主の救出に成功した事を確信した。

 眠らずにその光景を見ていた現領主と男は、逆に恐怖した。

 煌めいた道は、広間では無く別の方向に伸びていた。

 そちらに寝室が在ると考えた2人は移動する。

 囚われの身の連中の周りに、ありったけの鉄条網を用意して。

 こうしておけば、『他にも罠が有るかも知れない』と勝手に勘違いして。

 そこにじっとしているだろうから。




「この方が元の領主様ですか?」


 クライスが到着した時には既に、アンが治療の準備を。

 セレナは、アンが錬金術で作り出した簡易キッチンで料理の用意を。

 それぞれ開始していた。

 初めに見つけた時には真っ青だった顔が、今は若干の赤みを帯びていた。


「ここまで体温が戻ったなら、後はアンの出番だ。頼んだよ。」


「任せて、兄様。張り切っちゃうから。」


 腕まくりをして、きびきび動き出すアン。

 それを心配そうに見つめるヤンク。

 そうこうしている内、眠りから兵士達が目覚めた様だ。

 慌ただしくあちこち動き回っていた。

 お前達が救われるには、瀕死の状態の元領主を救う他無い。

 すぐに行動しないと、命は無いぞ!

 どうやら夢の中で、そう脅されていたらしい。

 皆黄金の道を見つけ、それを辿り寝室へ殺到した。

 そこへラヴィが、毅然とした態度で的確に指示をして行く。

 流石王女様。

 こう言う時の振る舞いは慣れている。

 助かりたい一心で、こき使われながらも必死の兵士達。

 元々家事全般をこなしていた為料理も得意なセレナが、運ばれて来た食材を勢い良く調理して行く。

 そこに、領主お抱えの料理師達も加わる。

 主治医は、アンの助手に就く。

 処置が一段落すると、主治医に兵士達の健康状態を見る様指示するアン。

 ドンドン作られる料理を疲れた様子の兵士の前に差し出し、食べて元気を出すよう勧めるセレナ。

 あっと言う間に兵士達の人心を掌握して行く、一行を見て。

 〔怪しい行商人〕と言うイメージはヤンクには最早無く、救世主の様に見えていた。

 ああ神様、ありがとうございます!

 今正に、奇跡を見ています!

 ヤンクは心の底からそう思っていた。

 一行に、或る種の信仰心すら抱きつつあった。




「さて、と。あっちは任せて大丈夫だろう。」


 広間に移動したクライスは、まず兵士達の縄を解く。

 ハッとした兵士達は、他同様に寝室へすっ飛んで行った。

 クライスは男に近付いて言う。


「まだ隠してる事が有るだろう?」


 男の目は、すさんではいたが死んではいない。

 何か取って置きが有るのだろう。


「俺を捕らえた事を後悔させてやる!」


「ほう、楽しみだな。」


 敢えて挑発するクライス。


「こんな時の為に、領地内の村と言う村に俺の配下が潜んでいる!俺を開放しないと、村に火を放って住めない様にしてやるぞ!」


「どうやって合図するんだ?」


「この要塞には特殊な仕掛けが有る!それを使えば、瞬時に領地内へ非常事態が宣言される!」


 食って掛かる男。

 クライスの行動を予想だにせずに。


「その仕掛けって、これか?」


 クライスは、現領主が座っていた椅子の後ろに有るレバーを動かす。

 一瞬、ギラッと目を光らせる男。


「馬鹿め!気が狂ったか!」


 男はやや元気を取り戻し、勝ち誇った様に言う。

 要塞の上には『シュルシュルシュルーーーッ』と赤色の煙が上がり、異様な気配を放っていた。


「これで終わりだ!ハハハハハハーーーーーーーッ!」


 勝ったっ!

 男は叫ぶ。

 その時。




「俺がな。」




 赤色ののろしが、領地のあちこちで確認されてすぐ。

 男の配下が動き出した。

 手筈通りに、いざ家に火を付けようとした所……。

 上から、黄金の膜がバサッと被さって来る。

 その場でバタバタする配下達。

 それを見て、村人が反応する。


「何だこいつ!」

「放火しようとしていたぞ!」

「金の膜が何で絡まってるんだ?」

「怪しい!捕らえて一部始終吐き出させろ!」


 元々現領主に対して、不満を抱いていた人達。

 それが動けずにいたのは。

『村の中に、現領主から派遣された見張り係が居るかも知れない』と言う欺瞞ぎまんが有ったからだ。

 そして予想通り、そいつは現れた。

 不満が爆発。

 金の膜は目隠しとなり。

 見えなくなった上に、罵声が飛び交っているのを聞いた為。

 不審人物扱いの見張り係は、ブルブル震えながら大人しく村人の尋問に応じていた。




 トッスンに仕掛けられていた金の結界。

 その効果は《トッスンだけ》では無かった。

 クライスが要塞に着く頃には、領地内全土に広がっていた。

 それが男の配下に反応した。

 後は前述の通り。

 その様を、クライスは把握していた。




 おかしい!

 あちこちから火の手が上がる筈なのに!

 何故煙が、炎が見えない!

 広間に在る窓から外を見ていた男は、ここで万策尽きた事を実感する。

 完全に心が折れた。

 この先の展開を想像して、絶望したのだろう。

 気が付くと、男の髪は真っ白に変わっていた。




「こ、殺さないでくれ!俺は兄貴の力が欲しかっただけなんだ!」


 号泣しながら、必死に許しを請う現領主。

 元領主の弟だった。

 生まれ持って何もかも自分より優れていた兄をやっかみ、甘い敵の誘いに乗って凶行に及んだ。

 そんな所か。

 しかし、クライスは冷徹な目をして言う。


「あんたの命の期限を決めるのは、元気になったあんたの兄貴だ。彼にでも頼むんだな。」


 そして兄の居た牢へ通じる穴が床に空き、黄金の滑り台を下りて行った悪人2人。

 この国の命運を決めるのは、俺の役目じゃない。

 そう言いた気にクライスは穴をじっと見つめ、その場を去った。




「あ、兄様!」


 寝室へ戻って来たクライスを見て、アンが駆け寄る。


「もう大丈夫です。峠は越しました。直に話が出来るまでに回復するでしょう。」


「流石だな、アン。」


 クライスは精一杯アンの頭を撫でる。

 アンも嬉しそう。

 そんな光景を見て、少し羨ましいラヴィだった。


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