第157話 樹海の館
「こ、これは……!」
驚くデュレイ。
屋敷の中だと言うのに。
廊下は木々で囲まれ。
森の中に居る様だった。
クライスはデュレイに尋ねる。
「部屋の位置関係などは、分かりますか?」
残念そうに、デュレイは首を横に振る。
「ここまで生い茂っては、かつての面影も有りません。」
まるで迷路の様に、木の幹や根が張り巡らされている。
こちらを見ている様に、クライス達の動きに合わせて葉が揺らめいている。
魔力の暴走か?
はたまた魔物の仕業か?
玄関を入った所から、中々進めない。
罠が有るかも知れない。
薄暗過ぎて、奥が良く見えない。
確認するには。
クライスが床に手を付こうとすると。
シュルルルルッ!
根っこが床を這って邪魔をする。
意思を持っている様だ。
壁に付こうとしても。
今度は枝が急に伸びて来る。
「そこまで拒絶するか……!」
憤るデュレイ。
対してクライスは冷静。
直接触れられないなら。
ウィドーをガッと掴み。
前に突き出す。
『キンッ!』とウィドーに魔力を注ぐと。
周りがパアッと光って、魔力の流れが光となって現れた。
その筋が現れたのは一瞬だったが。
クライスは全て記憶した。
そしてじっと考える。
流れを頭の中で辿る。
乱れている様で、何処か1箇所から放出されているのが分かる。
クライスは或る方向を指差す。
「あちらに在るのは、何の部屋ですか?」
それは廊下の突き当りでは無く。
少し奥へ進んだ所に有る、階段の様な物の上方。
確かそこには……。
思い出そうとするデュレイ。
……そうだ!
「書斎です!父上の!」
「そこか……。」
デュレイの答えに、ジッと目を凝らすクライス。
会話を聞いていた様にさわさわと枝が茂り始め、階段を登るのを妨害しようとする。
ビンゴ!
過剰反応は、正解の証。
「行きましょう。」
クライスはデュレイに、上の階へ上がろうと促す。
それには同意するも。
どうやって、あの邪魔な枝共を排除するか。
剣で切り裂くか……?
しかし、また生えて来られては困る。
攻めあぐねるデュレイに。
黙って頷くクライス。
『また俺?』と言った顔付きのウィドー。
鷹匠の様に、クライスは右手首へウィドーを装着。
スッと居合切りの構えの様に、右手を腰に回す。
剣を抜く動作の様に、フッと右手を水平に振る。
シュッとウィドーは飛び立ち、階段の先へと飛んで行く。
「大丈夫なんだろうなあああぁぁぁ!」
大声を上げながら突進するウィドー。
正に接触せんとする時。
ブワサァッ!
枝が網の様に広がって、ウィドーを捕らえようとするも。
ウィドーの前には逆に、金の円盾が現れる。
盾に触れた枝が、次々と金へと変わる。
それに恐れをなしたのか、塞いでいた枝はシュルルと引っ込んだ。
取り込まれると判断した様だ。
お陰でウィドーは、階段に沿って勢い良く上昇する。
「何処まで行けば良いんだあああぁぁぁ!」
叫びながら、ウィドーの姿が見えなくなる。
クライスは天井へ向かって叫ぶ。
「魔力の一番濃い所へ突っ込め!盾で防御出来る!」
その言葉が聞こえたのか。
やけくそになったのか。
姿の見えないウィドーは何処かへ突っ込んで、『ズーン!』と言う振動と共に物音がピタリと止んだ。
デュレイの足元には。
クライスの右手首から延びた、金の糸が。
「これを辿りましょう。」
金の糸を指差しながら、クライスは歩き出す。
自分の家なのに、クライスの後へ付き従うデュレイだった。
前を確認しながら、ゆっくりと進んで行く。
ウィドーが突き当たってからは、特に周りの動きは無い。
罠の様な仕掛けも、今の所は無い。
階段を上る2人。
元は頑丈な木材で出来ているらしい。
みしみしっと、歩く度に軋む音。
何時底が抜けるかと、ひやひやしながら歩くデュレイ。
階段を登り切ると。
目の前は、また樹海。
今度は剣を振りながら、デュレイが前になって歩く。
出っ張った木々を切り刻む。
反応無し。
少し安心するが。
益々状況が気になる。
父上の書斎までもう少し。
待っていて下さい!
今駆け付けますから!
心の中で叫びながら、平静を装うデュレイ。
そしてやっと書斎の前に。
意外な事にドアは開けっ放し。
道理で、ウィドーが進めた筈だ。
障害物が何も無いとは。
ここまで入られるのは、向こうにとって想定外だったのか?
そもそも、この中に居るのは……。
ええい、ままよ!
デュレイは剣を両手で前に構えながら、書斎に踏み込んだ。
すると。
うううぅぅーーーーーっ!
書斎らしい物がたんとある。
本棚、ローテーブル、ソファ、書斎用の机、一人掛けの椅子。
それも、生い茂る草々の隙間から判別出来る程度。
その中から聞こえた、呻き声。
書斎机の向こうからだ。
椅子に座っている影が見える。
その姿は、確かに。
「父上!」
咄嗟に足が前に出るが。
デュレイの身体に抱き付き、クライスが懸命に止める。
「まだ!まだです!」
「しかし!」
クライスを振り切ろうとするも。
ごめん!
ゴスッ!
謝りながら、デュレイの腹に掌底を入れるクライス。
うぐっ!
蹲るデュレイ。
それで我に返る。
父の姿を見ようと、顔を上げると。
それは父の顔そっくりな、木の幹だった。
何と!
このまま進んでいたら、どうなっていたか……。
取り乱してしまった事を恥じる。
この様な状況でも尚冷静なクライスに、同時に感謝する。
しかし、聞こえたのは確かに父上の声。
聞き間違えはしない。
「一体、どうなっているのやら……。」
デュレイは呟く。
それに応える様に、クライスは部屋の隅を指差す。
そこは左斜め前方。
真正面の壁には窓があるが。
カーテンが閉められていて、外の景色は見えない。
薄暗い中でも、より見えにくくなっている所に。
父親の姿を見つけるデュレイ。
今度こそ!
デュレイは再び、両手で剣を構える。
それを制して、クライスが前に出る。
「ここは任せて下さい。」
その目は真っ直ぐ前を向き。
澄んだ目をしている。
得体の知れない相手。
相対するのは、自分より彼の方が適している。
一歩後ろに下がるデュレイ。
『この場は託しましたぞ』、と言う意思表示。
ここからはクライスの出番。
さて、彼はどう切り抜けるのか?




