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第156話 工場地帯、もとい職人街

「すぐに追い付くからな。」


 そうトクシーに約束して、デュレイはクライスとウィドーを伴い実家へと向かった。

 こんな形で里帰りするとは。

 考えてもいなかった。

 陛下の為に尽くそうと決心し。

 両親に見送られながら旅立ったのが、昨日の様だ。

 もう十数年経っていたのか。

 不思議な気分。

 しかし、過去に酔っていてはいられない。

 両親、少なくとも父親は。

 昔とは違う可能性が有る。

 気を引き締めるデュレイだった。




 対照的に。

 何故選ばれたのか分からないウィドー。

 戸惑いながらも、クライスの右肩に留まって考えている。

 首を捻りながら。

 その姿は鳩っぽい。

 ハッと気が付き、威厳を保とうと背筋を伸ばす。

 その耳元でクライスが囁く。


『結構重要な役処やくどころだ。気合を入れろよ。』


 その前に、俺を連れて行く理由を説明しろよ。

 そう突っ込みたかったが、またやり込められるのを恐れて黙っているウィドー。

 逆に澄まし顔のクライス。

 腹案がある様だった。




 デュレイ家が管轄する一帯は、工場群。

 と言っても、現代的な工場では無く。

 寧ろ『職人の町』と言った方が良いか。

 ここには、武器や鎧の職人。

 家具や馬車の製作者。

 そして、雑貨や道具を製作する者達が集っている。

 あちこちの家屋から煙突が延び、煙がもくもく出ている。

 元々活気の有る地域だが、以前にも増して覇気を感じる。

 それは恐らく、例の大量注文のせいだろう。

 武器をたくさん作らせて、何をしようとしていたのか?

 もしかしてグスターキュ帝国への侵攻を当て込んで、事前に確保してしまおうと言う腹だったのか?

 売りさばけるだけ売って、即逃げするつもりの可能性も。

 デュレイはあれこれ考えてみるが。

 それよりも実家の様子が気になって、上手く頭が回らない。

 気付かないまま、デュレイは早足になっていた。




 家屋の前を通り過ぎる度、声を掛けられるデュレイ。

 ここは庭の様な物。

 小さい頃から、父親の視察に付いて来ていた。

 なので、職人達は顔馴染かおなじみ

 町中まちなかの道は入り組んでいるが、スッスッと進んで行く。

 この辺りは、以前と変わらない。

 やはり変わったのは、あの検問所だけの様だ。

 では何故、あそこだけを造り替えたのか?

 それは問い詰めれば分かるだろう。




 デュレイに付いて行くクライス。

 平然とした顔が空恐ろしいウィドー。

 一体俺に何をさせるのか?

 不安ばかりが膨らんで行く。

 それを察してか、再度クライスは囁く。


『そんなに固くなるなよ。やる事は単純だからさ。』


『本当か……?』


 勘繰るウィドー。


『ああ。内容は……。』


 ごにょごにょ。

 クライスの話に。

 驚愕するウィドー。

 出来るのか、そんな事が?

 疑う目付きでジッと睨む。

 ニヤッと笑うだけのクライス。

 その卑怯さがにじみ出た微笑みに、再度戦慄するウィドーだった。




「着きましたぞ。」


 デュレイが、一軒の屋敷の前で立ち止まる。

 煙突だらけの周り。

 そこから出る煙を煙幕とする様に。

 たたずむその光景は、雲に浮かぶ幻の如く。

 不思議さと不気味さが同居する。

 屋敷は高いレンガ塀と、その上に設置されている棘付きフェンスで囲まれている。

 泥棒避けにしては、念の入れ様。

 寧ろ逆に、屋敷から逃すまいと言った風。

 正面へと回ろうとしたデュレイの腕を、ガッと掴んで引き止めるクライス。

『何事か?』と眉をひそめるデュレイに。

 クライスがこっそり覗く様促す。

 指示の通りにすると。

 門の前に、見慣れぬ影が2つ。

 クライスがデュレイに尋ねる。


「あれに見覚えは?」


「全く有りません。」


 即答するディレイ。

 家を出るまでは、デュレイ家と住民は心通じ合う仲だった。

 門番など必要無かった。

 逆にデュレイが尋ねる。


「何故、立たせているのでしょう?」


 デュレイは、文句を言って来る連中を追い帰す為と考えた。

 しかしクライスは違った。


「余程、あなたの家族を外界から遮断したいらしい。良く見て下さい。」


 デュレイは再び、こっそり覗く。

 立っている影は、家の周りを気にする素振りをしていない。

 塀越しに見たり、門から覗いたり。

 屋敷の中ばかりを確認している。

 クライスの言わんとする事を、理解するディレイ。

 静かに頷いて、サインを示す。

 仲が良かったからこそ。

 こちらに文句を言わず、元検問所のカウンターに言い寄っていたのだ。

 それを向こうが分かっているから、家の周りは警戒していない。

 ならば。

 クライスはこう言った。




「正面から堂々と行きましょう。」




「おいおい!大丈夫なのか!」


 焦るウィドー。

 幾らこいつの実家だからとは言え。

 中はどうなっているか分からない。

 迂闊に近付けば敵意を向けられ、何をして来るか……。

 ウィドーの懸念は分かる。

 だからこそなのだ。


「真正面から攻撃して来る奴なんて、想定していないさ。そう言う人選だ、あれは。」


 クライスは細かく見ていた。

 攻撃用の武器を、門番らしき者達は持っていない。

 寧ろ、鎧と盾でガチガチに防御を固めている。

 屋敷から出るのを阻止するだけで良いのなら。

 武器よりも防具を選択するだろう。

 それは即ち、動きが重く回避能力が劣るという事。

 素早く近付いてしまえば、無力。

 後はするりと通り抜ければ良い。

 盾を押し付けられても、中へ入る推進力となる。

 話は決まりだ。

 早速動き出す2人。

 ガッと掴まれた事で、デュレイの顔から焦りの色が消えていた。

 冷静なクライスに感服しつつも。

 頼もしく思う。

 クライスと一緒なら、何とかなる様に思えた。




 スタスタスタ。

 門番に近付く2人。


「誰だ!」


 当然、門番は怒鳴る。

 しかし。


「俺を知らんのか?」


 デュレイが一睨み。

 一瞬怯んだ隙を付いて。

 門の前にするりと立つクライス。

 右手で手刀を作り。

 上から門のかんぬきに、シュッと振り下ろす。

 スッと何かが、閉じた門の間に差し入れられた様な錯覚。

 門番がそう感じた時には。

 ギギギイイイッと、少し門が開く。

 鉄製のそれは。

 ちょいとつついただけで、慣性で勝手に開いていく。


退け!」


 門番の片方をドンッと突き飛ばすデュレイ。

 防具が重過ぎて、クラクラよろめく。

 押し通ろうとするデュレイの前に回り込もうとする、もう一人を。

 今度はクライスが転ばせる。

 と言っても、門番の踏み出した足の前にスイッと球を転がしただけなのだが。

 合気道の様に、相手の力を利用する。

 非力な方に分類されるクライスの、得意とする所。

 バタンッ!

 何かに足を滑らされた様だが、それらしき物は見当たらない。

 まごまごしている内に。

 2人の姿は無かった。

 不味まずいっ!

 門番2人が顔を見合わせて、立ち上がろうとすると。

 急に背中が重くなった。

 背中から地面に落ちて、もがく2人。

 クライスが作り出した金のボール、それを等分して2人に背負わせた事なんか気付きもしない。

 しかも増量、門の閂を拝借して。

 その内。

 誰かが通りすがるのを期待する様に、2人の動きは止まった。

 もがけばもがく程、体力が失われる。

 仕方無い。

 しかし滅多に人が近寄らない事を思い出し、『助けてくれー!』と叫ぶ事しか出来ない2人だった。




 こうしてまんまと敷地内へ侵入した2人。

 デュレイの実家なので、侵入と言う表現は不適切だが。

 門から玄関までは20メートル程、レンガ敷きの道で結ばれている。

 両脇は、等間隔で低木が植えられている。

 胸を張り、歩く2人。

 結構中は広い。

 庭の手入れは……されていない。

 草ボウボウが何箇所か。

 明らかにおかしい。

 玄関の前に立つと、良く分かる。

 木製のドアは、鉄で縁取りされているが。

 相当傷んでいる。

 体当たりすれば通れそうな。

 それでも一応、ノックするデュレイ。

 中へ向かって、大声で叫ぶ。


「エメロー・デュレイ、ただ今戻った!誰かおらぬか!」


 返事が無い。

 再度ノックするが、中から音が聞こえない。

 もう、こうなれば。

 覚悟を決めてドアの取っ手を掴み、開けようとするデュレイ。

 しかしそれ程の力を必要とせず、ドアは開いた。

 中を覗き込むと。

 驚きの光景が広がっていた。

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