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第154話 貧者の行進

 外周の内側に沿って続く道を、ガティの東部に向けて進む一団。

 だんだん人気ひとけも増え、賑やかになって来たが。

 元スラッジ民の顔は、少し強張こわばって来る。

 野郎共が住んでいた地域を過ぎ、一般人が暮らす区域へ進むに連れ。

 こちらを見てクスクス笑う声。

 立ち話をしている人も。

 すれ違う人も。

 物珍しさと、遠ざけようとする意識から来る、見えない壁。

 何せ、元スラッジ民は身なりが酷い。

 服はボロボロ、背負っている荷物袋も継ぎぎだらけ。

 冷たい視線が突き刺さり、窮屈に感じる者も出始める。

 自然と隊列が縦長になる。

 歩みが遅くなって行くのを懸念し、トクシーはラヴィに相談する。


「このままでは、針のむしろです。どうしましょう?」


「うーん、そうねえ。」


 そう言ってラヴィは、かなり後ろを歩くクライスを見やる。

 クライスの表情は変わらず。

 さも当然の様に。

 ラヴィは少し考えて、トクシーに返事する。


「このまま行きましょ。」


「でも、後ろを続く民が……。」


「可哀想?それは筋違いよ。」


「……?」


「クライスはあそこを出る前に聞いた筈よ?相当の覚悟を持つ気は有るかって。」


「確かに……。」


「これ位で参ってる様では、この先も無いって事。」


 一番後ろを歩く事によって、覚悟から来る精神の強さを鼓舞しているのだ。

 クライスは。

 ラヴィはそう考えた。

 自分も焚き付けた身。

 甘えは許されない。

 心を鬼に。

 トクシーも了承した。




 ラヴィの気丈な振る舞いに、馬の頭に乗っかっているメイはふと思う。

 流石、王女様なだけあるわね。

 それに比べて、この娘と言ったら……。

 振り返り、馬車のハリーを見る。

 子供だから、仕方が無いのかも知れないけど。

 一々何かが起きる度、大げさに反応し過ぎ。

 ドーンと構えていれば良いのに。

 どれだけ今まで過保護にされて来たのやら。

 トクシーに依存しようとしたと思えば、今度はセレナ。

 少しは成長しなさいよ。

 仮にも12貴族とやらなんでしょ?

 そこまで思うと、段々眠気が襲って来たので。

 こっくりこっくり。

 もう、どうでも良くなった。




 メイにそう思われているハリーは。

 セレナをジッと見ていた。

 今はいつも通り。

 気品に満ちた顔付き。

 さっきのは幻?

 そう勘違いさせそうな程。

 これが大人の女性?

 いやいや、年はそんなに離れていない筈。

 なのに、あたしとこれだけ違いがあるのは何でだろう?

 疑問が頭を渦巻きながら、それでも正気を保とうとする。

 直感で感じているのだろう。

 これは変われるチャンスだと言う事を。

 そんなハリーの様子を、少し離れた所から見ているリンツ。

 これまでは魔物に体を乗っ取られていた為、ハリーの成長の記憶は断片的。

 しっかりと目で捕らえて来れなかった。

 教育係として、世話係として。

 十分使命を果たして来たとは言えない。

 だからこの旅で期待する。

 ハリーの内面での成長を。

 我が儘に育ってしまうのは、貴族の家では有りがちなので仕方が無いにしても。

 人の痛みを分かる人間には、せめて成って欲しい。

 その為に自分は何が出来るか?

 思案しながら歩くリンツだった。




 視線に耐えられなくなった女性が、とうとう足を止める。

 すかさずクライスが傍に寄る。

 クライスの胸ぐらを掴み、絞り出す様な声で訴える女性。

 フルフル、首を振りながら。


「もう……耐えられません……。」


 しかしクライスは、軽薄とも取られそうな返事を。


「それで?」


 期待外れの返答に、涙をぽろぽろ。


「それでって……あんまりじゃないですか……。」


「だから?」


「せめて身なりだけでも、何とかして下さい……。」


 女性の懇願に、クライスは。




「この期に及んで、まだ変なプライドを捨て切れないのかい?」




『ギクッ!』とする女性。

 プライド、即ち甘え。

 覚悟を決めた筈なのに。

 全然足りていない。

 クライスは、少し前を歩く子供達を指差しながら言う。


「あの子達を見てごらん?前向きな顔をしているだろう?」


 子供達は皆、明るい顔をしていた。

 それは、恥よりも好奇心の方がまさっているのか。

 それとも何も考えていないだけなのか。

 子供特有のあどけなさが、ここではプラスに働いていた。

 自然と、一緒に歩く年寄りの顔も緩んでいる。

 周りの視線が気にならないかの様に。

 もう一度クライスは言う。


「それで?」


「……分かりました。」


 女性は掴んでいた胸から手を放し、止めていた足を再び前へ。

 完全に納得した訳では無い。

 視線が痛いのは、今もそうだ。

 でも考えてみると。

 今までの暮らしは、もっと酷かったではないか?

 お互い傷をなめ合い、今味わっている様な突き刺さる視線から逃げまくって。

 正面から向き合って来なかった。

 でもこの人は、チャンスをくれると言った。

 くれるなら、すがりたい。

 そう思って、付いて来た。

 でもただ付いて行くだけでは駄目なのだと。

 この行進で示しているのだ。

 そこまで考えて、ようやく気持ちが収まった。

 足取りはもう、しっかりとした物に戻っていた。




 クライスが一番後ろを歩いているのは、襲撃を警戒しているからだけでは無い。

 こうやって、心がくじけそうになる人をフォローする。

 そして前に向かう気持ち、モチベーションを高く保つ様ケアをする。

 心の強さは、信念の強さ。

 変わりたいなら、まず心から。

 身なりなど、後でどうとでもなる。

 その為に。

 建物を変換する時、換金し易い様な物に限定したのだ。

 食器類なら使って良し、飾って自慢しても良し。

 なので、換金率は高くなる。

 そこまでクライスは考えていた。

 その上で、皇帝陛下と面会する。

 悲惨な現状を訴えるには、小綺麗な格好に着替えるのは反って逆効果。

 寧ろこのままが良い。

 変に貧乏を装うよりもリアリティーが有る。

 それに、デュレイは『この方が都合が良い』と言った。

 クライスは地獄耳。

 それも考慮に入れた上で。

 この行進。

 元スラッジ民を晒し者にしたい訳では無い。

 クライス側から見れば、醜態を晒しているのは見物人の方。

 指を指して笑っている。

 人を見下す事によって自分の立ち位置を高いと思い込み、安心感を得る。

 正に下衆げす

 そう周りに吹いて回っている様な物。

 それに気付かないのは、周りもそうだから。

 クライスはそんな人達を見て、気の毒に思う。

 こうして変われるチャンスを提示しているのに、それを生かそうとしないとは。

 皆が皆、クライス程に頭が回るとは言えない。

 かと言って、クライスは完璧主義者でも無い。

 それ相応の期待をし、見返りを求めるだけ。

 ちゃんと応えてくれる人には、全力で応援する。

 背中を押してあげる必要のある人には、フォローを入れる。

 さっきの女性の様に。

 それでも動かない人は。

 仕方無い。

 自分に出来る事はそこまで。

 後は自滅でもするが良い。

 そう言う人間にも散々出会って来た。

 最初は何とかしようとしたが、その内無駄だと悟った。

 頑なに拒否をする人を無理に動かそうとしても、逆に硬直する。

 幼心おさなごころに思い知った。

 周りから見ると、ドライに見えるかも知れない。

 でもそれが、クライスの処世術。

 アンがそれを理解するには、時間が必要だったが。

 時間を要したが故に、その間を埋める様アンは努めていた。

 女性を周りくどいやり方で鼓舞するのも、ちゃんと見ていた。

 クライスの一挙手一投足を見つめ。

 心に刻み込む。

 何時でも自分は味方だと主張する為に。

 本人はそう思っていないが、半ば呪いの様な。

 心理面ではややこしい兄妹だった。




 クライスの適切なフォローもあって、何とかスピードを余り落とさず進んで行く行列。

 ガティの外周部分、その又東部中心に来た時には。

 周りは、工場と住宅が入り混じった光景となっていた。

 トクシーは早速、内周との壁に設けられている検問所を探す。

 しかしそこでは、何やら揉め事が起きている様だった。

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