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第152話 手薄の警備、その中を

 新しく出来たトンネルの様な空洞を、一行が通る。

 そして皆振り返る。

 墓地側は。

 多少蔦などが茂っているが、建造当時の面影を残している。

 外周の内側を改めて見てみると。

 そこに、石が積み上げられた面影を見る事は出来ず。

 ただ表面がのっぺらぼう。

 まるでセメントでも塗りたくった様に。

 そんな風に修復された跡が、上書きをする様に重なっている。

 度々ここで、いざこざが有ったのだろう。

 それに辟易した人々がここでの暮らしを捨て、もっと内地へと動いて言った。

 具体的にはそんな所か。

 かつて盗人だったスラッジ民は、『この辺は治安が悪くなって、腕に自信を持つ者か家賃を安く済ませたい様な者しか住まなくなった』と話す。

 結構な数の家々が立ち並んでいるが。

 窓はほぼ閉まっている。

 辛気臭い、通りの雰囲気。

 ここもいずれ、活気に溢れる様になるだろうか。

 全てはこれから次第。




 王宮防衛の関係上、内周の北側には検問所が設置されていない。

 王宮の入り口は、人が一番集まる南側の真反対に置く必要が有ったからだ。

 なので一行は、東の検問所を目指して歩く事となった。

 外周に沿って、大きな通りが続いている。

 そこを時計回りに進む。

 道幅は、馬車がすれ違っても人一人余る位。

 壁から離される感じに建物が建っているのは、きっと反乱勢力が隠れて壁を破壊しない様にする為だろう。

 それだけ警戒している筈なのに。

 住民の自治権に任せているのか、兵士の姿は見当たらない。

 帝国軍は不可侵なのか?

 そう思わせる程。

 なので、易々と歩く事が出来る一行。

 ラヴィは『もっと警戒が厳重だと思ったけど』と、多少拍子抜けしていた。


「ビンセンスさん、兵士はここまで手が回らないんですか?」


「いえ、ここは何故か《警備対象外》だったのです。まさかこの様な状態とは。」


 アンの問い掛けに即答するトクシー。


「警備の担当などを統括する人は?」


 続けて尋ねるアン。

 少し考えて、トクシーは答える。


「今はどうか分かりませんが。私が陛下を警護していた時は確か12貴族の1家、【ナラム家】だった筈です。」


 それを聞いたアンは、一番後ろに居るクライスへこの事を報告。

 助言を求める。

 短い時間だったが、話し合いをした後。

 アンは先頭に戻って来る。


「兄様の見解ですが、今もその人達である可能性が有るそうです。そして……。」


 一呼吸置いて、アンが一言。




「なら当然、王族反対派。つまり敵と言う事になる、と。」




「やはりか……。」


 頷くのはデュレイ。

 旅の中で得た情報。

 その中に、それは在った。

 確かな証拠が有る訳では無いが。

 前にナラム家に仕えていたと言う兵士が、ポロッと漏らしたのだ。

 クライスの見解がその通りならば。

 反対派の人間を入り易くする為に、この辺りの警備をわざと手薄にしている事になる。


「反対派が敵とは、どう言う意味でしょうか?」


 念を押す様に、アンの伝言に反応するのはリンツ。

 てっきり王族反対派と言うのは、現体制に不満があるだけの集団とばかり。

 政敵と言う印象は無かった。

 暗殺未遂も、その一部が暴走しただけ。

 そう言う認識だったのだが。

 それには、ラヴィが答える。


「そのまんまの意味よ。ハリーの政略結婚も、王族が一枚岩では無い事を示す為の揺さ振りよ。」


「そんな……!」


 ハリーが政争の具だけでは無く、瓦解工作の駒に利用されようとは。

 そこまで深刻な事態になっている事を、リンツは知らなかった。

 無理も無い。

 魔物に体を乗っ取られている間の出来事なのだから。

 約束が違う!

 私はムヒス家を助ける為、魔物に体を預けた筈!

 それがこのざまか!

 リンツは、馬車に乗っているハリーをちらっと見る。

 セレナの隣で、すまし顔のハリー。

 不安ではあるものの、希望も捨てていない。

 12貴族としての誇りを持った顔付き。

 それを揺るがす訳には行かない。

 何としても、旦那様を無事お救いせねば。

 硬く心に留めるリンツだった。




 外周の道路は石畳。

 整備されて時が経ち過ぎたのか、壁が崩壊しなければ道はどうでも良いのか。

 凸凹でこぼこのボロボロになっていた。

 なので、馬車の上は多少揺れが大きくなってきた。

 弾む様な動きのセレナとハリー。

 ガクンガクンするので、酔って来たのかも知れない。

 ハリーの顔色が少し青くなって来る。

 セレナが、先頭のトクシーに声を掛ける。


「少し休んで貰えませんか?ハリーがどうも酔った様で……。」


「あたしは大丈夫……ウップ!」


 喉から込み上がって来る物を、必死に我慢するハリー。

『これはいかん!』と、トクシーは隊列を止める。

 思い返すと、こちら側に出てから休憩を取っていなかった。

 テンションが上がっていたからかも知れない。

 良く見ると、元スラッジ民の中にも疲労の色が濃い者がちらほら。

 しまった!

 しくじった!

 何たる失態!

 ようやく帝都に入れ、陛下の御前までもう少しとなって。

 周りが見えなくなっていたのかも。

 反省するトクシー。

 気持ちを察したのか、デュレイが声を掛ける。


「陛下に早くお会いしたいのは、俺も一緒だ。」


「デュレイ……。」


「ここでしっかりしないと、今までの苦労が水の泡だ。」


 そう語るデュレイの目は、真っ直ぐ前を見据えていた。

 無言でトクシーを励ましている。

 そうだな。

 焦ってしまっては元も子も無い。

 ここは確実に、辿り着く事を考えよう。

 冷静さを取り戻したトクシーは。

 クライスに断りを入れ、休憩を取る事にした。




「お婆ちゃん、疲れてない?」

「何か有ったら言って。」


 子供達はこまめに、年寄りへ声掛け。

 弱者同士、助け合って来たのだろう。

 年寄りも、子供達には遠慮無く要望を言った。

 水を馬車の荷物から取ろうとする。

 届かないので、セレナとロッシェが手を貸す。

 受け取ると、スサササと戻って行く。

 献身的な態度を見て、ロッシェが呟く。


「あんな所で暮らしていても。コミュニティがしっかりしていれば、ちゃんと育つもんなんだな。」


 自分の故郷とは全然違う。

 もっとギスギスしていた。

 思い返したくも無い。

 セットで、売られて行った姉を思い出してしまうから。

 そんなロッシェの頭をポンと叩くセレナ。


「あなたもしっかりして来たわよ。胸を張りなさい。」


「師匠……心配掛けて、済まねえ。」


 俺は昔とは違う。

 姉を探す旅から、姉を取り戻す旅に変わろうとしている。

 騎士として、迎えに行く。

 きっと。

 そう思い直すロッシェだった。




 道一杯に広がって、一行は羽を休める。

 どうせ誰も通らないだろうと思って。

 ところが。

 馬車の方へ、家々の間から迫って来る人影。

 1人では無く。

 7、8人。

 皆ガタイが良い。

 かと言って兵士でも無い。

 ここで暮らす傭兵か?

 一行に不安と警戒感が広がる。

 親の後ろにサッと隠れる子供達。

 年寄りを、迫る集団から遠ざける様に馬車の陰へ移す。

 馬車の前に人垣を作って、防御態勢。


「誰だ!」


 人垣の前に立ち塞がり、槍を構えて迫る集団に威嚇するロッシェ。

 集団から返される、その返事は。

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