第151話 乗り越えるべき壁を
「高っ……。」
思わず声を上げるラヴィ。
墓地を抜けようとしたその時。
目の前に聳え立つは、3メートル程の石垣。
と言うより、石壁?
とにかく、大小様々な大きさの石が積み上げられて出来ていた。
トクシーがそれに触りながら言う。
「これが外壁です。この中に人は住んでいます。」
「ここの人も人間ですけど!」
トクシーの言葉にイラッとしたのか、突っかかるラヴィ。
『いやいや、そう言う意味では無くて……』と、慌てて言い繕うトクシー。
『何言ってんの、あんたも大概でしょ?』と、アンがこの場を収める。
旅をしてなきゃ、知らなかった世界。
なら、お相子じゃない。
偉そうな事言えないわよ?
アンはそう言いたかった。
カッとなったとは言え、確かに分かった気になっていた。
急に恥ずかしくなり、縮こまるラヴィ。
いやはや何とも、しっかりしたお方だ。
アンに感心するトクシー。
背負っている物は若干違うが、大きさは変わらない。
王女の地位、宗主家の地位。
どちらも特殊。
でも、これまでアンは兄の為に苦労してきた。
何かあれば即出向いて。
双方の言い分を聞き、対処して来た。
可哀想なのかどうか分からないが、普通の女の子が経験しそうに無い場数を多く踏んで来た。
だから人を評価する目は、ラヴィよりは有ると自負していた。
知ったか振りで語られるのは、我慢ならない。
そこから来る威圧感は、高尚な物では無い。
高貴なオーラでも無い。
ただの使命感。
宗主家としての。
大変な境遇にある兄を支える、妹としての。
しかし悲しい事に。
クライスから見れば、それも一種の驕りだった。
15才程の、成人したてには荷が重過ぎる。
その呪縛から解放したい。
それも、クライスの願いの1つだった。
「さてどうします?」
現実に戻って、トクシーがラヴィに言う。
案内してくれたネルが、少し離れた場所を指差す。
「普通は、あの穴を通って行くのですが……。」
今居る地点から、左に4メートル離れた箇所。
ヒビに良く似た、割れ目の様な物。
「墓参りに行けなくなった住人が、抗議の意味で突き破った後です。そのまま使われています。」
「墓地へ行くのを禁止されてたの?」
「スラッジとは隣り合わせですから。塞いで置かないと不安だったのでしょう。」
ネルは視線を落として、そう言った。
ラヴィは困った顔をする。
「どの道、この大きさじゃあ馬車は通れないわね。突き破る?」
軽い考えの様に思えて、意外と真剣。
何せ、クライスが集落を消してしまったのだ。
スラッジに暮らす者は、もう居ない。
そこを突いて、敵が侵入して来るかも知れない。
現に、教会裏を転移先に指定していた位だ。
でももう、それも無い。
派手にクライスがやらかした事は、もう敵にも知られている筈。
となると、このルートは危ないと考える。
ここを避け、別ルートを模索しているかも知れない。
考える程、ここの防御壁は無意味に感じた。
一応ラヴィは、トクシーに確認する。
「この壁は、どの位の規模なの?」
『うーん』と考え、思い出そうとするトクシー。
そしてカッと目を開いた。
思い出した様だ。
「確か幅2メートルで、ぐるりと町を囲んでいるかと。その上を、兵士が歩けるようになっている筈です。」
「と言う事は、向こう側には登る為の階段があるのね。」
「所々、間隔はまちまちですが。」
「でもこっちには無い、か。」
「はい。」
「そりゃそうよねー。簡単に乗り越えられたら敵わないもの。」
造った意味が無くなる。
だから外周を一繋ぎにして、堅固さを保っているのだ。
ならば。
「他から町を訪れる事が出来るんだから、検問所みたいなのが在るわよね?」
「在る事には在りますが……。」
そこで言葉に詰まるトクシー。
「ここは町の北東に位置します。ここから一番近い東の検問所までには、壁に沿って通っている道は有りません。獣道位しか……。」
「面倒臭いわねー。」
そう言ってラヴィは、チラッとアンの方を見る。
こうなると、もうアンの心積もり次第。
「仕方無いわね……。」
トコトコと裂け目まで近付き、右手をそっと添える。
『何かをする様だ』と、スラッジの人達が見物に前へ出て来る。
総勢80人程、老若男女が見守る中。
賢者の石が光る。
キンッ!
ズアアアァァァッ!
「まあ、こんな物かしら。」
そこには。
鉄製の扉。
馬車が通れる程の幅で。
天井は鉄製のアーチ状、そして跳ね橋の様にパカッと開く仕組み。
上を歩ける様に繋いでおかないと、『けしからん』とぶっ壊され造り替えられてしまう。
このまま残した方が頑丈だと思わせる為。
敢えて鉄製にした。
「中は真っ直ぐに刳り抜いといたから、幅の大きい物でも通れるわよ。」
アンの解説が終わるのを待たずして。
子供がワアーッと群がる。
「すっげー!」
「何これ!」
「良いかな?もう入っても良いかな?」
その輪の中には、ケイの姿もあった。
皆、爛々と目が輝いている。
その時クライスが、群がる人に向かって叫んだ。
「この向こうは、もう別世界だ!覚悟を決めろよ!そして置いて行け、安いプライドは!」
「どう言う事?」
子供達は頭を傾ける。
大人には通じた。
でも子供には難しい言い回し。
なのでクライスは、優しく子供達に言う。
「今までの暮らしがどうとか、あっちの人間はどうとか。『スラッジでの事を、上手く行かない時の言い訳にするな』って事。」
それでもまだ分からない様子。
ラヴィが付け加える。
「向こうへ行って『嫌だ!』って駄々をこねる位なら、通らずに引き返せ!って言ってるのよ。」
「え?でも、もうお家は無いし……。」
「そうだよー。早く通りたいよー。」
困る子供達の頭を優しく撫でながら、ラヴィは言う。
「だから、『どんな時も諦めるな』。これよ。約束出来る?」
「「「うん!」」」
元気に答えた子供達は。
本当に理解したのか。
分からなかったが。
笑顔で満ちていた。
今までの暮らしよりましだろう。
そう考えているのだろうか。
それとも好奇心が勝り、鉄の扉を開けて早く通りたいだけかも。
でもきっと、この子達の未来は明るいに違いない。
ラヴィはそう思った。
大人が数人掛かりで、扉を引き開ける。
するとそれに連動して、天井も開いて行く。
子供達が向こう側を覗くと、向こうでも扉が開いていた。
通りたくてうずうずしている子供達を差し置いて。
まず、トクシーとデュレイが通る。
抜けた先に何が居るか分からないからだ。
ヘルメシアの正式な騎士である両人が、まず様子を探る。
確認が済んだ様だ。
皆を手招きする。
それを見て、大喜びで子供達が突入。
慌てて親が追い駆ける。
体力の弱い年寄りと、馬車はゆっくりした歩み。
殿は勿論、クライス。
気配が無いのを確認して、サッと通り抜ける。
そして再び、数人掛かりで扉を閉める。
ギギギイイイッ!
バタンッ!
勢い良く閉まった扉。
これで簡単には侵入されないだろう。
守りは堅持したまま。
心置き無く進める。
通り抜けたは良いが。
そこは妙に、人気が無かった。
とにかく中央へ進まねば。
しかしやはり、事はすんなりとは行かなかった。




