第15話 要塞の中で
「そこで暫く、大人しくしてな!」
ドンッと突き飛ばされ、一行は牢に入れられる。
しかも慎重に慎重を重ね、要塞の中に入る前に目隠し。
あちこちをぐるぐる回らされた挙句、この仕打ち。
容易に逃げ出せない様な工夫。
間違い無く、誰かが入れ知恵をしている。
「乙女にする所業じゃ無いわね!」
『ベーッ!』と舌を出して、精一杯の抗議をするラヴィ。
そんな仕草を微塵とも見せないアン。
どちらが年長なんだか。
呆れるセレナ。
それに比べ、クライスは淡々としていた。
まるで何かを待っている様な……。
外では。
本領発揮とばかりに、うろつく兵士を見つけてはちょっかいを掛けまくるエミル。
見えない何かが飛び回っている。
鳥でも無い、虫でも無い。
何だ……!
兵士達を不安に陥れるには十分。
「お、おい!さっさと出ろ!」
見張りの兵士が伝令役らしき人物とごにょごにょやり取りした後、慌てて牢から出る様促す。
どうやら作戦が上手く行っているらしい。
何も知らない顔をして、牢から連れ出される一行。
また目隠しをされた後、散々歩かされた。
昇っては降り、降りては昇る。
数回繰り返した後、昇り続けてやっと到着。
大きい広間らしく、兵士達の声が壁に響いていた。
そこで目隠しを外される一行。
目の前に現れたのは、気弱そうでひょろっとした中年男性だった。
「お、お前等!こ、ここで変な事が起きてる様だが!何か知ってるだろ!さっさと吐け!」
絞り出して発している、弱々しい声。
なるほど、傀儡には丁度良い人間だ。
「そ、そうなんでさあ。こいつ等が何かしてるんですよ。」
そう言うので精一杯のヤンク。
そして、もう1人が後に続く。
「こいつ等。あんたと【ヘルメシア帝国】に、何か仕掛ける様だぜ。」
「お、おい!領主様に向かって何と言う口を……。」
焦るヤンク。
こっちまで火の粉が降り懸かりかねない。
「悪いな、俺は元々《こっち側》だったのさ。」
こっち側とは。
攻め込んで来た敵国、ヘルメシア帝国の事。
『まさか!』と驚くヤンク。
「お前、村に住んで長いじゃないか!何で裏切る様な事を!」
「なあに、簡単な事さ。俺はスパイだったんだ。傀儡を立てる為のな。」
『へへっ』と下衆笑いする男。
ととっと領主の隣に付き、見下す様に言う。
「これでも俺は、本国で要職を約束された身なんだ。てめえとは違うんだよ。」
「く、くそう!」
「それにしても辛かったぜ。何せあんな辺ぴな所で、じっとしてなきゃいけなかったんだからな。」
『ううっ……』と崩れ落ちるヤンクを見て。
高笑いする男。
「何だ?泣いてるのか?悔しいのか?それはどうも。」
「こ、これで俺の安全は保障してくれるんだよな?」
おろおろする現領主。
それに対して。
「まだお前には利用価値が有るからな。暫くはそのままにしてやるよ。」
ニヤリと笑う。
つくづく腹の立つ顔付き。
ラヴィの我慢が、限界に達しようとしていた。
何とか両腕の縄をほどこうとする。
しかし、もがけばもがく程キツく締まって行く。
「当然だ。俺は錬金術が使える。何か仕掛けをしないとでも?」
『ふん』と自信たっぷりな男は続ける。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺は……。」
「聞く必要は無いね。」
「何?」
「『雑魚が名乗る必要など無い』って言ったのさ。」
「て、てめえ!行商人の分際で……!」
「そうだったら良かったのにな。」
『よっこらせ』と、広間に着いてから長かった土下座状態を止め。
するっと立ち上がるクライス。
続いて他の一行も立ち上がる。
「う、嘘だ!」
その場には。
金になった縄がボトッと落ちる。
「解けない様、金属の糸を編み込んだ〔まで〕は良かったんだがな。甘いね。」
「俺は、本国でも上位に位置する錬金術師に習っていたんだ!そんな簡単に解ける訳が……!」
「でも実際はこう、でしょ?」
『えへん』と偉そうなアン。
兄の実力を知っていれば当然の結果。
「く、そ、が!」
怒鳴ると同時に飾ってあった槍を持ち出し、一直線にクライスを刺そうとする男。
しかし、素早く前を塞ぐ影。
やあーーーっ!
大声で、槍の穂先を突き出す男の懐に潜り込み。
見事に投げ飛ばす。
男は変な悲鳴を上げながら、飾ってあった甲冑にぶち当たり。
そのままぐったりとなる。
「偶には活躍させて下さいな、クライス様。」
にっこりと笑うセレナ。
クライスも反撃の準備をしていたが、使い損ねて少しがっかりする。
「あなた程の人が相手をするまでもありません。私で十分です。」
「素直に礼を言うよ。ありがとう。」
『いいえ』と、少し照れ笑いするセレナ。
やっと役に立てて嬉しかった様だ。
「「何事だ!」」
騒ぎを聞きつけて。
広間の外で護衛していた兵士達が、どっとなだれ込んで来る。
「あ、あいつを捕まえろ!ほ、報酬は幾らでもやる!」
現領主が、クライスを指差しながら怒鳴る。
それを聞いて、『わあーーっ!』と群がる。
しかし急に、兵士達はバタバタと倒れ。
眠り込むと、一斉に苦しみ出した。
あ、もしかしてキーリね?
宿主が危ないと判断したのだろう。
それとも、ラヴィが生命の危機を感じると自動で発動するのかも知れない。
兵士達は、キーリの気まぐれな能力で強制的に悪夢を見せられていた。
私は関係無いわ。
ラヴィは、そう決め込む事にした。
「な、何はともあれ助かった……。」
ホッとするヤンク。
でもまだ終わってはいない。
「お、俺が領主だ!俺が居る内は、貴様等の勝手にはさせんぞ!」
高級そうな椅子にしがみ付き、『権力は渡さない』とジェスチャーする現領主。
タイミング良く、それを終わらせる者が到着。
「ここかい、クライス。あちこちに目印置きまくりで迷ったよー。」
ふわーっとやって来たのはエミル。
彼にはもう1つ、仕事が有った。
「予想通りだったよ。前の領主、牢に入れられてたよ。」
『だろうな』と言った顔のクライス。
最初から生かされていると確信していた。
「え?領主様が幽閉?」
その事をクライスから聞いて、びっくりするヤンク。
「てっきり亡くなっていたかと……。それで領主様が交代したんじゃ……。」
「殺したんじゃ都合が悪かったんでしょう。死体が発見でもされたら、領地の民が疑念を持ちかねませんから。」
ヤンクに優しく告げるクライス。
今度は嬉し泣きするヤンク。
前領主は、相当民衆に慕われていた様だ。
それとは反対に、何この人達。
心の中で呆れながら。
男と兵士達に、現領主まで。
黙々とアンの作り出した縄で締め上げて行く、ラヴィとセレナ。
この、この、この!
無意識に力を込めるラヴィ。
アンの特製縄で身動きが取れなく、ピチピチ跳ねる真似の現領主。
「私のは、そんなチンケな男の技とは訳が違うのよ。そこで反省する事ね。」
心の中を見透かす様な冷たい目。
アンの気迫に気圧され、現領主は諦めた。
「早く!前の領主の容体が少し変なんだ!」
急かすエミル。
作業を一区切り終えたクライスとラヴィが、後を付いて行く。
「ヤンクさん、あなたも。」
『ここは私達が見ていますから』とアンに促され、ヤンクも後に続く。
「こっちだよ!」
先頭に立ってふわりふわり飛んで行くエミル。
エミルが通る度に、石畳の廊下から金の人形がひょこっと顔を出す。
これね、エミルが言ってた『目印』って。
ラヴィは内心そう思っていた。
前に現物を見ていたから気が付く程度の大きさ。
現にヤンクは、気付かずに素通りした。
「都合良くあちこち連れ回されたからね。仕掛け易かったよ。」
敵は用心し過ぎて、自爆していた模様。
ドンドン地下に潜って行く。
広間が在ったのは3階。
今は地下2階。
更にもう1階降りて行く。
そこからは細い道。
その突き当りに、牢が在った。
急拵えに見えたその中で。
ぐったりとした男性が、そっと横たわっていた。




