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第149話 強い思いは、永遠の輝きに

「各自、一旦住んでいた所に戻れ!そこに置いてある物を持って、再度集合!」


 そうクライスが叫んだ後、馬車を取り囲んでいた群集は散り散りになった。

 呆気に取られるハリー。

 馬車へと戻って来たトクシーに、興奮気味に尋ねる。


「一体あいつは何者なの?頭が追い付かないんだけど!」


 涼しい顔でトクシーは答える。


「見たままの方だよ。誰よりも生きる辛さを、そして生きる喜びを知ってなさる。」


「あんたにそこまで言わせるあいつって……。」


 もう黙るしか無い。

 こうなったら。

 見極めてやる。

 あいつを。

 ハリーのクライスを見る目は、侮蔑から好奇心へと変わっていた。




 ネルとケイの母子も一旦戻った。

 スラッジのあちこちから、悲鳴と怒声が上がる。

 親の形見も。

 恋人の贈り物も。

 本当の故郷から携えていた品も。

 皆、金へと変わっていた。

 そして続々と集まって来る。

 その目付きは鋭かった。

 全てクライスに向けられる。

 分かってはいたが、ラヴィにはその光景が辛かった。

 憎まれ役を敢えて買って出る。

 そう言う不器用さが、ラヴィには悲しかった。

 それをすぐに理解出来ない人達も。

 或る子供は泣いていた。


「ママが作ってくれたクマさんがー!」


 ボロボロだったが愛着があった、小さな手作りのぬいぐるみ。

 大切にして来たのに。

 こんな姿に。

 母親にしがみ付いて泣いている子供の元へ、クライスは行く。

 同じ目線になる様しゃがんで、子供に聞く。


「大事な物だったの?」


 泣き止まない子供。

 クライスは続ける。


「こんなに泣いてくれるんだ、クマさんも大喜びだよ。」


「子供に対して、何て言う事を……!」


 いかる母親。

 構わずクライスは言う。


「でも君は、クマさんの方が大事なの?作ってくれたママはどうでも良いの?」


「そんな事無い!そんな事無いけど……!」


 必死に反論する子供。

 そこで優しく言うクライス。


「クマさんが金色に輝いているのは、それだけ愛されてるって事なんだよ。」


「え?」


 ふと泣き止む子供。

 そこで立ち上がるクライス。

 冷たい視線が注がれる中、叫ぶ。




「手元に在る物を見ろ!その《違い》を!」




 違い?

 何を馬鹿な事を。

 違いなんて……。

 そこで誰かが気付く。

 確かに建物は消え、食器等に変わった。

 しかし思い出の品は、形そのまま金に変わっていた。

 ハッとする群衆。

 クライスは続ける。


「ここは最早過去では無い!だから生活臭のする物は変えた!けどな……!」




「心の支えは!思い出は!輝いたままで良いだろう!違うか!」




 そう、クライスはただ闇雲に周りの物を変換したのでは無い。

 それぞれに込められた思いを汲み取って。

 支えとなって来た物、大切にして来た物は区別した。

 永遠に輝ける様に。

 金は確かに他の金属に比べて柔らかいが、耐食性は高い。

 何時までも輝き続ける。

 心も同じ。

 志や信念は貫き通せる。

 そう言いたかった。

 回りくどいやり方になってしまったが。

 改めて、子供に話し掛けるクライス。


「クマさんが金色なのはね、君もママも大事にして来たからなんだよ。分かってくれるかい?」


「うーん……。」


 考えた後。


「やっぱ分かんない。」


 そう答える子供の顔は。

 泣き顔では無かった。

 不思議そうな顔。

 どうしてか?

 それは、クライスの言葉に母親が泣き崩れたからだ。

 思いが強ければ強い程、輝きは増す。

 母親は理解したのだ。

 母と子供、2人分の愛が詰まっているから。

 ぬいぐるみはそのままの形で、金へと変わった。

 全く形が崩れずに。

 そう言う事。

 再び、クライスは告げる。


「手元に在る物、それが今の自分の価値と知れ!そしてこれから、それ以上の物を手に入れる場所へ行く!」


 そこまで聞いて、トクシーは嫌な予感がした。

 ラヴィやセレナは思い付いたが、敢えて言わない。

 トクシーは、思わずクライスに声を掛ける。


「流石に、それは不味まずいのでは……。」


 構わずクライスは叫ぶ。




「チャンスを与える場所!それはズバリ、『王宮』だ!」




 あちゃーっ!

 やはりか……。

 困惑するトクシー。

 流れ的には、そうなるわねー。

 ラヴィは納得。


「こ、困ります!こんな大勢を連れて王宮など……!」


 文句を言うトクシー。

 デュレイも流石に呆れた後、高らかに大笑い。


「伝説!これが!ははははは!」


「笑い事では無いわ!収拾が付かなくなるぞ!」


 たしなめるトクシー。

 しかしデュレイは違った。


「寧ろ都合が良い。俺も《報告し易く》なる。」


「い、今何と……!」


「関係有ると言ったのだ。この状況が。」


「ま、真か?」


「ああ。でも生ける伝説も、そこまでは理解していまい。」


 一日いちじつの長がある様な物言い。

 とにかく。

 デュレイのその発言で、トクシーは身を引いた。

 他の者と言えば。

 ラヴィとセレナは、交渉が出来ればそれで良い。

 人数が大幅に増えるのは厄介だが。

 その分、町中まちなかで襲われる事も無いだろう。

 ロッシェは、自分も我がままを聞いて貰う身なので、反対はしない。

 黒幕を探す代わりに、姉探しの手伝いを取り付ける。

 アンは、兄様がそう望むならフォローするまで。

 何か、考えがあるのだろう。

 そう思っていた。

 ハリーは父親の行方を。

 リンツは旦那様の無事を。

 それぞれ願っていた。

 だから、どうでも良かった。

 こちらに有利に転べば。

 何にも考えていないのは。

 使い魔と、妖精と、魔物。

 面白そうならそれで良し。

 退屈しないのが一番。




 それぞれ立場は違うが。

 この状況を許容した。

 そしてついに、一行はガティの町中へと進む事になる。

 一行は、無事に王宮へと辿り着けるのだろうか?

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