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第147話 スラム街にて

 母親と少年に案内されて、教会から離れスラッジの中を進む一行。

 当然、歓迎はされない。

 寧ろ疑心暗鬼の目。

 何しに来た?

 そう訴えている。

 ハリーは、ジロジロ見られるのが堪らなかった。

 注目を浴びるのが嫌なのでは無い。

 パーティーの場などでは大歓迎。

 問題は、目線を向けて来る人間。

 みすぼらしい格好。

 ろくに風呂も入って無い様な体臭。

 生気の失せた瞳。

 けがわらしく感じ、激しく嫌悪した。

 なので、馬車を操るトクシーの傍から離れようとしない。

 ホトホト困り果てるトクシー。

 自分も、こんな環境は慣れていない。

 しかし戦場はもっと不浄。

 血生臭い所に比べたら、こちらの方が幾分まし。

 子供には分からないだろうが。

 そう思っていた。




 少年と並んで歩くラヴィ。

 少し話がしたくなった。


「君、名前は?」


「僕?【ケイ】って言うんだ。みんなはそうは呼ばないけどね。」


「どうして?」


「お互い、話そうとしないからね。」


「名前を呼ぶ必要も無い、か。」


『少し寂しいな』と思うラヴィ。


「でもねでもね、《あいつ》とは一緒に遊ぶんだー。」


「あいつ?」


「うん。時々遊びに来るんだけど。色々教えてくれるんだー。」


「へえ、良かったわね。」


 嬉しそうに話すケイを見て、ラヴィも笑みがこぼれる。


「そう言えばお姉ちゃん、僕達が嫌じゃ無いの?」


「ん?」


「だって……馬車に乗ってる子、すっごい嫌そうな顔をしてるし。」


「ああ、こう言う所に慣れて無いのよ。許してあげて。」


「お姉ちゃんは慣れてるの?」


 そうケイに聞かれ、少し返答に詰まるが。

 ラヴィは答える。


「前はお姉ちゃんもそうだったかな。と言うか、こう言う所を知らなかった。でもね……。」


「何?」


「旅をしてて分かったんだ。こんな場所にこそ、本質が有るんだって。」


「ほん……しつ?」


「本当は、人がどんな者かって事。」


「ふうん。」


 ケイにはまだ早かった様だ。

 いずれ、理解出来る様になるだろう。




 恐縮しながら歩く、母親とデュレイ。

 もう隠れる必要も無いとの判断から、ようやく荷物扱いを離れたのだ。

 それなりの装備をしているので、騎士では無いが一端の兵士に見えるデュレイ。

 その下から醸し出される気品の高さ。

 それを感じている母親は、自然と無口になっていた。

 無言の空気はデュレイも辛い。

 なので、何とか変えようとする。


「そなた、ここの暮らしは長いのか?」


 デュレイの問い掛けに、ポツリと答える母親。


「……はい。」


「何時からか?」


「あの子を産む前ですから、かれこれ10数年かと。」


「ほう。では何処かですれ違っているかもしれんな。」


「いらした事が有るので?」


「ああ。以前、ここへ人を探しに来た。」


「へえ。それはどの様な方で?」


「これは、話しても良いのだろうか……。」


 軽く悩んで、デュレイは言った。




「或る貴族のお嬢様が失踪なされてな。ここに居ると言う情報が有ったのだ。」




「ま、まさか!」


 デュレイの言葉に反応する母親。


「知っておるのか?」


 動揺する母親の様子に、尋ねざるを得ないデュレイ。

 恐る恐る答える母親。


「はい、彼女とは仲良しでした。何でも迷子になったとかで、一時期ここで暮らしていました。」


「そうか。」


「彼女は嘆いていました。『独りになっちゃった』と。」


「元から独りでは無かった、と?」


「そうだと思います。一緒に旅をしていた人が居たとか、ポツリと漏らした事がありました。」


 そう言った後、母親は何か思い出した様だ。


「そうだ!いつもブローチを見ていました。『形見なんだ』って。」


「ブローチ!それはどんな!」


 今度はデュレイが食い付いた。

 急に迫力が増したデュレイに、たじろぐ母親。

 す、済まぬ!

 デュレイはすぐに謝る。


「それが探し人の目印だったのだ!良かったら聞かせてくれないか!」


「は、はあ。」


 戸惑うが。

 答えるのが礼儀と思い、話す母親。


「青銅、でしたっけ?材質は金属っぽくて、少し錆び付いていました。」


「柄とかは?」


「そこまでは分かりません。どんな物か、眺めてる所を覗き見ようとすると。いつも、サッと隠されていたので。」


「そうか……ありがとう、話してくれて。」


 母親に深々と頭を下げるデュレイ。

 そんな事に慣れていなくて、『止めて下さい』と引き気味に言う母親。


「これから先、見つける事があるかもしれん。その時は、そなたの事を伝えておこう。ええと……。」


 名前が分からず、言葉に詰まるデュレイ。

 それに対し。


「そう言えば、まだ名前を言っていませんでしたね。【ネル】と言います。」


「それは本名か?」


「本当の名など、ここで暮らすには無意味です。とうに捨てました。」


「では、〈ネル〉で通じるのだな?」


「向こうが覚えていれば、多分。」


 そう言って下を向くネル。

 別れて大分経つので、忘れていると思っているのだろう。

 それでも。


「分かった。しかと伝えよう。」


 安心させる様に、力強く言うデュレイ。

 俺がトクシーと再会出来たのだ。

 可能性は0じゃ無い。

 そう信じる事にした。

 その顔付きを見て、ネルも希望を持つ事にした。

 ほんの少しだけ。




 集落の中程らしき場所に辿り着くと。

 一斉に取り囲まれた。

 その目は、がっついている。

 久方振りの獲物、と言った風に。

 しかしそれを制する様に、ある老人が群衆から出て来た。

 そして騎士であるトクシーやデュレイには目もくれず、クライスの前まで来ると。

 膝間付いてかしこまった。


「お待ちしておりました。」


 老人は、何故かそう言った。

 どう言う事だ?

 一行は皆不思議がる。

 そして視線は、クライスに集中。

『俺は知らない!』と首を振るクライス。

 クライスの手をガシッと掴む老人。

 その行為に戸惑うクライス。

 一行も、取り囲む群衆も。

 訳が分からない。

 一体、この老人は何者か?

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