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第146話 ショートカット

「そうですか。」


 大声で鎧の男に声を掛けられ、そう答える。

 そして安堵する、クライス。

 ここまでは予定通り。

 後はどうするか。

 着地点がどう言う状況かで、プランを組み立てようと考えていた。

 その後ろから、一団がやって来る。

 母親の制止を振り切って、少年が駆け寄る。


「ねえ?跳んで来たってホント?」


 少年の目はキラキラ輝いている。

 クライスには、太陽より眩しかった。

 実直な性格なのだろう。

 少年に敬意を表して、クライスは答える。


「ちょっと違うね。『跳ぶ』と言うより、『乗り物に乗って来た』かな。」


「乗り物?」


 首をかしげる少年。

 母親はやっと少年を抱きしめ、クライスをじっと睨む。

 当然だ。

 登場の仕方が怪し過ぎる。

 小屋が金色のブヨブヨに変わったと思ったら、ビヨーンと伸びてシュルルと縮んだ。

 パッとそれが霧に変わったと思えば、すぐに晴れる。

 こんな現象、見た事も聞いた事も無い。

 悪魔?

 そんな目付きになっているのを、母親は知らない。

 それを知ってか知らずか、少年の疑問にクライスは答える。


「ここにずっと居たのかい?」


「ううん。ドサッと言う大きな音がしたから、お母さんと一緒に確かめに来たんだ。」


「と言う事は、金の塊は見たかい?」


「キラキラしたブヨブヨの事?」


「そう。それが乗り物なんだ。」


「へえ。あれって乗れるんだー。」


 うんうん頷く少年。

 素直って大事。

 反対に、母親は信じられない。

 あれが乗り物?

 そうには見えない。

 事実、やって来た者の中にも疑う者が。


「私達、食べられたんだけど?」


 そう言い掛かりを付けるのはラヴィ。


「周りが金まみれで、気持ちわりいったらありゃしない。」


 辟易しているのはロッシェ。


「まああれは、良い心地はしないわね。」


 一度この手で脱出経験があるセレナ。


「慣れとかないと、何時いつ同じ手を兄様が使うか分からないわよ。」


 そう脅すのは、アン。


「あちこち旅をしたが、こんな移動方法を経験出来るとは。」


 心底感心しているのは、デュレイ。

 残りの者は、周りの景色の不気味さに多少怯んでいた。

 母親に手を差し出すトクシー。


「我々は旅の者だ。訳有って、ここを通らせて貰う。宜しいな?」


 丁寧にそう言われて、困惑しながらも頷く母親。

 少年は尚もクライスに尋ねる。


「どうやって乗るの?僕も乗れる?」


「それはだなあ……。」


『分かるかなあ?』と言いながら、クライスは解説する。

 皆に説明する手間も省けるだろうと思って。




 シッティの宿シェーストに仕掛けられた魔方陣は、入り口の方。

 出口は何処に在るか、確かめる必要が有った。

 ベッドに灰皿を置いて転移させたのは。

 ただ、仕掛けが有る事の証明の為だけでは無く。

 出口の場所を測る為でも有った。

 灰皿の裏の一部を金に変換し、これを跳ばす。

 出口に出た灰皿は、一定の波長の魔力を発生させる。

 それをクライスが観測、距離を測る。

 そして変換した金の流体を宿まで伸ばす為、必要な魔力をざっと見積もり。

 膨大なエネルギーをベッドに叩き込んで入り口を転移させると同時に、跳ばした灰皿に魔力を充填。

 それをキーとして、金のスライムが誕生。

 出口は恐らく、人気ひとけが無い所に在る。

 でないと、次々と人が湧き出すのを不審がられてしまう。

 そうクライスは考えていた。

 灰皿からの波動で、近くに生命体の存在が無い事を確認。

 遠慮無く、小屋を変換。

 それを一気に手繰り寄せる。

 皆を馬車に寄せたのは、バクッと一口でくわえられる様にする為。

 一応、金と身体の間に隙間は確保していたが。

 目の前はキラキラ。

 目がチカチカする。

 それをロッシェは『気持ち悪い』と形容した。

 金なので、縮んで地面に接触した時のショックも吸収・分散させ。

 軟着陸に成功。

 周りの目を誤魔化す為、金のスライムを一辺5ミリの金箔紙吹雪に変換。

 母親が見たのは、金箔の舞う景色だった。

 光が乱反射して、霧の様に感じただけ。

 そして、先に転移した魔物を捕捉。

 金箔を粒子に変えて霧を消した時に、魔物から魔力を吸い取った。

 動けなくした所で悠々と回収。

 母親と少年は、乗っ取られずに助かった。

 と、ここまで。




「すっごーーーい!」


 理解は出来なかったが、クライスが凄い事は感じで分かった。

 少年は小躍りする。

 そしてリンツの隣でボーっとしているハリーに駆け寄り、両手をガシッと掴んで縦にブンブン振る。


「君も乗って来たの?かっけぇー!」


 少年の姿に優越感を覚えたのか。

 頭をサッと振って髪をなびかせ、ホホホと笑いながら自慢気に言う。


「そうでしょ!凄いでしょ!かっこ良いでしょ!」


「調子に乗るんじゃないの!」


 そう言うラヴィから、おでこにチョップされるハリー。

『いたたた』としゃがみ込む。

『済みません、済みません』と謝るリンツ。

 一連のやり取りを見て、母親の警戒心が解けて来た様だ。

 トクシーが前に進み出て、再び母親に声を掛ける。


「もし、ここはガティのどの辺りかな?かなり薄暗い様だが……。」


 トクシーの問い掛けに、母親の顔が曇る。

 聞き方が悪かったか?

 トクシーの心に後悔の念が。

 視線を落とすトクシーを見て、母親が口を開く。


「ここはガティの闇。スラッジと呼ぶ人達も居ますが。」


「ビンセンス。ここは貧しい人達が暮らす地域だ……。」


 言葉は選んだ方が良い。

 デュレイは、暗にそう言っていた。

 かつて、この地域にも潜入調査に来た事が有ったのだ。

 その時のこちらに向けられた憎悪を、今も忘れない。

 トクシーは、こう言う所とは縁遠い地域の警備に当たっていた為。

 実情は良く知らなかった。

 そこへ。




「僕達は気にして無いけどね。」




 少年のその言葉が、場の空気を変えた。

 何も辛い事ばかりだけでは無い。

 楽しい事、嬉しい事もある。

 でなけれは、こんなとこぐに逃げ出している。

 思い出した様に少年が叫ぶ。


「そうだ!みんなに見せたい物が有るんだ!」


『付いて来て』と少年が言った。

『何だろう』と気になって、ラヴィ達が付いて行く。

 馬車はセレナが動かしている。

 後は徒歩。

 そう掛かる距離でも無い。

 何せ案内されたのは、小屋の傍にあった教会。

 そう、母子が祈りを捧げていた場所。

 その中に入る。

 中には祭壇しか無い。

 しかし。


「あれ見て!」


 少年が天井の方を指差す。

 皆が見上げると。

 見事なステンドグラス。

 そこだけは風化せず、綺麗なままだった。


「凄いでしょ!屋根とかボロボロなのに、あれだけ汚れやひびも無いんだよ!でね……。」


 よーく見て!

 少年が言うので、ステンドグラスをジッと見つめる。

 そこには、描かれていた。

 空からやって来る、金色の騎士が。


「この辺がね、とーっても大変な事になった時に現れる【救世主様】なんだって。」


 エヘンと胸を張る少年。

 母親がその口を塞ぐ。


「余計な事を!済みません、気にしないで下さい。ただの言い伝えですから。」


 必死に謝る母親。

 しかしトクシーは言った。


「いや、一概にそうは言えまいて。何せここには……。」


 その目線の先には。

 クライスとラヴィ。

 言い伝えがあながち間違っていないと感じるトクシー。

 この方々が、きっとこの世界を変えてくれる。

 そう思えてならなかった。

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