第14話 旅路の途中、一時連行の身
クライス達は両腕を正面で縛られ、馬車の荷台に乗せられた。
村の代表として、ヤンクともう1人男が連れて行く事となった。
クライスは念の為、トッスンの四方に金の結界を張っておいた。
悪意を持って村を襲おうとする者を、金の膜で覆う。
そう仕込んで。
それに気付いているのは、アンとエミルだけ。
味方さえ欺く方が、敵を引っ掛け易い。
錬金術師の常套手段だった。
「ところで、何処に向かってるんですか?」
領地の中心では無く。
隣のメインダリーの方向に進むのが、気になるクライス。
「『今までの屋敷には住みたく無い』とか言って、領地境の【ロウム】に要塞をこさえやがったんだ。現領主はそこに居る。」
なるほど、随分前から仕込んでいた様だな。
道理で気付かれない筈だ。
優秀な司令官が向こうには居るらしい。
あいつもその指示で……。
すぐさま頭の中で、情報を整理するクライス。
その姿は一行にはもう慣れっこだったが、ヤンク達は不思議がる。
それ程考え込む時は、クライスの身体は微動だにしないのだった。
領地境までには、まだ掛かる。
一旦、中心地の【ユーメンダ】で泊まる事に。
一行は連行扱いなので、宿は取れない。
馬車と一緒に、納屋で過ごす事となった。
流石に道中で野宿は初めてな、ラヴィとセレナ。
身体の汚れなどを気にする余り、なかなか寝付けない様だ。
ヤンクが運んで来たスープは冷めていて量も少なかったが、これも試練と考え。
『民衆はこんなに苦しんでいるんだ』と言い聞かせる。
クライスに言わせれば『まだまだ甘いレベル』だが。
翌朝。
ラヴィが目を覚ますと、クライスが何かとやり取りをしている。
見てみると、それは小さな金の人形。
サファイをうろついていたあの怪しい影から落ちた後、クライスへと合流する為に戻って来たのだ。
クライスはコクンと頷き、それを胸ポケットに仕舞い込む。
どうしても気になるラヴィが、クライスに尋ねる。
「ねえ、今の何だったの?」
「ああ、怪しく動く影が居たんでね。そいつの襟元に潜り込ませて探っていたんだ。」
「いつの間に?と言うか、そんな人が居たの?」
「ルビアで揉めてた群衆が居たろう?あの様子を遠巻きに見ていてニヤリと笑ってたから、怪しいと踏んで付けていたんだ。案の定だったよ。」
「何か分かったの?」
「今回の戦は、事前に周到に準備された物だったんだ。裏切りや煽動も、ね。」
「うーん。」
まだ少し寝ぼけていたので、ラヴィにははっきりとは分からなかった。
多少の時間が必要だ。
「あいつは、もうレンドを離れてモッタに向かった様だ。こいつが教えてくれたよ。」
クライスがそう言うと、ポケットからさっきの人形がひょこっと顔を出す。
体長2センチ程の、のっぺらぼう。
ペコリと頭を下げたので、ついラヴィもペコリ。
するとまた、ヒュッと引っ込む。
「まさか、その年でお人形遊びをしてるんじゃないでしょうね……。」
じとーっとした目でクライスを見る。
「《魔法使いに対する、使い魔の様なもん》だよ。錬金術師では常識なんだけど。」
「そ、そう?なら良いんだけど。」
『魔法使いなんておとぎ話じゃないの……』と思いながら、何故かホッとするラヴィ。
……目線!
咄嗟に気が付いて振り返ると。
アンとセレナが、ふふっと笑いながら覗き見していた。
「私は止めたんですが……。」
「良いじゃない。兄様とそれだけ溶け込んで来たって事でしょ。」
顔を真っ赤にするラヴィ。
大して、仏頂面のクライス。
リアクションが無いクライスに不満顔。
ぷくーっと頬を膨らませるのが精一杯だった。
「何やってんだ。そろそろ出発するぞ。」
納屋を覗き込むヤンク。
一行は慌てて支度をするのだった。
そうこうして馬車に乗ってから時が過ぎ、日が傾き始めた頃。
漸く目的地に着いたらしい。
遠くからヤンクの声が聞こえる。
……。
……?
……。
……!
「通って良いってよ。」
戻って来たヤンクが、馬車に居る一行へそう告げる。
そして馬車は、大きな石のアーチを潜って行った。
「要塞に入れたのは良いけど、これからどうするの?」
クライスに考えがあるんだろうが、一応尋ねるラヴィ。
そこから、ちょっとした打ち合わせとなる。
「まずは素直に牢に入るか。」
「えっ?」
「そこからはエミルの出番だ。」
「任せて!あちこちで悪戯すれば良いんだね?」
「そう。そして、ヤンクさん達にそれを《こいつ等が来たからだ、俺の村もそうだった》と騒いでもらう。良いですね?」
「念を押すが、それだけで良いんだな?」
神妙そうな顔の、ヤンクともう1人。
「十分です。そこで怪しんだ領主は、敵の刺客を立ち会わせた上で俺達を尋問する筈。」
「敵に通じている証拠を掴んだ上で、そこを押さえるのですね。言い逃れが出来ない様に。」
「セレナは理解が早くて助かるよ。そして……。」
「うちが……。」
「エミルが頼りなんだ。しっかりな。」
エミルが言いかけた時。
クライスはわざと会話を被せて来る。
何か意図を込めたクライスの視線で、エミルは察する。
周りは気が付かなかったが。
エミルは、すぐにおどけて見せた。
「えへへ。もっと頼って良いんだよ。」
「良い気になりなさんな!兄様の作戦よ!」
「アンは冗談が通じないのかい?小難しいなあ。」
「そう言う性分なの。ほっといて。」
「クライス絡みの時だけ、でしょ?」
「もう!」
アンに対し、茶々を入れるエミル。
それを仕切るラヴィ。
「はいはい、もう良いから。それにしても本当かしら?敵の傀儡になってるなんて。」
「すぐに分かるさ。」
また自信たっぷりのニヤッとした顔。
それしか出来ないの?
もっとバリエーションを増やしなさいよ。
説教癖が有るラヴィは、うずうずしながらその言葉をゴクリと飲み込んだ。
軽口を叩けるのはそこまで。
トッスンと言う、小さな村。
レンドと言う、小さな領地。
しかしそれを覆い尽くす、巨大な闇。
それ等の命運を一身に背負って。
精巧な心理戦が正に、始まろうとしていた。




