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第139話 現場検証

 大型の宿シェーストは3階建て。

 その2階、中程なかほどからやや北寄りに位置する部屋。

 大き過ぎず、小さ過ぎず。

 極々平凡な。

 だからこそ、怪しい人物は選んだと見える。

 ぞろぞろと人が歩くのを見て、宿泊客が何人か付いて来ようとする。

 何が始まるのか、気になったのだろう。

 しかしそれは、主のイントが引き下がらせた。

『部屋の補修をする為』とか何とか、適当な言い訳を作って。

 問題の部屋の前まで来た一行。

 人の密集地帯から、メイがドアの前にひょこりと顔を出す。

 そのタイミングで。


「おーい!飯はまだかー!」


 下のフロアから主を呼ぶ声。

 カウンター傍の広間に居た客は、丁度飯時で支給されるのを待っていたのだ。

 食べ物優先で頭が一杯だったので、一行の事を気に掛けなかった。

 それが幸いした。

 そいつ等がこっちに来ない様に、主には食い止めて貰う必要がある。


「はーい、ただ今!」


 そう返事して。

『後は頼みましたよ』と一言言い残し、イントは下がっていった。

 クンクンとドアの臭いをいだ後、メイはクライスの方を向いて頷いた。

 安全と判断し。

 クライスはドアの取っ手を握り、そっと開けた。




「へえ、大したものね。」


 ラヴィは素直に感心する。

 中はきちんと整理されている。

 飾られた花瓶。

 埃一つ無いランプ。

 しわなくスッと伸ばされたベッドのシーツ。

 高級宿を名乗るのに相応しい。


「何時御来客があっても良い様、きちんと整えています。」


 フユの説明。

 結構な部屋数があるから、従業員がフル稼働して万全の態勢を取っているのだろう。

 その誠意が伝わって来る。

 それ故に、『泊まらず回避する人はもったいない事をするなあ』とラヴィは思う。


「窓や床もきちんと拭いています。毎日欠かさずです。」


 部屋の案内をしながらフユは言う。


「兄様、と言う事は……。」


「ああ。床や窓に仕掛けは無さそうだな。」


 錬金術師の兄妹は話し合う。

 それだけ毎日ゴシゴシされたら、仕掛けが消えなくても精度は狂う。

 仕掛ける場所としては相応しく無い。

 ふよふよ飛び回るエミルも、何も見つけられない様だ。

 上から見えないなら。

 メイは部屋の中をトコトコ歩き回る。

 メイの姿を気にするフユ。


「あのー、動物は持ち込まれると困るのですが……。」


「あ、動物じゃないので大丈夫。」


 余計な事を言うロッシェ。

 ギュッと右足の甲をラヴィに踏まれ、『痛っ!』と思わず漏らす。

『しっ!』とセレナに言われるが、納得が行かないロッシェ。

 トクシーに『お前が悪い』とささやかれ、ようやく引き下がる。

 広い部屋とは言え、十数人が部屋の中でひしめき合う。

 中でも戸惑っているのが、デュレイとソウヤ。

 馬車の中に置き去りは出来ないので、どさくさに紛れて連れて来た。

 久し振りに自由に歩き回っているので、視線が気になりきょろきょろしている。

 その様子を見て、アンが言う。


「ここの客はその日暮らしの生活をしているから、余程の珍客でも無い限り興味を持たれないわよ。」


「ならば良いのですが……。」


 特に追われている身のデュレイは、肩身が狭い思い。

 早く解決して欲しい、それだけ。




 メイが或る場所の前でピタリと止まり、クライスに来る様促す。

 それは、何と。

 大きなベッドの前。

 メイが少しだけ魔力を開放する。

 身体が一瞬ピカッと光る。

 それに呼応する様に、ベッドの下が明るくなる。

 間違い無い。

 ベッドの下を覗き込むクライス。

 見つけた。

 そんな顔付きで起き上がる。


「何が有ったの?」


 早く知りたいラヴィ。

 フユも同じく。

 クライスは答える。


「簡単に言えば、【魔方陣】だな。」


「え?それって魔法使いが使う奴?」


 疑問を呈するラヴィ。

 おとぎ話で出ては来るが。

 本当に使うのかしら?


「厳密に言うと違う。それっぽく鉱石を並べて、結界みたいなのを形成している。」


 魔物であるメイやウィドーが胸騒ぎを起こしていたのは、結界めいた物に反応していたと言う事。

 回りくどい言い方をするので、早く事を終わらせて旅を再開したいハリー。


「結論から言って!だから何なのよ!」


 急かすハリー。

 それを見てニヤリと笑うクライス。

 やや大きめのテーブルに置かれている灰皿を手に取ると、ベッドの上に置くクライス。


「ここに置くだろ?そしてこうすると……。」


 ベッドのふちに手を置き、少し力を込めると。




 ヒュッ!




「き、消えた!」


 びっくりするハリー。

 フユも同様。


「ざっとこんなもんさ。」


 涼しい口調で言うクライス。

 そしてセレナは、やはり理解が早い。


「転送、でしょうか。」


「正解。最初に消えたと言う奴は、ベッドを転送装置に改造したんだ。」


「そんな事が可能なのでしょうか?」


「当然の疑問だ。普通は構築するのに高等な技術が要る上、転送先が選べない。」


「それは欠陥品なのでは?」


「しかし転送させたい場所に同じ物を構築して、魔力の流れを固定してやれば可能さ。」


「うーん、難しい話ね。」


 ラヴィが話に加わる。


「『転送元と転送先に同じ物を作る』ってとこまでは分かるんだけど……。」


「同じく。それでは、実際に跳ぶまでは行かないのでは?」


 トクシーも疑問を呈する。

 そこで、彼女が口を開く。




「あたいが説明した事を覚えてる?」




「え!」


 猫が喋り出したのでびっくりするフユ。

 シーッ!と言うラヴィ。

 これは内緒の事。

 そう言っている。

 フユは理解し、黙って聞く事にした。


「あの黒い球体の事?」


 セレナが尋ねる。


「そう。で、こいつが言ったでしょ。『エネルギーにはプラスとマイナスがある』って。」


 メイがクライスを見やりながらそう言う。


「強制的にプラスの場をここに、マイナスの場を転送先に作ったのよ。」


 そうする事で。

 疑似的な空間の境目を作り、それぞれを繋げた。

 だからある一定の魔力を加えてやれば、一方通行で跳躍が可能。

 と言う事らしい。

 でも、そこで疑問が湧くラヴィ。


「じゃあ、これを作ったのは魔法使いって事?」


「そうしか思えないなあ。」


 ロッシェも乗っかる。


「それに物は良いとして、人間の転送は無理なのでは?」


 セレナも新しい疑問を加える。

 これらの議論に置いてきぼりのハリー達。

 それらはまず置いといて。

 情報の整理をするクライス。


「まず、魔法使いは作らない。と言うか作る必要が無い。」


「こんなの無しで移動出来るって事?」


 ラヴィが聞く。


「そう。それだけ強い存在と言う事だ。そして……。」


 クライスは続ける。


「人間も跳躍は可能だ。《或る方法》を使えば。」


 そして、『試してみよう』と言い出す。

 実験台として指名されたのは。

 りにも選って。




「お願い出来ますか?ハイセムさん。」

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