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第138話 不可解な宿、奇妙な出来事

「それは妙な話ね。」


「驚かないのですか?」


 ラヴィの態度に、少女は目を丸くする。


「今まで色々あったからね。それ位じゃあ、何とも。」


 あっさりした答え。

 この人達なら、問題を解決してくれるかも知れない。

 少女の目は真剣になった。


「宜しければ、お力を貸して頂けませんか?原因だけでも特定したいのです。」


「んー。」


 お願いしてくる少女を見て、ラヴィは考える。

 そしてチラッとクライスの方を見る。

 やれやれ、と頭を掻きながらクライスは頷く。

 ラヴィは返答する。


「分かったわ。力になりましょう。」


「本当ですか!ありがとうございます!」


 そう言って深々とお辞儀する少女。

 そこへハリーが口を挟む。


「ちょっと待ってよ!あたし達は急いでるのよ!こんな所で道草を食ってる場合じゃ……。」


 そういきがるハリーを、制止するトクシー。


「回り道に思えても、実は近道な事も有るのだ。」


 クライスがOKを出した以上、何かが起こる可能性が高い。

 その結果、こちらに有利な情報が得られるかも知れない。

 この旅でトクシーが学んだ事。

 クライスが少女に近付く。

 そして声を掛ける。


「ええと……何て呼べば良いかな?」


「私ですか?そうですね……【フユ】とお呼び下さい。」


「じゃあフユ、引き受けるのは良いけど条件がある。2つ。良いかい?」


「申し出の内容次第ですが。」


「当然だ。まず1つ、宿代をタダとは言わないから安くして欲しい。」


「交渉してみましょう。」


「ありがとう。それともう1つ。何が起こっても、見た事聞いた事は誰にも言わない事。良いね?」


「それはどうしてでしょう?」


「君の身の安全の為さ。君まで消えたくは無いだろう?」


「確かに。分かりました。」


「交渉成立だ。では向かうとしようか。」


「こちらです。」


 フユと名乗った少女は、宿の方へ誘導し出す。

 釈然としないハリー。

 それをなだめながら、馬車を進めるトクシー。

 ぞろぞろ付いて行く一行。

 メイは、妙な胸騒ぎがしていた。

 それは、空を飛んで鳥の振りをしていたウィドーも同じだった。




「ここです。どうぞ、お入りになって下さい。」


 宿は、貴族の屋敷の様に大きく豪華だった。

 フユが入り口のドアを開けると、中は広く調度品も豪華絢爛に飾られていた。

 そして数人ではあるが、宿泊客がカウンター傍の広間でくつろいでいた。

 入って来た一行を見て、客はジロジロ見る。

 すぐに目線は逸らされた。

 興味が無いのだろう、何かを待っている様だった。

 宿の主人らしき人物がトクシーの傍へ来る。

 鎧を見て、一行のリーダーだと思ったのだ。


「ようこそ、我が宿〔シェースト〕へ。私は主の【イント】と申します。お見知り置きを。」


「世話になる。して、フユなる少女から聞いたのだが。客が消えるとか……。」


「あの馬鹿、喋りやがったか……。」


「何と?」


「いえ、何でも。」


 トクシーの問いに惚けるイント。


「私共は、その解決も受けているのだ。詳細を聞かせてくれないか?」


「は、はあ。」


 高貴そうな人物にそう言われたら、話す他無い。

 渋々、事のあらましをイントは話し始めた。




 あれは丁度、3カ月程前でしょうか。

 この宿も満員で、盛況でした。

 その時或るお方が、宿をお求めにこちらを訪れました。

 金払いも景気良く、その代わり部屋をご指定なされました。

 一番豪華なお部屋をご案内しようとしたのですが、『その部屋が良い』と申されまして。

 お客様はお一人で、御一泊の予定でした。

 次の日、起きて来られるのが遅く。

 私共も心配致しまして、起こしに参ったのです。

 すると、中からは何の反応も返って来ません。

 無理やりドアを開けると、そこはもぬけの殻でした。

 お客様の姿は無く、荷物も消えておりました。

 しかし、備えてある備品は一切無くなっておりません。

 事前にお代を頂戴しておりました故。

 兵士の方に不審者として通報する事もせず、気に留めずにおりました。

 するとその後から、泊まられるお客様の中から宿賃を払いもせず忽然と消える方が現れ始めました。

 気味が悪くなり兵士の方へお話しした所『善処する』と言われたっきりで、何も動いてくれません。

 その内それが噂となって、町中を駆け巡りました。

『この宿は不気味だ、近寄らない様が良い』と。

 こっちはたまったもんじゃありません。

 兵士の方にも抗議をしたのですが、『善処する』の一点張りで聞き入って貰えません。

 ホトホト困り果ててしまった訳でございます。

 それを見かねたのか、フユの奴が勝手に……。

 あっと、それはこっちの話でして。

 そこは聞き流しておくんなまし。




 話を粗方聞いたトクシー。

 考えてみるが、どうも分からない。


「済まぬ、クライス殿。お願いします。」


 すぐに、クライスへ話を振った。


「こんな奴、何の役に立つのやら。」


 トクシーの態度にご立腹のハリー。

 騎士が一端いっぱしの兵士に頼るなど、情けないと思ったのだ。

 普通はそう見える。

 でも本当は、立場は逆だった。

 それをハリーは知らないだけ。

 クライスは早速、イントに質問をぶつける。


「消えた客に共通点は?」


「いやあ、特には……。」


「身分や格好なども?」


「はい。バラバラでした。」


「なら、最初に消えた客と言うのは?」


「あの方は今思えば、不思議な方でした。」


「と言うと?」


「マントの様な物を羽織って、頭には頭巾の様な物を被っていました。」


「おとぎ話に出て来る魔法使いの様な?」


「そ、そう!それです!そんな感じでした。」


「荷物に目立った点は?」


「うーん。どうだったかなあ。」


 考え込むイントの服の袖を、フユが引っ張る。

 そして囁く。


『あれ!あれは!』


『あ、そんな事もあったな。』


「何か?」


 クライスに促されて、イントが答える。


「荷物は小さな袋だけでした。ただ、お部屋をご案内する時お持ちしようとしました所、急に声を荒げて『触るな!』と怒鳴られまして。」


「それまで、温厚そうな《ご老人》でしたのに。」


 フユが付け加える。


「頭を隠していたのに、何で老人だと思ったんだい?」


 今度はフユに質問するクライス。


「長い顎鬚あごひげが見えたんです。白くてそれはつややかな。口調もゆったりでしたし。」


「なるほど。」


 うんうん頷くクライス。

 横で聞いていても分からないトクシー。

 クライスからの説明を聞きたくて仕方無かった。


「どうです?何か分かりましたか?」


「それにはもう1つ質問をしないと。」


『焦らないで』とトクシーを制し、フユに再び尋ねる。


「もしかして、消えた客は《全て同じ部屋に泊まって》ないかい?」


「それは宿帳を見てみないと……待ってて下さい!持って来ます!」


 そう言って、カウンターの向こうに回るフユ。

『こら!勝手な事をするんじゃない!』と止めようとするイント。

 その手にそっと金塊を握らせるクライス。

 ニヤッと笑ってみせる。

 これでどうです?

 そんな感じに。

 金塊をジロジロ見るイント。

 叩いてみたり、かじってみたり。

 本物と確認すると、『今回だけですよ?』と了解する。

 宿帳は言わば個人情報の塊なので、見られたくなかった。

 信用を落としかねないからだ。

 しかし問題を解決する手掛かりがあるのなら。

 それに貰った金塊は本物で、換金すればかなりの額になると確信したので。

 クライスのいつもの手法。

 見慣れているラヴィ達は最早何とも思わない行動だが、トクシーにはまだ抵抗があった。

 ハリーは尚更。

 何て下品な!

 クライスを見下していた。

 そうしている内に、宿帳を持って戻って来るフユ。

 クライスに渡すと、『この人です』と指差しながら教える。

 すると、クライスの読み通り。

 全員、同じ部屋から消えていた。


「凄い偶然ですね!」


 驚くフユ。

 それを打ち消すクライス。


「違うね。この宿は利用されたんだ。意図的にね。」


「え?私達が入っても、何とも有りませんでしたが。」


「そりゃそうさ。無差別に《跳んで》来られたら困るからね。」


「跳ぶ?」


 クライスの言葉に首をかしげるフユ。

『ちょっとー。もう分析は終わったー?』とラヴィが寄って来る。

 ロッシェやセレナもやって来る。

 馬車の固定やら馬の世話やら、一連の作業を終えて話を聞きに来たのだ。

 そこで百聞は一見に如かずと、クライスはフユにその部屋への案内を頼む。

 承知したフユは、大勢を連れてその部屋に向かう。




 その部屋は、一見何にも無さそうに見える。

 しかし、その実は。

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