第135話 空を飛ぶ者、それは
後ろから叫ぶ、ハリーの声。
それに反応して前方の空を見るラヴィ達先行組。
よーく目を凝らすと。
群集の中で何かが飛び回っている。
「……鷹?」
ラヴィはそう思った。
「……鷲?」
セレナはそう思った。
「いいや、あれは隼ですな。」
冷静にリンツが確認する。
良く見ると、微妙に鷹や鷲とは違う。
「分かんないわよ、そんなの。」
ボヤくラヴィ。
それよりも。
「集っているのは、カラスでは?」
セレナが懸念する。
何十羽ものカラスが、隼を攻撃している。
巣を荒らされると思われたのか。
それとも、仲間が攻撃されたのか。
かなり殺気立っていた。
このままでは危ない!
そう考えたラヴィは。
眠そうなエミルをガシッと掴み、顔の前に近付けた。
「行って止めて来てよ。」
寝ぼけ眼のエミルは、状況を把握していない。
「何がぁ?」
「あれよあれ!ちゃんと見なさいっ!」
宙に浮いているエミルをグルンと回転させ、カラスに襲われている隼の光景を見せる。
「あ、楽しそうー。」
まだよく分かっていないエミル。
業を煮やしたラヴィ。
とうとう強硬手段。
「行って、来な、さーーーーーーーい!」
エミルを、ソフトボール投げの様に投擲するラヴィ。
砲丸投げでもすれば、かなりの良い記録が出る事だろう。
それ位の勢いでブン投げられたエミル。
「気持ち良い風ー。」
まだ余裕が有る。
しかし目の前のカラス達にギャーギャー鳴かれ。
流石に危ないと思ったのか、必死に急ブレーキを掛ける。
寝ぼけていたせいで、それも間に合わず。
群集を突っ切って、事もあろうに隼と激突。
エミルと隼、重なる様に上から落ちて来る。
「しまった!やり過ぎた!」
思わず言ってしまうラヴィ。
ヒューーーーーッ。
皆が地面に激突すると思った瞬間。
ポスッ。
軽い衝突音がして、スッと地面に降り立つエミル。
隼を抱えて。
「ラヴィにそんな力があるとは、知らなかったよ。」
つくづくと言った感じのクライス。
地面に激突する寸前で金の網を張り巡らせ、衝撃を吸収。
速攻で網を消した。
それは、ハリー達に錬金術師だと言う事がバレぬ様。
一瞬の出来事。
クライスの発言で、力を知っている者は安堵する。
知らない者は、ポカーンと口を開けたまま。
特にハリーは。
「何?何が起きたの?」
馬車を飛び降りて、夢中で落下地点へ駆け寄る。
そして、妖精と鳥の無事を確認。
「良かったー。怪我は無い?」
エミルに尋ねるハリー。
やはり完全に見えている様だ。
キョトンとするエミル。
すぐに笑顔になって答える。
「うん、うちは大丈夫。でも……。」
そう言って、抱える隼を見る。
かなりカラスに痛めつけられたらしい。
羽がボロボロ。
嘴にも傷がある。
「うわあ……。」
思わずそう声を上げるハリー。
どう見ても大丈夫では無い。
そこへ、トコトコと歩いて来るメイ。
同席するクライスが言う。
「メイ、頼む。少し分けてやってくれないか。」
隼の顔を覗き込んでいるメイは、返事する。
「仕方無いわね。ここで会ったのも何かの縁だし。」
「しゃ、喋った!」
驚くハリー。
傍で見ていたリンツも同様。
2人には、まだメイの事を説明していなかったのだ。
隼に前足をタッチするメイ。
身体がポウッと光る。
すると。
隼の身体も輝き、傷がスウッと消えた。
気が付いたらしく、目をパチクリさせる隼。
そして。
「くっそー、運が悪かったぜ。」
「こっちも喋った!」
またも驚くハリー。
それに反応する隼。
「全くとんだ目に……ん?」
「うっ!」
ジロッと見られて、硬直するハリー。
「お嬢ちゃん、何処かで見た事が……。」
悩む隼。
そして思い出したらしい。
「あっ!あのおっさんの横に居た奴だな?」
「おっさんって、お父様の事?」
「お前、ムヒス家の者だろ?だったら、俺を見た事がある筈だがな。」
そう言われて、ハリーが考える。
うーん。
うーん。
でもやはり心当たりが無い。
申し訳無さそうに。
「ごめんなさい、思い出せないわ。」
「何っだよ、期待させやがって。お前の親父が客間に飾ってただろ?」
「え?それってもしかして……。」
剥製?
でもあれ、動かないでしょ?
えーーーー。
無いよねー。
疑り深いハリー。
しょうがねえなあ、と右足を見せる隼。
そこには、ムヒス家の家紋が。
「これでも信じないかい?」
仰天するハリー。
「信じられる訳無いでしょ!剥製が動く筈無いもん!」
「そう、剥製なら動かない。でも違っていたら……?」
思わせ振りな事を言う隼。
訳が分からないハリー。
そこへ口を挟むリンツ。
「旦那様の護衛はどうした?」
「じいや!知ってるの!」
「はい。申し訳ございません。旦那様に堅く口止めされておりまして。」
「それを早く言ってよ、もう!で、これは何なの?」
ハリーの良い様にちょっとムカッとしたようだ。
「これとは何だ、これとは!俺は《ガーゴイル》の【ウィドー】だ!お前の家の守護者だぞ!」
偉そうな言い草。
それではっきりした。
これは魔物。
だからメイは力を分け与える事が出来、それによってすっかり回復したのだ。
同種のメイと、クライスはその事実を真っ先に気付いていた。
そこで問題なのは。
先程のリンツの発言。
『旦那様の護衛』。
ここに、それらしき人物は居ない。
なのに、こんな所でカラス達に襲われているとは。
念押しの様に、もう一度ウィドーに尋ねるリンツ。
「旦那様は何処に?」
姿が見えないその理由は、ウィドーの口から語られた。
「それなんだがよー……。」
少し言葉に詰まる。
しかし打ち明けた。
「選りにも選って、皇帝の城の奥へ幽閉されちまった!ちくしょう!」




