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第132話 こんな所にお嬢様

「お願いしますぜ。」


 少年姿のワイリー。

 それを取り囲む子供達。

 彼等に見送られ、オアシスを後にする一行。

 再び、石橋の上を進み始めた。




「そう言えば、この道って誰が造ったのかしら。」


 ポツッとラヴィが呟く。

 荷車から顔を出して、デュレイが答える。


「昔の技術でも、これは突出しています。高名な技術者が携わったかと。」


「誰だかは分からないの?」


「当たり前の様に利用していましたからな。そこまで深くは……。」


「ふうん。」


 秘密って訳じゃ無くて。

 誰も興味を持たずに時が過ぎた結果、忘れ去られた様ね。

 本人はさぞかし、残念がるでしょうね。

 ラヴィは、その技術者に同情した。

 何せオアシスには町名が無く、街道の看板もただ『道』としか書かれていない。

 良く利用される街道は、通称が付けられているものだが。

 ここを旅する者達も、そこまで考えている余裕は無いのだろう。

 そこまで、日差しは苛烈を極めた。

 頭が逆上のぼせる位に。




 半日を掛け、やっと街道沿いに緑が見え始める。

 最初は低い草、そして高い草。

 草が生い茂って来る。

 低木が見える様になった頃には、すっかり涼しくなっている。

 砂地も、ほとんど見えなくなった。

 薄い粒の波は消え、荒々しい大地が顔を出すかと思えば。

 いつの間にか森の中。

 ここは、急に魔力の流れが強くなっている様だ。

 砂漠に沿う様な流れ。

 誰かに仕組まれているかと思う程、見事に。

 その内、遠回りルートとの合流地点に差し掛かった。




「あんた等、あの砂漠を渡って来たのかい!」


 街道が交差する地点で。

 行商人と出会う。

 皆、来た方向を見てびっくりする。

 馬車であのルートを渡るのは無謀過ぎる。

 呆れる者も、称賛する者も。

 皆一度砂漠の方向を見やる。

 それ程、砂漠は旅人に威圧的だった。




 旅人達とすれ違う。

 ようやく孤独な旅とはおさらば。

 荷物を多く抱える人。

 質素で身軽な装備の剣士。

 商売に飢える目をした、一獲千金を目指す商人。

 大小さまざまな野望を抱え、皆街道を行き交う。

 その様子を面白がって観ている、空中のエミル。

 オアシスでの相談に混ざり損ねた。

 好奇心からオアシスのあちこちを見て回ったので、自業自得なのだが。

 後でセレナから要点だけを聞かされたので、一応は理解したが。

 肝心のクライスのリアクションを見損ねた。

 それだけは悔いが残る。

 クライスの反応を見るのも、エミルにとっては旅の醍醐味だった。

 妖精の森ではしなかった表情。

 それをこの旅では見せてくれる。

 新鮮だった。

 それと同時に。

 自分だけが独占していたクライスの秘密をどんどん知る人が増えて、寂しくもあった。

 だから誰よりもすれ違う人達の表情を見ようと、少し先行し過ぎていた。


「ちょっと離れ過ぎよー。」


 馬車からラヴィが叫ぶ。

 それで漸く距離を取り過ぎていた事に気が付く。

 トクシーの所まで戻ろうとした時。




「えいっ!」




 エミルに、虫取り網を振る者有り。


「うわあっ!」


 思わず声を出すエミル。

 しかし網は、エミルの身体をすり抜ける。

 当然。

 虫では無いのだから。


「おっかしいなあ。」


 そしてもう一度、網を振る。

 またしてもすり抜ける。

 網の持ち主は、難しい顔をし出した。

 その様子に気が付くトクシー。

 慌てて走り寄る。

 するとそれは、可愛らしいドレスを着た少女だった。

 キラキラ輝くワンピース。

 明らかに、一般人とは異なる出で立ち。

 何処かの貴族の者か?

 そう考え、トクシーは少女に声を掛ける。


「もし、何をしているのだ?」


 優しく声を掛けたつもりだったが。

 エミルの方に気を取られていたのか、少女は悲鳴を上げる。


「きゃあああああっ!誰っ!誰よ!」


 かなりの剣幕にたじろぐが、トクシーは再び声を掛ける。


「もし、先程網を振るっていた様だが……。」


「何よあんた、まずは名乗りなさいよ!失礼でしょ!」


 見事な少女の返しに、少々戸惑いながら返答するトクシー。


「済まない。私はトクシー・ビンセンスと申す者。あちらの方々と旅をしている。」


 そう言って、もうすぐ傍まで来ている一行を指差す。

『ふうん』と一応納得したのか、少女は答える。


「私は【ハリス・エル・ムヒス】。こう見えて12貴族の娘なのよ。」


「ほう、そうであったか。」


 やたら小綺麗な格好の謎は解けた。

 しかしこの少女、明らかに……。


「何かを捕まえようとしている風に見えたのだが……。」


「そうそう、あんたも手伝って頂戴。あれを土産にするんだから。」


「あれ、とは?」


 敢えてとぼけるトクシー。

 少女は空中を指差して言った。




「決まってるでしょ!あの浮いてる変な生き物よ。」




 やはり、妖精が見えるのか。

 と言う事は、悪い子では無さそうだが。

 でも確かに、ムヒス家の娘と名乗った。

 ならば、放ってはおけまい。


「済まない、私には見えないのだが……。」


「うっそ!嘘でしょ!そこでプカプカしてるじゃない。」


「ちょっと!うちを何だと思ってるんだい!」


 たまらずエミルが口を挟む。

 その声に反応する。


「あ!喋った!」


「喋るよ、そりゃ。妖精だもん。」


「妖精!」


 大声だったその声に、周りが反応。

 すぐに、冷ややかな目線に変わる。

 可哀想に、幻覚が見えてるよ……。

 奇特な人を見る、そんな感じ。

 突き刺さる見えない暴力に我慢出来ず、遮る様に少女の前に立ちはだかるトクシー。

 そして周りを人睨み。

 好奇心で少女を見ていた目は背けられ、皆その場から立ち去った。

 そこで、少女のトクシーを見る目が変わる。

 まるで理想の人の様な振る舞い。

 これよ!

 待ち焦がれていた、白馬の騎士!

 馬には乗ってないけど。

 きっと似合う筈。

 こんなチャンス、滅多に無いわ!

 お父様には申し訳無いけど。


「ねえ、あんた。」


「せめて〔トクシー〕と呼んでくれないか、お嬢さん。」


「お嬢さん!良いわ!良いわねえ!でもあたしの事も【ハリー】って呼んで欲しいわね。」


「分かった、ハリー。で、何だい?」


「そうそう、実はね……。」


 そう言って、トクシーに耳打ちするハリー。

 その言葉にトクシーは仰天した。




「婚約解消に付き合ってくれない?報酬は弾むから。」

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