第125話 早く行け
結局、何処にも行く場所がないソウヤは、荷車の中に乗る事となった。
帝都までは運ぶが、後は関知しない。
そう言う約束。
不満なのは、洞窟で檻越しに見合っていたデュレイ。
『証人として使えるから』とトクシーに言い包められる形で、渋々承知。
暫し、呉越同舟。
デュレイとソウヤ、お互い積極的に話し掛ける事は無かった。
そして漸くナイジンへと到着。
そこには、アストレル家の護衛兵が待ち構えていた。
「ようこそ。ご案内します。」
大勢の兵に取り囲まれ、警戒する一同。
町の人達に見られない様周りに幕を張って、一行を囲みながら進んで行く。
ウロウロと1時間程歩いただろうか。
急に幕が剥がされた。
すると目の前は。
「行ってらっしゃいませ。」
町の出口だった。
「宿にも泊めてくれないのかよー。」
ぶつくさ言いながら歩くロッシェ。
「『見逃してやる』と言う事でしょうか。」
セレナがラヴィに話し掛ける。
「いえ、クライスの予想が当たったっぽいわね。」
「『関わりたく無い』ですか。」
クライスは旅を再開する時に、敵の出方を予想していた。
向こうの策略は悉く破られた。
町へ入れないのがベストだったが、そこは容認せざるを得ない。
これ以上支配地域内でいざこざを起こされて、権威が失墜するのは堪らない。
よって、選択肢は1つ。
見て見ぬ振り。
さっさと通り過ぎて貰う。
勿論、宿も泊めない。
買い物もさせない。
要らぬ情報は与えない。
それが守る最善手。
守る対象は民では無く、アストレル家自身の地位だが。
町をスムースに抜けられたのは良いが、これでは疲労が抜けない。
次の町まで進み続けるしか無い。
ラヴィは馬のメークが可哀想に思えた。
ごめんね、休ませてあげられなくて。
時々馬車を降りては、足を擦ってやる。
すっかり懐いたメーク。
心遣いに対して喜んでいる様に、アンには見えた。
先行してエミルが、前の様子を見に行く。
Pによれば、ナイジンを抜けた先にも町が在った筈。
少しして、エミルが戻って来た。
「町、あったよー。」
「ほんと?休めそう?」
ラヴィが心配そうに尋ねる。
『うーん』と考えた後、エミルが答える。
「多分大丈夫だと思うけど、何かおかしかったんだよねー。」
「どんな風に?」
「んとね。手がダラーンとしてて、前屈みで歩いてたなあ。」
「人が?」
「うん。人間はみんな、そんな感じだったよ。建物はちゃんとしてるんだけど。」
「クライス、どう思う?」
ラヴィは知見をクライスに求めた。
少し考えて、可能性を挙げる。
1つは、町民が何者かに操られている可能性。
1つは、町民では無い何かにすり替えられている可能性。
1つは、それ自体が幻の可能性。
事象を絞る為に、具体的にクライスは尋ねる。
「エミル。町に入った時、何か感じたか?」
「ううん、特には。」
「じゃあ、人間はどっちに歩いていた?或る建物に向かってとか。」
「そんな感じは無かったなあ。」
「道以外、建物の中とかに人間は居そうだったか?」
「家の中から気配は無かったよ。」
「顔とか見たかい?」
「見たよ。でも目線は泳いで無かったよ。」
「そうか。」
一通り聞き終え、考えるクライス。
「何か分かった?」
ラヴィが聞いて来るも、まだ考え中。
なら勝手に推測するまで。
「話を聞く限り、幻では無さそうね。後、操られているのも違うかな。」
ラヴィはそう言った。
ロッシェも意見を言う。
「今は昼間だろ?だったら幽霊とかも無しだな。」
「そうなるわね。」
「となると……分からん、俺にはお手上げだ。」
降参するロッシェ。
ラヴィはまだ考えるが、ギブアップした。
暇なので馬車の周りをクルクル飛んでいるエミルに、もう一度クライスが尋ねる。
「さっき『建物はちゃんとしている』って言ったよな?どうしてそう思った?」
「勿論、傷一つ無く綺麗だったからさ。」
「汚れも?」
「無かったよ。ピッカピカ。」
「なるほど。」
「クライス、分かったの?」
ラヴィは早く考えを聞きたかった。
「きちんとした確認は、町に着いてからとして。恐らく……。」
「恐らく?」
クライスから出た言葉は、意外なものだった。
「ずらされてるな、俺達。」




