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第124話 復讐、そして選択

 リゼに、幼少の記憶は少ない。

 覚えているのは、美しい庭。

 そこで蝶よ花よと育てられた事。

 周りには誰かしら傍に居た。




 しかし、それも長く続かなかった。

 お付きの女中に連れられて、いつの間にか放浪の旅。

 お守りは、母から送られたブローチ。

 錆び付いた青銅製。

 それだけは奪われまいと、襲われるたび抵抗した。

 その内、女中の姿が見えなくなった。

 変わり果てたその死体を見たのは、水を求めて川辺へ出て来た時。

 そこで幼子おさなごは理解する。

 もう自分を守ってくれる人はいないと。

 生き残る為には、手段を選んでいられない。

 畑に侵入して、収穫前の野菜をむさぼった時も。

 何処かの町でスリの真似事をした時も。

 ブローチだけは手放さずに。




 そうしている内に、ある盗賊と出会った。

 食って掛かる少女の胆力に感心した盗賊は、ある場所へ無理やり連れて行った。

 それが、盗賊の巣。

 偶然、同じ位の年の少女が居た。

 2人は競う様に、盗賊としての腕前を競っていった。

 親友だとリゼが思いかけていた時。

 その少女は、あろう事かリゼのブローチを盗み取った。

 そのまま盗賊の巣を抜け、ブローチを使って詐欺を働こうとした。

 母の形見。

 それはリゼの良心。

 安らぎを与えてくれる物。

 その思いを少女が知らない筈が無い。

 完全に裏切られた。

 そう思ったリゼは、情報を集めながら追跡。

 遂に少女を追い詰めた。

 崖の前に立つ少女。

 ただ一言。

 《ごめんね。》

 謝って、ブローチをリゼの前に放り投げた。

 リゼが拾った時には、少女の姿は無かった。

 既に崖下へ飛び降りていた。




 少女の死体を確認しに、降りて行った時。

 声が聞こえた。


「使えねえなあ。」


 あれは……。

 現在の《親父》。

 その頃はまだ下っ端だった。

 リゼを連れて来た盗賊が、親父を務めていた。


「あの小娘を始末すれば、責任を押し付けて親父の座を狙えたものを。」


 そこで気付く。

 あの少女は、あいつに利用されたのだと。

 自分は親父に可愛がられていた。

 皆から技量も認められ、次期親父の座を約束されていた。

 それが気に食わなかった男は、『このままでは、リゼはここから抜けられなくなる』と少女を騙した。

 リゼの事を気にかけていた少女は。

『せめてリゼだけはカタギに戻って欲しい』と、男の言うなりになった。

 崖まで誘い込めば、後は俺が説得するから。

 そう男に言われていた。

 しかし盗み聞きした。

 親父共々リゼを抹殺する計画を。

 咄嗟の機転で親父にそれを知らせ。

 自分は、大切な友を騙した罪滅ぼしとして。

 男と心中するつもりだった。

 それは叶わなかった。

 逆に返り討ちにされたのだ。

 腹を刺されながら、少女はリゼの前に現れていた。

 ブローチを返す為に。

 そして心配を掛けまいと、自ら命を絶った。


「あいつも馬鹿だ。俺に従っていれば、今頃……。」


 フフフと笑う男。

 真実を知ったリゼ。

 何故、信じ切らなかった……!

 友の事を!

 自分を責めた。

 責め続けた。

 そして決意した。

 必ずかたきは取ると。

 それまでは、従う振りをしようと。

 そしてリゼは、知らぬ存ぜぬで男の前に現れた。

 独り言を聞かれたとは知らない男は、適当な嘘を付いてその場を誤魔化した。

 騙された振りをするリゼ。

 心の中は、煮えくり返っていた。




 その後。

 リゼの身を案じた親父は、自らその座を降りた。

 そして男とは別の奴を次期親父に指名して、行方をくらませた。

 男は親父の影を追ったが、結局行方を掴めなかった。

 その数年後、男は親父の座を奪取、ダイツェンと手を組む事になる。

 リゼはこっそり、舎弟としてヘリックとボーンズを育てた。

 腹心の誕生。

 ある時その思いをリゼから聞かされ、『何処までも付いて行く』と約束した。

 2人共、盗賊家業には不向きな程実直。

 だから、人殺しだけはさせなかった。

 自分が責任を取った。

 そうして、復讐の機会をうかがった。

 警戒した親父は、ある任務をリゼ達に与えた。

 自分から遠ざける為。

 それこそ、メインダリーでの妨害工作。

 それが後々ブーメランになるとは。

 親父もそこまでは見通せなかった。




「また金ぴかから連絡かい……。」


 今度は何だい?

 その内容を知ると。

 ニヤリと笑う。

 遂にこの日が。

 そう確信した。

 早速、盗賊の巣へ連れ帰った者共へ声を掛けた。


「お前達!朗報だよ!」


 そして、クライスから知らされた事実を伝える。

 契約時に押した拇印が、全ての原因だと。

 狭い部屋に押し込まれていた者達が、一斉に声を上げる。


「じゃあ指を切れば助かるのか?」

「そもそも、どの指で拇印を押したか覚えていないぞ!」

「皮膚だけ剥ぎ取れば良いんじゃないか?」

「どこまで有効なのか分からないのでは、何ともしようが……。」


 口々に言い合う。

 リゼは、或る提案をする。

 それは、到底納得の行く物では無かった。




「この事は、墓場まで持って行きな!良いね!」




 盗賊達は勘違いをしたらしい。

 続々と反対を表明。


「俺達を殺すのか!」

「口封じか!」

「死人に口無し、そう言う事か!」


 不満とも悲鳴とも感じる声。

 それを一喝。


「違うわい!この事は他言無用、その上で盗賊とは別の道を行け!そう言う事さね!」


 リゼのその言葉に、親父が猛反発する。


「盗賊の巣を解体するつもりか!許さんぞ!」


 それを見透かした様に、リゼが答える。


「勿論、残りたい奴は残れば良い。盗賊の巣は解散しないさ。ただ……。」


「ただ?」


「盗む物が変わる。狙う獲物は《情報》、これさ。」


 リゼは常々考えていた。

 人を傷付けず、盗賊の面目を保てる方法は無いかと。

 そして、クライスと出会って知った。

 情報収集の道を。

 情報は、価値が意外と高い。

 脅しに使えるし、牽制にも使える。

 上手く立ち回れば、支配者と渡り合う事も可能。

 その可能性を示したのがクライス。

 悔しいが、あの情報量は武器として認めざるを得ない。

 ならば。

 こっちには、盗賊家業で身に着けたスキルがある。

 変装、話術、気持ちの揺さ振り方。

 それはスパイとして動くのにも有用。

 使わない手は無い。

 これこそが復讐。

 親父のプライドを打ち砕き、尚且つ組織を掌握して君臨する。

 そして人殺し集団から、諜報軍団として生まれ変わる。

 もうこそこそ森に隠れる事は無い。

 あちこちに散らばっても。

 みんな家族、みんな仲間。

 どうだ!

 お前さんに、こんな事は考え付くまい!

 リゼは勝ち誇った。




 しかし、親父は懐疑的。

 そんな口車にこいつ等が乗る筈が無い。

 簡単にひっくり返せる。

 そう高をくくっていた。

 そして叫んだ。


「こんな奴に従う気なんか無いよなあ!お前ら!」


 ふふ、これで総崩れさ。

 親父は確信していた。

 しかし、その目論見は外れる事となる。


「スパイか……中々良いな。」

「大手を振って町を歩けるのが魅力だな。」

「もうこんな、ムサい暮らしは御免だからな。」


 実は、親父の余りに強引な運営方法に対し。

 皆、嫌気が差していたのだ。

 強奪にとどまらず、皆殺しまで強要して来る。

 もううんざりだ。

 これが良い機会。

 今更足を洗う事は出来ないが、盗む対象が目に見えない物なら。

 意見が一致した。


「リゼに従おう。」


 代表で、或る男が言った。

 静かに頷くリゼ。

 独り、納得行かない親父。

 たまらずわめき出す。


「お前等良いのか!そんな呑気な事で!俺達なんか、《ワルス様》から見たら……!」


 そこまで言って、ハッとする親父。

 リゼが睨む。


「聞いた事のある名だねえ。でも良いのかい?それを喋ったから……。」


 リゼは視線の先を、親父の手に向ける。

 皆、その視線を追い駆ける。

 すると。

 親父も気付いていなかったのか、既に両手が肘まで消えていた。


「痛くないのかい?ふうん、それなら楽に逝けるねえ。」


 冷淡な口調で吐き捨てる様に言うリゼ。

 戸惑う親父。

 頭が消えそうになり、もがくが浸食を止められない。

 最後の言葉として、リゼが言った。




「あの世であの娘に謝るんだね。まあ、あの世があればだけど。」




 その言葉を全て聞き取る事無く、親父はこの世から消滅した。

 盗賊達は確信した。

 リゼの方に理がある。

 そして、皆それぞれの道を選んだ。




 盗賊の巣。

 所属人数は、かつての半分になった。

 本拠地も無い。

 しかし、皆何処かで繋がっている。

 言わば、この世界そのものが本拠地。

 自分の庭。

 その新しいグループ名は。

 家族名は。

 リゼが名付けた。

 かつての友。

 大事な仲間であった少女の名。

【アイリス】と。

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