第123話 怪しい仕掛け
「さっさと話して貰おうか。」
旅人達が来る前に事を収めたい。
それはソウヤも同じ筈。
姿を見られる前に消えたいと思っている。
ソウヤが口を開いた。
「まず言っておくが、俺は盗賊じゃあ無いぜ。」
「え?あんた、盗賊の巣から来たんでしょう?それに『親父』って言ってたじゃない。」
ラヴィが不思議がる。
それを制する様に、ソウヤが続ける。
「それは建前だ。本当は裏からのメッセンジャー兼、盗賊を監視し制御する為のスパイさ。」
「ほう。」
クライスが興味を示す。
「裏とは?」
「決まってるだろう?計画を立案した《組織》さ。」
「組織!やっぱり複数犯なのね……。」
ラヴィがため息を漏らす。
ソウヤの話はまだ。
「組織だって、上手く行くとは思っていない。国内をかき乱せれば、御の字って所らしい。」
「だろうな。」
クライスは考える。
本格的に暗殺を狙っているのなら、ヴェードの様にこっそり出来る筈。
それを敢えて避けている。
つまり。
「暗殺はついで。本丸は《権力奪取》だな。」
「御名答。その通りだ。」
ソウヤは答える。
それを聞いて、ラヴィは『そんなに皇帝の座は魅力的なのか』と問う。
『そうなんじゃねえのか』と、ソウヤはぶっきら棒に答える。
クライスだけは、そう思ってはいなかった。
黒幕が【あれ関係】なら、もっと……。
その時、メイが叫ぶ。
「クライス!」
その言葉に瞬時に反応して、クライスはソウヤの右手親指をスッともぎ取る。
びっくりするソウヤ。
痛みも感じずに指を奪われた。
「何を……!」
抗議をしようとして、クライスの持つ指を見てゾッとする。
指の先からスウッと消えていったのだ。
クライスは答える。
「何か仕込まれていた様だな。」
ソウヤには心当たりがあった。
組織に忠誠を誓わせる時、サインでは無く拇印を求められたのだ。
その時は特に気にしていなかった。
どうせ裏切ってもバレないだろうと、それ位に。
その時か!
あれにはそんな意味があったのか。
命を賭けろと。
「あの拇印が……。」
ポツリと漏らすソウヤ。
それを聞いて、クライスはヴェードが消された方法を理解する。
消去の対象を選べない訳だ。
予め呪いみたいに掛けて置く、保険みたいな物だったのか。
あれは暗殺手段では無く、情報漏洩防止。
納得の行く答えだった。
念の為、クライスはソウヤに尋ねる。
「他に何かされていないか?」
「いや、心当たりは他に無いな。」
そう答えるソウヤの声は、少し震えていた。
今更、消える恐怖が蘇って来たらしい。
まだクライスの質問は続く。
「拇印と言う事は、紙にか?」
「あ、ああ。厳密に言うと、羊毛で編まれた紙だ。」
「普通の紙では無い、か。」
服の生地の様な感じか。
それなら、魔力を込めた糸が編み込まれていてもおかしくは無い。
後、確認する事は。
「拇印の時の指は、決まっているのか?」
「いや、特には……あっ!」
「何か思い出したのか?」
「ああ。利き腕を聞かれた。『そちらの指ならどれでも良い』と。」
「なるほど……」
洞窟で捕らえた盗賊達は皆、震えていた。
刃向うと消される事を知っているかの様に。
誰か見せしめに、目の前で消してみせたのだろう。
それで皆無口になった。
彼等を消去の恐怖から助けるには……。
「切るしか無いのか……。」
クライスはメイに尋ねた。
「この手の呪いを掛ける魔物は居るか?」
「居るわね、いっぱい。方法は様々だけど、契約違反を犯したら自分の思い通りに出来る、そんな感じの物よ。」
「とにかく、これ以上被害を拡大させない為には。この件に関して、盗賊の中で緘口令を敷くしか無さそうだな。」
「黙っていられるかしらね。」
メイは疑問を呈する。
盗賊は、戦果や秘密を話したがる者が多い。
そもそも言う事を聞くのか、その時点で怪しい。
「流石に、自分の命が掛かっていると分かったら従うだろ。」
「その辺をどう納得させるかだけど……。」
メイは悩む。
クライスは、新しい指導者に任せた方が良いと考えていた。
「リゼに任せよう。リーダーシップを示す良い機会だ。」
「責任転嫁ね。」
『狡賢いわあ』とメイは思った。
しかしラヴィの見立ては違っていた。
リゼの判断力を信じているのだろう。
いや、信じたいのかも知れない。
利益本位で動いてきたリゼが変わって行くのを、見てみたい。
人間と言うものを確認する、その対象として見ているのか?
自分もそう見られているのだろうか?
少し不安を覚えるラヴィだった。




