第12話 妖精の森からの従者、あと錬金術師について
ラヴィの中央広場での一件から少し前。
ささっと不穏な動きをする影が居た。
騒乱の状況を見て、しめしめと別領地に移動するその影。
クライスが察知しない訳が無い。
偵察用のミニ金人形をその襟に潜り込ませ、泳がせる事にした。
「ああ、ありがたや!」
「感謝の申し様もありません!」
ラヴィは演説から1日が過ぎようとしても、人々に崇められていた。
まるで神様の如く。
それが複雑だった。
私より凄い人は他に居る。
彼等無しには、こんな事は出来なかっただろう。
私の力はまだまだ小さい。
救える命をもっと増やす為に頑張らないと。
それでも、野望に一歩近付いた気がする。
そう考えていると、眠くなって来た。
そこで、エレメン卿の屋敷で休ませてもらう事に。
『……おい、おい!』
「誰?私に呼び掛けてるの?」
『お、漸く気付いたか。退屈だったぞ。』
「……ん?」
『おっと、自己紹介がまだだったな。儂はバクバックンの【キーリ】と言う者じゃ。』
「え、エミルが言っていた……?」
『あのお喋り妖精め、余計な事を言いおって。お陰でこんな羽目に……。』
「ちょっと!ちゃんと説明して頂戴!」
『ふむう。いやな、お主を気に入って儂等の世界に連れ帰ろうとしたのじゃが。途中で目を覚ましたもんで、儂がここに取り残されてしまってのう。』
「えーーーーっ!」
『じゃからまあついでに、お主の野望に手を貸してやろうかと思っての。爺のほんの気まぐれじゃ。』
「ちょ、ちょっと!勝手に決めないでよ!」
『仕方あるまい。条件が揃わねば、儂は帰れんのじゃ。それがちと特殊での。揃うのは少なくとも3年後じゃ。』
「困るんだけど!私乙女なんだけど!知られたく無い事がたくさん有るの!」
『じゃがお主が行き詰った時、知恵を貸せるぞ?あの小僧には及ばんが。』
「クライスの事?」
『ああ。あ奴は人を越えておる。儂等の領域をもな。どうやればあの様な化け物が……。』
「撤回して!」
『む?』
「撤回して!彼は私の立派な仲間よ!侮辱は許さない!」
『分かった分かった、そうカッカしなさんな。そんな訳で宜しく頼むぞ。』
「宜しく出来そうに無いんだけど。」
『ほれ、仲間とやらが呼んでおるぞ。早う起きてやらんかい。』
「逃げた!」
『儂は夢の中に何時でも居る。気が向いたら呼んどくれ。それじゃあの。』
「あ、あーーーーっ!」
「ラヴィ、どうなされたのです、ラヴィ!」
「う、うーん……。」
セレナにゆっさゆっさと揺すられて、ラヴィは漸く起きた。
「どうしました?こんなに深い眠りは珍しいですよ。」
「いやあ、少し疲れが溜まってたのかも……。」
「そうですか、ではしっかりと栄養を付けないと。明日には次の領地に移動しますから。」
「もう夕食の時間?早いわね。」
「寝過ぎですよ。さあ、行きましょう。」
セレナに連れられて、食堂へと歩いて行くラヴィ。
それにしても。
夢の中に出てきた、小さくて黒いゾウの様な物体。
キーリ、だっけ?
上手くやっていけるかなあ。
仕方無いのでラヴィは、或る者に相談する事にした。
「凄いじゃん!そんなの聞いた事が無いよ!人間の味方をするなんて!」
とても驚き、大はしゃぎのエミル。
それとは対照的に、頭の中を常に覗き込まれている様で気持ち悪いラヴィ。
エミルに尋ねる。
「それでどうなの?大丈夫そう?」
「それだけ気に入られてるんだ、問題無いっしょ。」
「相変わらず軽いわねえ。」
「えへへ。」
「褒めて無い!」
「それでお姉ちゃん達にもうちが見えるんだね。森の外なのに。やっと疑問が解けたよ。」
「と言う事は、セレナも?」
「ううん。そっちはお姉ちゃんが大事に思ってる人だから、無意識に守ろうとしてその影響が出てるんだと思う。あいつはあっちには居ないよ。」
「そう、良かった。」
「まあ、野望とやらの為には。使える物は何でも使う事だね。でも……。」
急に神妙な顔になるエミル。
不安がよぎるラヴィ。
「あいつを信用し過ぎない事。前代未聞だからね。うちも最後にどうなるかは分かんないから。」
「分かってるわよ。余程の事が無い限り、あいつには頼らないわ。」
「そう言えば、何故クライス達は妖精が見えるの?」
「何だ、そんな事かあ。」
「『そんな事』って……。」
「あのね。『錬金術を使うには賢者の石が必要』、これは分かるよね?」
「え、ええ。」
「賢者の石を作り出したのは、元々或る偉い妖精様なんだ。つまり力を使うには、妖精に近い存在にならないといけないのさ。」
「嘘!全然知らなかった……。」
「その妖精様から賢者の石の作り方を譲り受けたのは、クライスの先祖なんだ。」
「そう言えば、錬金術の始まりに関しては殆ど知らないわ。」
「妖精様が編み出したのは良いけど、うち等では使いこなせない。だから、偶然森に迷い込んできた人間に託したのさ。」
「それがクライスの先祖、と……。」
「そう。かなり才能が有ってね。他の人間も使える様に、精製法を改良したみたいだしね。劣化版だから他の人間だと力が弱くて、うち等は見えないけど。」
「それが世界中に普及して行った、と。」
「クライスから聞いたのはそんな所かな。後は本人に聞いてよ。まあ話したがらないだろうけど。」
「まだ秘密は有るって事?」
「そりゃそうでしょ。クライスは【賢者の石無しで錬成する】んだよ?」
そうだった。
幾ら宗主の一族とは言え、アンも賢者の石を使っている。
なのにクライスは、何も使っていない。
最大の謎だ。
でもそれは同時に、かなりデリケートな話題にも感じた。
彼の方から話してくれるまで、触れない方が良さそうだ。
「ありがとう、エミル。気持ちが軽くなったわ。」
「それ褒めてる?」
「褒めてる!」
『もう』とため息を付きつつ、ふふっと笑うラヴィだった。
それにしても。
それについてクライス本人は、何処まで知っているのだろう?




