第115話 盗賊達の明日、良いか悪いか
「全く、あの金ぴかは。人使いが荒いねえ。」
クライスからの知らせを受け、リゼはぼやく。
振り回されたく無いのに、そうせざるを得なくなってしまう。
『何て奴だ』と考えるが、ここは従う他無い。
その方が、こちらにとって得だからだ。
親父の身柄を確保し、正式に全権を握る。
そうすれば、『お前はただの代行だ』と文句を言う奴も居なくなる。
スッキリすると言うものだ。
捕縛された手下を連れて戻って来たドズは、『もう良いだろ!』と言って盗賊の巣を出て行ってしまった。
あの様子ではもう帰って来る事もあるまい。
ここは地盤を盤石にする為に。
奴に乗っかってやろうじゃないの。
決意したリゼは、ヘリックとボーンズを呼び出す。
2人に命じるリゼ。
「お前達!金ぴかが、『親父を捕らえたから迎えに来い』ってさ!行ってくれるかい!」
親父を連れ帰れば、自分達の地位は高まる。
それ位、2人も分かっていた。
喜んで命に従う2人。
名誉欲しさに。
ここぞとばかりに同行を名乗り出る、狡猾な奴も現れた。
「2人が認める奴は、一緒に行って来な!」
そう言い放つリゼ。
リゼに使われっ放しでリーダーに憧れていた2人は。
同行を申し出た盗賊全員を連れて、一路洞窟を目指した。
残った者も、考え無しに残ったのでは無い。
リゼを守ると言う名目で、ヘリックとボーンズの地位をかすめ取るチャンスを伺っていた。
良し良し、ここまでは順調だねえ。
これからが重要だけどねえ。
リゼには考えがあった。
今はただの盗賊の集まり。
それを根底から変える。
そのプランを今こそ実行する時。
或る意味それは悲願でもあり、復讐でもあった。
檻に全員閉じ込めた後。
ここまで連れて来てくれたリドは、既に居ない。
しかし最後に力を使ってくれたらしい。
隠れていた馬車が街道へ戻れる様、森林をパックリ割ってくれたのだ。
それで、ラヴィ達は目的達成を確信。
ここに居ても邪魔になるだけ。
アンは『兄様が自分を呼ぶ筈だから』と一人残り、後は街道へ戻って行った。
馬車が街道へ出るまで、メイが先に行き出口に幻を張る。
道があると勘違いした、足止めを食らっている人間が逆流しない様に。
そして懸命に馬車は走る。
やっとの思いで外へ出た時、驚きの声が道の向こうから上がる。
それはラヴィ達が見つかったからでは無い。
道に開けられていた穴が漸く塞がれ、通れる様に修復が終わったのだ。
喜び勇んで通過する行商人達。
『ナイジンの町で橋の修復を頼もう』と意気込んでいた。
こんな思いはもう真っ平御免。
便利な事がこれ程有り難いとは。
皆、陳情に前向きだった。
その様子を見て、ホッとするラヴィ。
メイが何故か突っ掛かる。
「何?あたいがしくじると思ってたの?」
「違うわよ。『みんな通れて良かったなあ』ってね。」
「他人事ね。これからあたい達も通るってのに。」
「その時は、ほら。アンが何とかしてくれるでしょ。」
「結構あてにしてんのね。」
「それはそうよ。錬金術師だもの。」
「良いの?仲良しこよしで。」
チクリと一言。
何の事か、ラヴィには分からなかった。
反応の鈍さに、少しがっかりするメイ。
「まあ良いわ。でも覚えといで。あたいもあれ等も、この世界では所詮《異物》なの。」
それだけ言って、馬のメークの頭で休むメイ。
引っ掛かる物言いに、首を捻るラヴィ。
『戯言ですよ』とセレナに声を掛けられ、その場は収まった。
しかしそれ以降、その言葉の意味を探る事になる。
その頃、逃げて来たソウヤは。
アストレル家の屋敷を探して、ナイジンの町を彷徨っていた。
しかし、屋敷らしき建物は見つからない。
それどころか、人っ子一人居ない。
どう考えてもおかしい。
幻か?
頬を抓る。
痛い。
幻覚では無さそうだ。
なら、ここは?
そう考えている内に。
意識が遠くなり、バッタリと倒れた。
目を覚ますと。
傍に誰か立っている。
うつ伏せになっているので、姿が見えない。
確認しようと顔を横に向ける。
そこで顔を踏まれてしまった。
固定されてしまった。
仕方無いので、大声を出す。
「俺は怪しい者じゃ無い!取り敢えず話を聞いてくれ!」
意外にもあっさり、踏んでいた足らしき物が退けられた。
身体を裏返し、仰向けになるソウヤ。
そこで見たものは。
黒い。
黒くて、蠢くもの。
人か?
いや、違う。
魔物?
それも違う。
では、これは……。
身体を起こすソウヤ。
自分の足を見る。
まだ気付かない。
立ち上がる。
足元を見る。
そこで初めて、ギョッとする。
背筋が凍る。
無い。
影が。
自分の影が無い。
周りを見渡しても、何処にも無い。
どうなってる?
そして向こうを見やると。
明らかに自分のシルエット。
思わず叫ぶ。
「お前は俺の《影》か!」
それは振り返り、ニヤリと笑った気がした。
『こいつか!俺の顔を踏んでたのは!』
漸く悟るソウヤ。
ここはナイジンでは無い。
しかしこの世界の何処かである事は確か。
そんな事が出来るのは……。
「影よ!俺を連れてってくれ!この何処かにアストレル家の者が居るんだろう!話があるんだ!」
影は黙って、『付いて来い』といった素振りで歩き出した。
選択の余地は無い。
影を追い駆けて、ソウヤが向かう先は。
地獄か?
それとも。




