第114話 人間と妖精の絆は、確かに
リドは一体名何者なのか?
本人が語った事は以下に。
昔、妖精はあちこちで気ままに暮らしていた。
人間との接点はそれ程無かったが、悪戯する程度。
悪戯された方も、そんなに気にしていなかった。
平和な生活。
共存共栄とまでは行かなかったが。
『お互いを尊重し利益を損ねない』と言う、一種の不文律があった。
それが急に破られた。
メイの言っていた、《錬金術師達の急襲》。
それは極一部の人間による犯行であり、大多数の人間は妖精に味方した。
妖精を逃がす為協力し、実行犯共を追い詰めた。
そして、別の錬金術師達の参戦。
妖精を『友』と呼んでいた彼等は、この事態をかつて無い危機感を以って当たった。
不穏分子は駆逐され、妖精は或る場所で保護されそこに定住する事となった。
しかし、残念ながら救えずに殺された妖精達も居た。
異能の力を以って。
普通の人間なら、直接妖精を攻撃する事は出来ない。
何か別の者が絡んでいる。
そう考えていた妖精達は、人間を信じる心を持ったまま命を落とした。
本来ならそのまま地脈の流れの様になって、一エネルギーとして再び別の何かに変わる筈だった。
しかしそれを不憫に思った精霊の内、木の精霊が救いの手を伸ばした。
精霊の力で、妖精の信じる心をかき集め統一し。
人間が果たして妖精の敵と成り得るかどうか、見極めるチャンスを与えた。
それが、リド。
木の精霊によって蘇った、妖精達の心そのもの。
だから両方の特徴を持っていた。
人間に知覚されない姿と声、植物を操る能力。
そして時の狭間を彷徨い始めた。
半精霊化しているので年を取らず、時が過ぎて行く中で人間の行動を観察していた。
その過程で、偶然デュレイと出会った。
ラピから渡されていた球のお陰でリドを認識出来たデュレイは、曽て共に戯れた人間と同じ様にリドへ接した。
意外なデュレイの反応を見たリドは、旅に同行する事を決意。
魔物と友達になれる人間は早々居ない。
彼に付いて行けば、何か新しい発見があるかも知れない。
そうして旅をしている内に、怪しい集団と遭遇。
デュレイが探っていた連中だと知ったのは、彼が捕まる直前。
彼はその事を大声で叫びながら、リドを助ける為遠ざかった。
そこで『人間にも良い奴と悪い奴がいる』と実感する。
善と悪、その両方が人間の本質。
では、もう共に歩む事は出来ないのか?
その答えを知るには、まずデュレイを救う必要がある。
考えたリドはこっそり後を付いて行き、デュレイが投獄されるのを確認すると。
毎日、栄養価の高い野菜を檻まで届けた。
そして救出するチャンスを待った。
クライス達と出会ったのはその時。
直感で分かった。
彼等なら救ってくれると。
何故か?
妖精が共に居たからだ。
しかも仲睦まじく。
そして全てを託した。
結果、それは正解だった。
確信を得たり。
リドの心は満ち足りていた。
そこまで筆談すると、リドの姿が崩れ始めた。
「おい!待ってくれ!まだ話したい事が!お互い旅の途中だろう!」
そう言って、デュレイがリドに抱き付く。
その時、デュレイの心に話し掛ける声が聞こえた。
『僕は確信したんだ。妖精と人間は仲良く出来るって。だから僕の旅はここで……。』
「終わりなんて言わせない!まだまだ共に行きたい場所が……!」
デュレイは既に泣いていた。
別れの時間だと、本当は理解しているのだろう。
それも、悲しい別れでは無く。
幸福に溢れた、輝かしい始まりだと言う事を。
リドは、クライスとエミルに感謝の言葉を残した。
人間と妖精の可能性を見せてくれた事へ。
ロッシェには、人間側への期待を込めて。
トクシーには、デュレイの未来を授けて。
満足した顔をしながら、ゆっくり姿を消すリド。
デュレイへ向けて、最後にこう言った。
『何時も、僕は居るから。君の望む時に。』
再び時が流れ出したリドは、木の精霊の中へ溶け込んでいった。
そして完全に同化した。
崩れ落ちるデュレイ。
そんな友の姿を、真面に見ていられないトクシー。
かつての〈ノウを失ったヘンのガクッとした姿〉と重ね合わせるロッシェ。
そんな中、顔付きを変えないのはクライス。
まだ終わってはいない。
そう言いたそうだった。
友として、デュレイに声を掛けるトクシー。
「私達は託されたのだ。その責務を果たさねば。」
涙を拭うと、デュレイは立ち上がった。
「余りメソメソ泣いていては、リドに笑われてしまうな。」
幾つもの死戦を乗り越えて来たデュレイ。
これまでの旅が、順風満帆な筈が無い。
その経験がデュレイの心を強くした。
リドの姿は見えなくとも、きっと共に歩んで行く。
そう確信していた。
「ところで、これ等の処置はどうします?」
捕らえた盗賊達を見やり、トクシーがクライスに尋ねた。
「リゼに、迎えに来させますよ。既に実権を握っている筈ですから。」
これも想定内なのか?
『リゼに協力する』と聞いた時は驚いたが。
「済まないエミル、ひとっ走り行ってアンを連れて来てくれないか?」
「分かったよ。ちょっと待ってて。」
クライスに頼まれ、ピューッと飛んで行くエミル。
不思議に思ったデュレイが、クライスに尋ねる。
「一体あなたは何者で?リドや妖精の姿が見える様ですし、ビンセンスが敬語で話しかけるとか……。」
聞きたい事は山程あった。
それはクライスも同様だった。
「あなたこそ、何故ここまで厳重に監視されていたのですか?」
「そうだ、デュレイ。お前、何か重大な秘密でも掴んだのか?暗殺に関する……。」
トクシーがそこまで言った所で、『しっ!』と口止めするデュレイ。
盗賊達の手前、聞かれたくない事柄があるらしい。
縛られたままの盗賊達はと言うと、予想に反して抵抗せず大人しかった。
それどころか、青ざめた顔の者も居た。
『下手に喋れば消される、このまま素直に捕まった方が命が助かる』と言った具合に。
手下の様子を観察するクライス。
なるほど、一度見ているな?
ヴェードの様に消された人間を。
それで口数が……。
そう考えている内に、アンを連れてエミルが戻って来た。
クライスの思いを汲み取っていたアンは、早速錬金術で檻を作る。
クライスは金しか生めない為、頑丈な物は作れないのだ。
万能で無いからこそ人間らしい。
アンはそう考えていた。
他の人間はそう思ってくれないが。
但し、そう思ってくれる人間は徐々に増えていた。
この旅が味方を増やしてくれていた。
連れ出したラヴィ達に、その点は感謝しているアン。
人間関係が変われば、兄様も過ごし易くなる。
それまでは全面サポートするつもりだった。
次々と檻に入れて行くロッシェ。
金の燕で、リゼに知らせを送るクライス。
その間に洞窟を見て回るエミル。
ここに妖精が……。
そう思うと不思議だった。
シルフェニアしか知らないから。
ここはこうで、あそこはそうなってて。
へえ、シルフェニアにも良く似た場所があるなあ。
ここに居た妖精が、故郷を懐かしんで作ったのかなあ?
想像が膨らむばかりのエミル。
そんな中。
一人、周りをきょろきょろする者が。
「あいつ、逃げやがったな……!」
悔しがる親父。
ここへ事態を知らせに来て、そのまま見張りに付かせた筈のソウヤ。
いつの間にか姿を消していた。
そのソウヤ。
ひたすら前を向いて走り続けた。
目的地は、元居た盗賊の巣では無く。
ナイジンの町に在る、アストレル家の屋敷。
勿論、事態を知らせて匿って貰う為。
しかし、支配者がそんな事を許すだろうか?
一縷の望みに賭けるしか無い、ソウヤだった。




