第113話 種明かし
クライス達は。
大勢、しかも見た事の無い武器を保持した相手に。
何故勝てたのか?
それは、かなり前に遡る。
ウイムの町でクライスが火の精霊と出会った時。
精霊は確かに、攻め込んで来た敵に対して怒っていた。
しかしそれは、目の前の敵だけでは無かったのだ。
町のあちこちに設置された爆弾。
それに使われていた火薬は、この世界に元々ある物よりも爆裂度が増していた。
殺傷能力が強化されていた。
そこでクライスは、こっそり火の精霊に尋ねた。
『この世界に存在しない筈の火力兵器が、敵に渡っているのではないか?』と。
すると、火の精霊は頷いた。
クライスの持っていた文献の中には、大量殺戮兵器に関する物もあった。
なので敵が重火器を所持している可能性を考慮し、闇の戯れでの作戦会議の時に対処法を皆に伝えていた。
まともにやり合っては、まず勝ち目は無い。
ではどうするか?
まともにやり合わなければ良い。
そこで。
デュレイが捕まっている洞窟は、曽て妖精が暮らした場所。
ならば、妖精の性質が色濃く残っている筈。
エミルなら、それを良く知っている。
利用しない手は無い。
向こうは妖精が見えない事もあり、エミルを最大限利用する事にした。
デュレイの元へ辿り着いた時、エミルは既にクライス達から離れていた。
妖精は、かくれんぼや鬼ごっこが大好き。
なので、あちこちに隠れられそうな場所を作っている。
非常用の通路も例外では無い。
一本道では無く、途中で枝分かれしていたのだ。
その分岐を利用して、エミルは親父に近付いた。
親父が結界を張った時に、エミルの姿が見えなかったのは当然。
親父のすぐ傍に居たのだから。
しかも、親父はクライス達に気を取られていた。
結界を展開するのに集中し、傍に居るエミルが分からなかった。
ロッシェとトクシーに虹の壁を殴らせたのも、破壊が目的では無く親父の気を引く為。
最初から割れるとは思っていない。
2人が壁をどつくタイミングで。
こっそり大きめの石を抱えたエミルが、親父の腹へ突進。
見事クリーンヒットし、親父は悶絶して球を離してしまった。
その球の上に、ついでの様にエミルが石を落とす。
球は地面に落ちて割れたのでは無く、石で粉砕されたのだ。
それ程、球はデリケートな代物。
デュレイが保持していた球は。
襲撃を受け矢を胸に当てられた時、心臓の身代わりとなって破壊された。
だから、その後のエナジードレインに耐えられなかった。
ラピがデュレイの意志を突然感じられなくなったのは、その為。
その出来事が、親父に跳ね返っただけの事だ。
更に、エミルにはもう1つ役割があった。
隠密行動が取れるからこそ。
敵はきっと大勢で待ち構えているだろう。
こちらを確実に葬る為には、手段を選ばない。
火の精霊の怒りの矛先がまだあるなら。
銃の様な物を持ち込んでいる可能性が高い。
エミルに銃の事を説明しても、恐らく分からない。
だからクライスは、これだけ指示をした。
『こっちに筒が向けられていたら、その穴を全部塞いでくれ。』
銃口を塞がれたまま撃つと暴発する。
良く有りがちな事故。
それは筒状の構造だから仕方が無い。
でもそれを知っているかどうかは、決定的な差となる。
クライスが『原理は知らない』事を尋ねたのは、その確認。
案の定、手下は暴発した銃の犠牲となった。
更に、親父が取り出したピストル。
リボルバー。
それは回転する部分を押さえられると、引き金が引けず弾が発射出来ない。
『そう言うのが中にあったら、取り敢えずしがみ付いて』とも、エミルに言っておいた。
『面白そう』と考えたエミルは、喜んで親父のピストルにしがみ付いた。
リボルバー部分が回らず、引き金が動かない。
その間にエミルは、こそっと銃口を塞ぐ。
そしてさっと離れた。
両手で引き金を引こうとした親父は。
過大な力を掛けてしまった為に思い切り引き金を引き、暴発を止められなかった。
でも、それだけで銃は破裂するだろうか?
しない、普通は。
エミルも、石や泥をごちゃまぜに持って銃口を塞いで回っただけ。
指を吹っ飛ばす程の火力は無い。
つまり、協力者が居たと言う事。
そう、火の精霊。
実は、そこまで怒っていたのだ。
自分の力を、こんな兵器を用いて侮辱するとは。
一度痛い目に会わせて、『精霊はその様な武器に加担しない』事を知らしめる必要がある。
親父達は目の前の優れた文明に夢中になり、精霊達の恩恵を忘れてしまっていた。
『自分達が生かされている事・守られている事』を頭の隅へ追いやり、この世界を支配していると勘違いした。
その驕りに活を入れる為。
火の精霊は力を貸したのだ。
自然と共存しようと、努力するクライスに。
これが決定的な戦力の差となった。
たとえエミルが銃口を塞がなくとも、撃鉄が引かれ火薬に引火させたくても火の精霊が邪魔しただろう。
命をむやみやたらに奪う、その先兵にはさせない。
しかし悲しい事に。
銃の原理を理解していないが為に、親父達は自分の過ちに気付く事無く。
このままリタイヤする事となる。
『何故だ!』との疑問を、一生抱えたまま。
「ありがとう。」
クライスは火の精霊の協力に気付き、感謝の言葉を呟いた。
そして、戻って来たエミルの頭を撫で回した。
「良くやった!流石エミル!頼りになるよ!」
クライスに思い切り褒められ、『えへへ』と笑うエミル。
得意気の妖精の顔を想像してみるが、良く分からないロッシェ。
こう言う時に喜びを分かち合えないのは、少し心苦しい。
『仕方無いさ』とトクシーに言われ、『あー、先生もなのか』と思う。
そしてすぐに檻の鍵を親父の懐から取り出し、デュレイを無事救出。
トクシーとデュレイが喜びを分かち合っている間。
ロッシェが銃を全て回収し、クライスが金の粒子に変え自然へと返した。
クライスは。
ずっとデュレイの傍に居るリドへ、何やら囁いた。
『ピコーン!』と閃いたリドは、早速実行。
デュレイの前に木がむくむく生えたと思うと、少年の形となった。
それは先程見た、リドの姿そのもの。
クライスが説明する。
「今まで〈土の精霊・火の精霊〉が人間の姿を取ってコミュニケーションを取っていたので、リドにも出来るんじゃないかと。」
大当たりな様だ。
声を聞かせる事は出来ないので。
筆談の様に蔦で空中に文字を書き、会話が始まった。
『良かった。助けられて。』
「済まない、迷惑を掛けてしまった……。」
涙ぐむデュレイ。
トクシーがクライスに尋ねる。
「『リドにも出来る』と、先程話されましたが……。」
「それは、リド本人が説明してくれますよ。」
ちらっとリドを見るクライス。
コクンと頷く少年の姿の木。
そして空中へ語り出した。
自分が何者かを。




