第111話 妖精が暮らした洞窟へ
伝令は早さが命。
盗賊家業は、足の速い者が揃っている。
親父まで伝令が到達するのに、左程時間は掛からなかった。
知らせを受け取ると、ニヤリとする親父。
「来たか。会いたかったぜ……。」
ふと呟くと、『お前ら!《あれ》を用意しろ!』と号令を出す。
親父には何か秘策がある様だ。
洞窟の辺りが急に騒がしくなり、不思議に思うデュレイ。
親父が懐に持つ物を見て、『いかん!』と心の中で叫ぶ。
何かが接近している、それで警戒しているのだろうが。
こっちへ来るな!
見知らぬ来訪者にそう警告したいが、手段が無い。
このままで良いのだろうか?
デュレイなりに考え始めた。
リドに付いて行く面々。
その人数は、途中で減っていた。
無策で突っ込んでもやられるだけ。
そう話し合って決めた事。
やはり、実働部隊は少人数の方が良い。
小回りが利くし、何より大人数より標的になりにくい。
そこで今回救出に向かうのは。
実質的リーダーのクライス。
デュレイの顔を唯一知っているトクシー。
力仕事が必要となる為にロッシェ。
元妖精の暮らしていた場所なので、妖精の生態に通じるエミル。
後は途中で待機する事に。
メイとアンで結界を張り、セレナとラヴィで馬車の警護。
ラヴィは付いて行きたがったが。
クライスの『馬を宜しく頼む』と言う言葉で、敢えて残った。
ラヴィが馬と仲良しになっている事を知っていて、馬の気配を悟られぬ様に託したのだ。
馬の首を撫でながら、ラヴィは囁く。
「じっとしているのは心許無いでしょうけど、我慢してね。」
勝手に【メーク】と名付けた馬を、大事そうに擦るラヴィ。
メークは首を上げ下げして、まるで返事をしている様だった。
「本当に上手く行くでしょうか……。」
心配そうなセレナ。
アンが答える。
「兄様もいるし、大丈夫でしょ。セレナが心配なのは、どっちかと言うと……。」
もごもご。
慌ててアンの口を塞ぐセレナ。
その様子を見てフフッと笑うメイ。
案外余裕があるじゃないの。
あたいは退屈だけど。
まあ、お手並み拝見といきますか。
メイは黙ってその場に座り込んだ。
目の前が常にパカリと割れながら、進んで行くリド達。
本来、目指す〔朧の洞窟ミレイジュ〕には。
渓谷から北に向かう街道を途中で南西に折れ、渓谷の底を目指す様に下って行くと辿り着ける。
急に平らな土地に出たと思うと、洞窟の入り口に出くわす。
そこから人間が出入り出来る様になっている。
だから人間側からしたら、そこだけ守っていれば侵入者を防げると考えている。
しかし妖精は、ちゃんと別の出入り口を用意していた。
妖精専用の。
攻め込まれた時、急であったのに迅速に逃れる事が出来たのは。
その為だった。
それは丁度、デュレイが幽閉されている洞窟の窪みのすぐ傍に出て来る。
リドはデュレイが放り込まれたのを確認した後、毎日栄養価の高い野菜をこっそり持って行った。
救出の機会を窺う為に。
《ある物》が破壊されてからは会話も認識も出来ないデュレイだったが、リドが近くに居る事は把握していた。
リドの見えない頑張りを感じ、それに応えたいと筋力トレーニングを欠かさなかった。
これは敵側への、屈服しないと言うアピールでもあった。
洞窟と街道は、深い森で阻まれている。
人間なら一苦労も二苦労もしないと開拓出来ない空間。
天然の要塞と勝手に思い込んでいる地形。
それをリドは逆手に取ったのだ。
妖精の性質を持っているからこそ出来る芸当。
しかしリドは自分を『妖精で有り妖精で無い』と表現した。
それはどう言う事か?
この先分かる事となる。
デュレイの捕らわれている檻の前には、見張りが2名。
後、出入口付近に2名。
デュレイに分かるのはそれだけ。
洞窟の外は、生き物の気配がごっちゃになっていて分からない。
かなりの人数が居そうだ。
それは見張りの会話から分かった。
「これで奴等も一網打尽だな。」
「ああ。親父はあれを持ってるし、隠し玉も有るからな。」
「無理してアストレル家に顔を出した甲斐があるってもんだ、親父も。」
「下げたく無い頭を下げてな。」
「全くだ。」
「そうしたら、俺達も帰れるな。」
「晴れてお役御免だ。」
「帰ったら何する?」
「そうさなあ……。」
良い気なものだ。
もう勝った気でいる。
一番の落とし穴なのに。
非常事態の経験が豊富なデュレイは、そう思っていた。
それにしても、奴等がそれ程恐れる者とは何者だろう?
逆に好奇心が湧いて来た。
後は寝て待つとしよう。
デュレイが寝転がった時。
ドスッ!
「ぎゃああああああ!」
「うわあああぁぁぁぁぁ!」
檻側の見張りが急に苦しみ出した。
バッと起き上がるデュレイ。
その目の前には。
「久し振りだな、デュレイ。外見は余り変わっていない様だ。」
「お、お前は!ビンセンス!」
懐かしい顔。
曽て苦楽を共にした友。
ラピと暫く意識をリンクしていたお陰で、ラピが体験したトクシーとの思い出さえも次々と甦る。
檻をガッと掴み、大声で話しかけるデュレイ。
「ど、どうしてここに!」
「お前を助けにな。頼まれたんだ、お前の代行に。」
「ラピか!あいつは無事か!無事なんだな!」
「ああ、息災無いよ。」
再会を喜び合う2人。
それに割り込む様に。
「感動している所悪いんだけど、さっ!」
バキッ!
ドガッ!
異変を感じた出入口待機の見張りが駆け付けた所を、ロッシェがぶん殴って壁に吹っ飛ばす。
「少しは手伝ってくれよ、せんせー。」
呻き苦しむ見張り達4人に、シュルシュルと蔦が巻かれる。
「リド!リドも居るのか!」
デュレイは叫ぶが、やはり姿は見えない。
檻の前にスッと立つクライス。
「ちゃんとここに居ますよ。『助けに来たよ!』と言ってます。」
クライスはリドの言葉を代弁する。
ホッとするデュレイ。
そしてすぐに思い出す。
「君達、気を付けろ!あいつ、《あれ》を持ってるぞ!」
「あれって何の事……。」
ロッシェが最後まで言う間も無く。
出入口から声が聞こえる。
「ようこそ牢獄へ!そしてお前等の最後だ!」
カッと眩しく光ったと思うと、一同の周りに虹色の壁が現れた。
直方体の空間の中にすっぽり入り込んだ様だ。
ロッシェが壁をドンドン叩くが、びくともしない。
トクシーも檻の方を叩く。
空間に含まれていない檻の中から、青ざめた顔で一同を見るデュレイ。
副産物なのか、空間の中に少年が現れた。
「リド!」
「囲まれちゃった。てへへ。」
あどけない表情で、そんな言葉を発するリド。
「済まない!お前まで捕らえられるとは……。」
「気にしないで。必ず助けるから。」
「そうは言っても……。」
デュレイがそう心配する様に、この空間には見覚えがあった。
あれは捕まった時。
同じ空間がデュレイの周りに展開し、力が吸い出される感覚と共に立っていられなくなった。
屈強な体を持つデュレイは、そうしてあっさり捕らえられたのだ。
「このまま干からびて、果てるがいい!フハハハハハ!」
親父の高笑いが、洞窟内にこだまする。
やった!
勝った!
勝ったぞ!
そう親父は確信した。
その時。




