第108話 魔力の集いし場
魔法使いが支配する地域、〔闇の戯れ〕。
何故、その様な呼び名が付けられているのか?
曽て偶然迷い込んだ人間の証言が、元になっている。
それを魔法使いも気に入って、正式な呼び名となった。
証言者が、その時見たのと同じ光景。
今、一行の前にも広がっていた。
「何だ、これは……!」
そう言って絶句するトクシー。
まさか我が国に、この様な場所が在ろうとは。
そこは、光の楽園と言うべきなのだろうか。
全てが虹色に輝いていた。
輝きつつ、時が経つにつれ色彩を変えて行く。
〔時が経つ〕と言う表現は、少し語弊が有る。
メイが紹介する。
「ここはね、大地から魔力が放出される場所なの。」
「キラキラしてる、この光の色は……?」
ラヴィが尋ねる。
「魔力が可視化されてるの。その辺の解説は……。」
「分かってるよ。俺の番だな。」
そこはクライスが話す。
説明は、以下の通り。
魔力、所謂エネルギーは5種類の要素がある。
火・水・木・金・土。
そして要素それぞれに『光と闇』がある。
別の言い方をすれば『プラスとマイナス』又は『正と負』。
性質が反対。
例えば気温で言うと、温度が上がるか下がるか。
水が氷るか、沸騰するか。
つまりエネルギーを与えるか奪うか。
そうして状態を変化させる。
こうして、魔力の状態は5×2=10種類ある。
ここから、賢者の石及び錬金術師の解説に。
10種類の状態をコントロールするのに一番適した道具、それが賢者の石。
それが何故黒色なのか。
石の中では、閉じ込めた魔力が交差し合っている。
石自らは魔力を発しない、故に色彩の波長も発せず黒色としか認識出来ない。
でも周りの魔力に影響を与え、一定の流れを作る事は出来る。
錬金術を使う時、術師は賢者の石に力を込めるが。
あれは切っ掛けに過ぎない。
力の込め方は、発動させたい魔力によって微妙に違う。
それによって。
10種類の力の内、制御したい魔力を選択している。
正負、プラスマイナスも同時に。
正の力は魔力を集約し、負の力は魔力を分散させる。
結果、物質を生み出したり変形・消去したり出来る。
但し力の込め加減はとてもデリケートで、コツとかそう言うレベルでは無い。
ある一種の才能が必要。
それを強く濃く受け継いでいるのが、宗主家であるベルナルド家。
妖精が賢者の石の扱いに困ったのも、そう言った理由。
稀に扱える天才が現れるが、それでも宗主家には及ばない。
下手に扱うと暴走するだけ。
だから別の方法で制御出来ないか、研究が進んだ。
その甲斐あってか。
手順を踏んで集中力を高めれば、賢者の石である程度変化を与える事が出来るまでになった。
方法は瞑想だったり、呪文だったり、魔方陣だったり。
様々な方法の中から、各自適した物を選ぶ事になる。
その研究課程の副産物が、科学や医学の発展。
それでも金だけは魔力の流れが特殊過ぎるのか、誰も生み出せなかった。
ベルナルド家の者でさえも。
そして、金は。
貴金属の中でも神秘の象徴とされ、珍重される様になった。
儀式で金が使われるのも、墳墓に金の装飾が多いのも。
その特殊性故に。
もし自由に金を生み出せる様になれば、それはこの世界の魔力の流れを握った様なもの。
パワーバランスが乱れてしまう。
だからそこで錬金術の探求は舵を切り、金では無く科学・医学へ注視する様になった。
ある意味、封印され禁忌となった金の錬成。
それを行使出来る者が現れるなんて、誰もが思いもしなかった。
クライスの出現は、それだけインパクトが強かった。
期待と不安。
それは欲望と失望に変わる。
金は生めるが、金しか生めない。
器用貧乏とはこの事。
かくして、クライスの苦労が始まる。
後は、皆が知る所。
そして今に至る。
「つまり、この場所は『賢者の石の中に居る様なもの』で良いのね?」
余りに長い説明で、頭がこんがらがる一同。
ラヴィは何とか整理しようと、そう問い掛けた。
「簡潔に話すと、そう言う事だな。」
「じゃあ初めからそう言ってくれよ!」
ロッシェはそう突っ込むが、セレナが反論する。
「魔力についての説明が無いと、結局分からないでしょう?クライス様は、これでも丁寧に話して下さったのよ?」
魔力について殆ど知識がなかったロッシェは、ここで押し黙ってしまう。
そう言うセレナも、10言われて10理解した訳では無いが。
この中で全て理解しているのはアン、そしてメイ。
大体はラヴィ、セレナ、トクシー。
何と無くはロッシェ、エミル。
『高度な知識が要求される』とトクシーは前に、錬金術について聞いた事がある。
しかしこれ程までとは。
話を聞く限り、知識に偏りがあっては使いこなせない。
万能選手である必要がある。
そんな膨大な情報量を、どうやって捌けば良いのか。
錬金術師の底が見えない。
『自分には向いていない』と、つくづく感じた。
クライスの説明が漸く済んだので、今度はメイが話し始める。
「ここは魔力が流れ込むから、逃げ場が無い訳。するとね……。」
ある方向を見るメイ。
一同、メイが見る方へ振り返る。
するとそこには。
「黒い……球?」
ラヴィが声を上げる。
直径40センチ程だろうか。
ふよふよと空中を浮いている球状の物が。
メイが話す。
「あれはね、魔力が交差して出来た出口。あそこから外の世界へ帰って行くわけ。」
「つまりは、圧縮された魔力?」
ラヴィが反応する。
「そう。別の世界では『ブラックホール』なんて言われてるみたいだけど。」
「別の世界?」
ハテナなロッシェ。
普通の人間はそうリアクションする。
この世界で暮らすのに手一杯で、別の世界なんて想像出来ない。
たとえ在ったとしても、どうやってそんな情報を……?
「在るのよ。世界はたくさん、ね。ここはその1つに過ぎないわ。その証拠が……。」
メイは黒い球に近付くと、触れる様にぴょんと飛び上がった。
メイの体が球体を掠める。
そして輝き出したと思うと、そこには20才位の女性の姿が。
「ふう。この姿も久し振りね。」
肩まであろう茶髪を靡かせ、ため息を付く女性。
呆気に取られるラヴィ達。
女性の姿になったメイは、一堂に語り掛ける。
「どう?これが証拠。あたいは別世界から来たの。魔境の穴を通ってね。」
『強烈な魔力を一気に浴びないと、元の姿に戻れないのよ』と、クライスにボヤくメイ。
使い魔にとって神聖な場所、そして《流転の場》と呼ぶ訳。
メイはそれを話し始めた。




