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第107話 橋が落とされた後に

「た、大変だー!」


 翌日。

 キョウセンの町は大騒ぎになっていた。

 クライスの予想通り、親父の決断は早かった。

 峡谷に掛かっていた橋を、あっさりと落としたのだ。

 石と木の組み合わせだった橋は、その留め金を外し無理やり解体された。

 かなりの人海戦術で。

 当分は代替として、吊り橋を掛けておくだけらしい。

 つまり、馬車の様な大型の物は通れないと言う事だ。

 これにより、怪しい者を取り締まり易くする。

 行商人や貨物輸送関係の者は、大弱り。

 荷物が多いので吊り橋が渡れない。

 必然的に、遠回りのルートを選択せざるを得ない。

 西進する第2ルートは。

 途中で休憩出来る様な広場はあるが、宿などの建物は一切無い。

 鮮度重視の食料は、当分乾物のみの流通になるだろう。

 逆に、傭兵達は喜んだ。

 何しろ近道が事実上封じられて、物騒な街道の方を通る事になるのだ。

 用心棒の職にありつけると言うもの。

 町でくすぶっているのも飽きた頃。

 移動するには好都合だ。

 仕事をしながら、次の職場を探せば良い。

 それぞれ思惑は異なるが、生活が変わる切っ掛けになりそうだ。




「またのお越しをお待ちしております。」


 泊まる前より、宿主は腰が低かった。

 近道が出来ず遠回りする事になれば、この町で十分に準備しなくてはならない。

 その為の食料や武器等の物流が、この町を起点に激しくなるのは確か。

 旅人に物を売ろうと、いろんな業種が集まるだろう。

 それは一時的に、宿屋にも波及する。

 ここで厚遇して客の心を掴んでおけば、固定客として囲える確率が高くなる。

 しかもこの宿は特級。

 貴族など高貴な身分が利用する事で名高い。

 固定客即ち、儲けが増えると言う事。

 そりゃあ低姿勢になる訳だ。

 わざわざ宿の従業員総出で見送ってくれる。

 正直、商売根性丸出しの行為にラヴィは辟易へきえきしていた。

 しかし、セレナがたしなめる。


「彼等も生きる為に必死なのです。この世界は……。」


「明日どうなるか分からない、でしょ。分かってるわよ。」


 変化の無い平穏は、宮中で見飽きた。

 だからこそ、この旅は最初は新鮮だった。

 しかし如何に自分が、ぬるま湯にかった生活をして来たか。

 嫌と言う程思い知った。

 宿主に悪気は無いのだろうが。

 そんな甘えた自分を嘲笑っている様に、たまに見えるのだ。

 こんな苦労もしないで、ぬくぬくと育ちやがって。

 そう言われている気がした。

 そんな気持ちを察したのか、アンが声を掛ける。


「あなたはあなた、成すべき事を成せば良いのよ。」


 あなたの人生はあなた次第。

 他の奴に文句を言われる筋合いは無い。

 そう言う生き方をすれば良い。

 そんな含みを持たせた激励。

 クライスの背中を見て来た、アンらしかった。

 ラヴィは静かに頷くと、馬車の運転席に乗った。

 皆が配置に付くと、セレナは馬車を発進させた。




 橋落としを事前に予想していたお陰で、ほとんど誰も通らない第2ルートを先駆けて進む事が出来た。

 魔法使いの支配地域〔通称:魔の遊び場〕は、あちこちにあるが。

 ダイツェンにある〔闇の戯れ〕は、特に侵入が厳しく制限されている。

 それは、この地が特別である事の証。

 魔法使いにとっても、使い魔にとっても。

 Pの上では細い道の様に記されているが、その入り口は草木に阻まれ正確な位置は特定し辛い。

 出来れば、一行が入る様子を見られたくなかった。

 入り口を見つけられるだけでも、厄介な事になりかねないからだ。

 なので、馬車を目一杯飛ばすセレナ。

 他の者は鎧など余計な物を一切身に付けず、全部馬車へ乗せ身軽になって走って行く。

 増えた重量分だけ馬の負担が増えるので、錬金術で生み出したトロッコを荷車にくっ付けてそこに乗り込む事も出来ない。

 馬が目的地に着くまでにバテてしまう。

『くっそー!』と叫びながらロッシェが走る。

『これも鍛錬』と、淡々と走るトクシー。

『どうせハアハア息を切らしているだろう』と、ロッシェがクライスとアンを見ると。

 アンは靴にタイヤの様な物をくっ付けて、ローラースケートの様に道の上を滑る。

 クライスは台車から車の部分を切り取り、板に張り付けスケートボードの様にしてそれに乗っている。

 それってズルくないか?

 悔しくも有り、『それだけ体力が自分より劣っているのだ』と誇る部分も有り。

 ややこしい感情のまま、ロッシェは走る。

 しかし、単にアン達は楽しているのでは無い。

 セレナが運転に集中出来るのも。

 道に転がっている石など邪魔な物を、錬金術でいち早く排除しているから。

 何だかんだで楽しているのは。

 馬の首に乗っかったままのメイと。

『ずっと飛んでいるのは辛いから』と、荷車にちゃっかり座っているエミルだけ。

 それでも、メイは《流転の場》に思いを馳せていたが。




 幾ら体力がある騎士達でも、長時間は走れない。

 30分走っては休み、また走る。

 休憩中になるべく体力を回復させる為、アンが特別に調合した液状回復薬を口にする。

 当然、馬にも。

 ラヴィは馬に申し訳無く思い、休憩の合間にはなるべく馬の後ろももを擦っていた。

『少しでも楽になれば』と。

 自分は運転もせず、ただ馬車に乗っているだけ。

 疲れ知らず。

 セレナには、『もし自分の集中力が切れた時は、代わりをお願いします』と言われてはいたが。

 どうも、自分の番は来そうも無い。

 頼もしくも有り、頼られたい感も有り。

 ラヴィも、複雑な感情のまま乗っていた。

『せめて何か出来る事を』と。

 回復薬を配る係を買って出たり、筋肉がりそうなロッシェの足を揉んであげたり。

 それで気を紛らわせていた。

 そんなこんなを繰り返す内。




「あの木の陰で止めて!」


 メイがそう叫ぶと、馬の首からストっと降りた。

 指示された地点で馬車を止めるセレナ。

 ハアハア言いながら、辿り着いたロッシェとクライスが張り合う。


「よっしゃ!俺の勝ち!」


「いや、勝ち負けなんて無いから。」


「そんな事言ってー、クライスー。最後むきになってたじゃないか。」


「それ、気のせいだから。」


「またまたー。」


 余程ゴールが嬉しいロッシェ。

 それに、適当に付き合うクライス。

『はいはいそれまで』と割り込むアン。

 2人に回復薬を渡す。

 グビッと一気に飲み干すロッシェ。


「くーっ!結構効くよなー、これ。売れるんじゃねえの?」


「褒めても何も出ないわよー。」


 はぐらかしつつ、トクシーにも渡すアン。


「ありがとう。助かります。」


 感謝を忘れないトクシーを指し、『見習いなさい』と言わんばかりのアン。

 内心『小姑か!』と思ったが。

 言わない方が良い様な気がしたので、ロッシェは急に無口になった。


「休んでいる所悪いけど、とっとと入るわよ。」


 メイはそう言うと、何やら呪文を唱え始める。

 すると、草木が生い茂る道端の一角が揺らいで見えた。


「さあ!行って!」


『むにゃ?』と眠りかけていたエミルは、急な振動に驚く。

 周りを見ると、景色に変な境目があり。

 丁度そこを馬車が通過する所だった。

 馬車が通るのを確認した後。

 トクシー、ロッシェ、錬金術師2人の順で通過。

 最後に、誰も居ない事を確認したメイが入る。

 スッと景色の歪みは無くなり、元通りになった。




 誰にも気付かれる事無く、侵入成功。

 そこで一行が目にした光景は。

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