第105話 善意は時に邪魔をする
キョウセンの町では、きっと姉さんの情報が得られる。
期待を抱くロッシェ。
しかし、その思いは打ち砕かれる事となる。
阻んだのはそう、《善意》だった。
「おい……!」
入って来た一行を見て、傭兵達はひそひそと。
トクシーは、何の事か分からなかった。
初めに気付いたのは、さっさと入る様促したクライス。
「しまった……!」
珍しく、クライスがミスを犯した。
クライスが珍しい単語を発したので。
他の者は少し考え、そして理解する。
特にロッシェは。
さっきの威勢の良さが吹き飛び、逆にうな垂れていた。
〔トワ=現ハウロム卿〕から礼として賜った、騎士の称号。
それに伴い、使者として旅立つ時に着用を義務付けられた騎士の鎧。
つまり、ロッシェは今や敵国グスターキュ帝国の騎士なのだ。
そんな奴が堂々と通れば。
誰もが避け、近付かなくなる。
当然、傭兵も例外では無い。
情報を集める為に尋ね歩いても、答えてはくれまい。
「済まない、俺が促したばっかりに……。」
クライスが申し訳無さそうに、ロッシェに謝る。
「いや、俺もはしゃいでいたら同罪さ。気にしないでくれ。」
ロッシェはそう言ったが、落胆は明らかだった。
がっくりして歩くロッシェに、馬車からラヴィが飛び降りて尻を蹴っ飛ばす。
「いてっ!な、何を……!」
「あんた、あの娘の善意を否定する気?ふざけないで!」
怒鳴るラヴィ。
速攻で否定するロッシェ。
「そ、そんな事は無い……。」
「あ・る・っ!大体、一度チャンスを逃したからって何よ!まだまだ機会は有るでしょ!」
「え……と……。」
「それに!あんたが直接聞かなくても、情報を集める方法は有るってぇの!」
「え?」
余りに強気なラヴィに、困惑するロッシェ。
そのロッシェの耳元で囁くラヴィ。
何と強気な発想。
流石にロッシェは『無理だ』と、一瞬思った。
『アリュースさんの身の安全と引き換えに、情報収集を頼めば良いじゃない!皇帝に!』
「そ、それは無理……。」
「だ・か・ら!何でそこでリミットを決めちゃうの!自分で勝手に諦めないで!」
「利用出来るものは何でも利用する。そうしないと実現出来ない事もある。もっと望みに対して貪欲になれ、そう言いたいのよ。」
セレナが口を添える。
ラヴィは世界統一を掲げている。
皆の平和の為に。
一見不可能に思える願望に向かって進んでいるのだ。
仲間にもそれ位の気概を持って欲しい。
当然の思いだった。
そこでロッシェは思い知らされる。
自分の覚悟の甘さを。
姫さんは必死にもがいている。
前を向いて進んでいる。
そこにマイナスの感情が無い筈は無い。
それでも奮い立っている。
心の内は、すこぶる燃えている。
表情は穏やかであっても。
それに対して、自分は……。
今まで姉を探して旅をして来た、その自負から甘えが生じたのかも知れない。
今まで経験した事を、無駄にしたく無い。
勿論、トワを助けた事も。
だから。
「悪いラヴィ、俺の頬を引っ叩いてくれ。」
「な、何よ急に……。」
「俺には、まだまだ覚悟が足りなかった。今一度、目を覚まさせてくれ。頼む。」
「そ、そう?じゃあ遠慮無く行くよ!そおれー!」
バシンッ!
!
「くうーーっ、流石に効くぜー。」
「もう良いわね!じゃあ行くわよ!」
とっとと馬車に乗って、『宿に向かってしゅっぱーつ!』と叫ぶラヴィ。
一部始終をひやひやしながら見ていたトクシー。
黙って馬車を動かすセレナ。
周りの取り巻きは、一連のやり取りを見てヤジを飛ばす。
「ヘイヘイ、そこの奴等!いちゃついてんじゃねえぞ!」
「そう言う事は家でやんな!」
「ガハハハハ!」
「何て下品な奴ら。兄様、少し懲らしめて良いかしら?」
ムカついているアンに、クライスは言う。
「いや、俺が《もうやった》。」
「?」
すると、群衆から悲鳴が。
「わ、うわあーーーっ!俺の剣がー!」
「あの盾、高かったのに……!」
「ほ、報酬が……!誰だ、盗んだのは!」
そう言って揉め出す群衆。
全部、クライスが金の粒に変えた。
今頃、変わり果てたそれ等が何処かへ飛んで行っているだろう。
騒がしくなった群衆の横を、涼しい顔で通り過ぎる一行。
ロッシェの所まで下がって、歩きながらボソッと言うクライス。
「俺のせいだからさ、これで勘弁してくれ。これからも、お前の事を馬鹿にする奴は許さないから。」
「やり過ぎだと思うけど。ま、その善意を受け取っておくよ。有り難く。」
明るく応じるロッシェ。
俺の為に怒ってくれるなんて。
本当にサンキューな。
口に出すのは恥ずかしいので、心の中で感謝するロッシェ。
人の絆はこんなに温かい物なんだな。
改めて実感するのだった。
漸く今晩の宿へ着いた。
町の中心、簡単には攻め込まれない地域。
ここは特別、騎士以上の者しか泊まれない。
警備は厳重、故に御用達の貴族も多い。
ここなら敵も手を出せまい。
そう考えてトクシーが手配したのだ。
それだと良いんだけど。
一応警戒するラヴィ。
その予感は当たるのだろうか、それとも思い過ごしだろうか……。




