第104話 ダイツェンとロッシェ、それぞれの事情
盗賊の住まう森を抜け。
半日進んだ所。
一行は大きな木のゲートを見上げている。
そこにはこう書いてあった。
《安全安心の町、【キョウセン】へようこそ!》
「ねえ、これってどう言う意味?」
ラヴィがトクシーに尋ねる。
恥ずかしそうにトクシーは答える。
「これは文字通り『この街まで来ればもう大丈夫』と言う、売り文句なのですよ。」
「町の宣伝って事?」
「はい。抜けて来た森には盗賊が居るでしょう?」
「ええ。」
「盗賊も獲物は選ぶのです。貧乏な奴を襲っても収穫はありませんから。」
「妥当よね。」
「ですから、裕福そうな行商人を狙う訳です。まあ滅多に居ませんが。」
「ふむ。」
「それも実は建前。結論から申し上げると、《全員グル》なのです。」
「え!」
ラヴィが驚く。
「それじゃ、盗賊は本当は盗賊じゃないの?」
「いえ、それを生業としているのは本当です。しかし森を通る旅人を襲うのでは無く、森を利用して移動しながら他の地域を荒らしているのです。」
「グルってのはどの位の規模なの?」
ドンドン食い付くラヴィ。
少したじろぎながら、トクシーは続ける。
「町の住民、盗賊達。それに支配者の、アストレル家。これは裏情報ですが。」
「何と無く見えて来るわね……。」
「お察しの通り。盗賊達が襲う体を見せ、逆に森からすぐに辿り着く町を安全だと売り込む。と同時にボディーガードの様な仕事を求める傭兵等を町へ吸い寄せて、守りを固める。」
「そうする事によって、盗賊と傭兵の二重の防御を敷いている訳ね。」
「ご明察。そうすれば、わざわざ支配地域を守る為の軍を割く必要も無くなり。例えこの辺りで荒事が起こっても、『こちらに非は無い』と躱せるのです。」
「そのアストレル家って、相当斬れ者ね。」
「はい。ですから今まで、どちらの勢力に付いているか中央では量りかねていたのですが……。」
「ここで遂にボロを出した、と。」
クライスがポツリと言う。
「はい。陛下の揺さ振りが効いたと言う事ですな。」
「王族反対派の中で優位な地位を保ちたい、と言う気持ちからの焦りね。」
トクシーの言葉を受け、ラヴィは推測する。
暗殺対象へこれ程露骨にバレているのなら、仕掛ける他無いと考えたのだろう。
逆に王族擁護派は、慎重に期を待っている筈。
敵勢力を一掃出来る期を。
お互い、どれ位の勢力か掴みかねている様だ。
行動にそれが現れている。
だからこそ、ダイツェンは早め早めとなった。
取り潰し覚悟の背水の陣を敷いて、積極的に動いている。
最早、猶予は無い。
自分から動かねば味方に食われる、そう言う立場なのだろう。
切羽詰まって、何かとんでもない事をしなければ良いんだけど。
ラヴィは、それが気懸かりだった。
そんな気をよそに。
「そんなの良いからさあ、早く町に入ろうぜ。」
そわそわするロッシェ。
町の外から、強そうな装備を持つ者がゴロゴロいる事を確認し。
それ等と話をしたそうだった。
何処でそんな装備を手に入れたのか?
今までどんな奴らと戦って来たのか?
武勇伝を収集したいのだろうか。
そんなのを聞いても、当分は自由に旅が出来なそうなのだが。
セレナは単純にそう思った。
だから敢えて言った。
「何がしたいのかは分かるけど、それはパーティーを離脱したいって事?」
『好きにすれば?』みたいな感じで言われたので、慌てて否定するロッシェ。
「違う!そんなんじゃ無いって!姉さんに関する情報が得られないかなって……。」
『本当はそこまで話したくは無いんだけど』と前置きして、ロッシェは話し出した。
姉さんを探しているってのは、言ったよな?
姉さんは売られたんだ。
問題はその相手。
傭兵をぞろぞろ連れた、奴隷売人の様な奴だったんだ。
どうもそいつは、戦場で人材斡旋をしているらしくてさ。
姉さんは子供だったから、変な事には使われていないと思うんだけど。
とにかく、傭兵と接触している可能性が高いんだ。
傭兵を軍に派遣して、子供は雑用などの労働力として提供する。
そんなやり口らしいんだよ。
旅に出てから、めぼしい所を周ってそいつの情報を集めてたんだ。
揉め事が起こっている場所を周れば、辿れるんじゃないかって。
その内に国境を越えちゃって、結局ライまで来たんだけどさ。
そこで知ったんだ。
グスターキュの中は平和だって。
人材を売れる場所がグスターキュには無い。
それに、国境を越えてまで売ろうとはしないだろう。
何しろ慎重な奴だからな。
そう言う訳で、姉さんはまだヘルメシアの中に居る可能性が高い。
だったら。
この旅で傭兵に会う度、話を聞いていったら。
何時かは辿り着くんじゃないか?
そう考えたんだ。
俺がこの旅に加わったのは、そう言う事だ。
だから、決して変な意味じゃ……。
そこまで話した時、ギュッとセレナに抱きしめられた。
「ちょ!し、師匠?」
びっくりするロッシェ。
涙を流しながら、謝るセレナ。
「ごめんなさい……そんな深い訳が有るなんて……。」
「い、いやあ……だから話したく無かったんだけど……。」
照れくさそうに笑うロッシェ。
アンがセレナの肩に手を置く。
「その辺にしといたら?困惑してるわよ?」
「あっ!」
急にバッと離れる。
そして顔を真っ赤にするセレナ。
うんうん頷きながら、ラヴィは言った。
「騎士になろうと必死になって旅してるんだから、何らかの理由は有ると思ってたわよ。深い理由がね。」
「そうなんだ。騎士に成れれば、傭兵を接する機会が増える。後は……。」
「姉さんを守りたい、でしょ?」
「そ、そう。流石だな姫さ、いやラヴィは理解が早くて助かるよー。」
汗もかいていないのに、額を拭うロッシェ。
トクシーが言う。
「そう言う事なら、私は遠慮無く協力するぞ。それが騎士だからな。」
「ありがとう、先生!」
そこでクライスが締めに入る。
「そうと決まれば、とっとと入ろう。立ち話も何だしな。」
「珍しく仕切るのね、兄様。」
「別に良いだろ。らちが明かないから促しただけさ。」
ふふっ。
本当はロッシェに気を遣っての事。
私には分かるんだから。
照れちゃって。
さっさと町に入って行くクライスに微笑みながら、続いて入って行くアンだった。




