第10話 ……接触?
「確かに、これは……!」
セレナは絶句。
都市ルビアに入り、中心へ向け進むにつれて。
明らかに様子が変わっていった。
それ程無かったざわめきが、段々大きくなり。
中央の広場に出ると、向こうから怒号が響いてきた。
「こっちも命がけなんだ!」
「お願いだ、助けてくれ!」
「そちらの面倒事をこちらに持ち込むな!」
「とっとと元の領地に帰れ!」
「次はお前達かもしれないんだぞ!良いのか!」
「うるさい!お前等が居なくなれば大丈夫なんだよ!」
「この分からず屋!」
「そっちこそ!」
駄目だ、双方共に聞く耳を持っていない。
感情論でぶつかり合っている。
これでは何も解決しない。
早く領主の元に急がないと。
焦るラヴィだったが、どうやって領主に会うのかクライスは教えてくれない。
群衆を横目に、通り過ぎるしか無かった。
やがて、或る店の前でクライスが立ち止まる。
「もし、ご主人。それとそれ、あとそれも売ってくれないか。」
「お客人、そこでの騒動を見ただろう?今から店仕舞いをしようとしていた所だ。とっとと帰って……。」
そう言いかけた服屋の主人の前に。
クライスはドスンッと、リュック並みの大きさの金塊を置く。
「これでどうかな?換金すれば相当な額になるが。不満なら他の店を……。」
「いややや!とんでもない!今すぐご用意しますんで!お、お待ちを!」
流石に商人は、金に目が無い。
主人が慌ただしく動いている間、ラヴィはクライスに耳打ちする。
『どうするつもり?』
『行商人に変装するのさ。』
『それで面会出来るとでも?』
『ただのじゃ無い。【迷いの森御用達】だよ。』
そう言ってクライスがラヴィに見せたのは、森を離れる時にエフィリアから預かった【取引の証】だった。
シルフェニアには、そこにしか無い物がたくさん有る。
しかもどれも貴重品。
妖精に接触出来る人間は限られているし、そもそも森の入り口で待たされた挙句ぽいっと投げられた物を拾う程度。
それ程、世俗の人間は信用が無い。
クライスとアンが特別なのだ。
その特別の証。
これを見せれば。
貴重な品が独占的に手に入ると領主は考え、こちらのテーブルに乗って来る。
強欲な相手の心理を見透かしての事だった。
『意外とゲスいのね。』
『せめて悪知恵位にしてくれ。』
呆れるラヴィだが、道理は通っている。
間違い無く、相手は一行を招き入れる筈。
『ところで、あの金塊は?』
『ああ。さっきの群衆の中で飛び交っていた小石を、金にして集めといた。お互いぶつかったら危ないからね。』
『何と抜け目無い……。』
群衆の安全を保持しつつ、目的の為に錬金術を使う。
『らしいわね』と思うラヴィ。
「お待たせしやした!これはサービスです!今後とも御贔屓に!」
服と一緒に、ネックレスや腕輪を押し付けられた。
主人も必死なのだろう。
一礼して、一行は着替える為町の路地に入った。
「まだこっち見ちゃ駄目だからね!」
「心配しなくても見ないって、アンは心配性だなあ。あ、エミル!」
「うちは良いじゃんか、妖精だし。」
「だーめっ!」
「ぎゃんっ!」
エミルが地面に叩きつけられそうになる所を、クライスが金の網でやんわり包む。
「ありがとう、クライス。もう、乱暴だなあ。」
「これを機に、エミルも女心と言う奴を学んだ方が良いよ。」
「そんなものかなあ。」
1人と1妖精が話している間に、着替えが終わった様だ。
すると。
「「「きゃーっ!」」」
3人が急に悲鳴を上げる。
『何もしてないぞ?』と思いつつ、目線を追うと。
小さい女の子が、ごみ箱の陰からこちらをジーッと見ていた。
すかさず近付いて、警戒心を解こうとするアン。
「ど、どうしたの?駄目じゃない、こんな危ない所に……。」
「お姉ちゃん達だって着替えてたじゃん。」
見られてたーーーーーーっ!
恥ずかしさと危機感で、頭が一杯になる3人。
「あとお兄ちゃん、何1人で喋ってるの?」
クライスはこう言う事には慣れっこだったので、別に動揺はしない。
しかし、秘密がバレると不味い。
クライスは女の子に頼み込む。
「お願い!ここで見た事は黙っていてくれないか?」
「どうして?」
「どうしても!」
「ふーん。じゃあねえ、連れてって!そしたら黙っててあげる。」
「……何処へ?」
「お父さんがね、何かすんごく怒ってるの。怖いからお家から出て来たんだけど、帰れなくなっちゃって。」
「ああ、お家までの案内だね。良いよ、場所は分かるかな?」
『うんとね……うんとね……』と、女の子は繰り返して。
『うん!』と頷いてから言った。
「ここのりょうしゅ?って呼ばれてるんだ、お父さん。これで分かる?」
何と!
渡りに船。
娘を保護して連れて来れば、領主の警戒心は益々下がる。
何より、小さな子の頼みだ。
聞かない訳が無い。
「分かる、分かるよ。丁度、君のお父さんに会いに行く所だったんだ。」
「良かったね、お嬢さん。」
ラヴィもそう声を掛けると、逆に突き放される様に言われた。
「『お嬢さん』は止めて!あたしには【ダイアナ】って名前があるんだから。そっちで呼んで!」
「ごめんよ、ダイアナ。俺達は物を売り歩いている旅人なんだ。」
そう言って自己紹介する一行。
エミルは見えていない様なので省略。
私も『名前で呼んで』って思ってた頃があったなあ。
しみじみ感じるラヴィ。
早速、領主の屋敷と思しき場所へと向かう。
しかし、そこでは意外な事が待っていた。




