表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第9話

 全身に染み込む様な肌寒さ。陽の届かない薄暗い地下。そこはストーダ大廃棄場の地下第一階層。全てのゴミを吸収し、全ての生き物を変える魔窟。


 あるモンスターは新しく付け替えた身体で、出会い頭に遭遇したモンスターを片っ端から撃破していた。何より彼には変わった部分がある。武器を使っているのだ。先端にある鎌の部分は黒くなり、歪みのない鉄の棒に持ちやすい柄が付いている。


 その名も火かき棒。あるゲームにおいては最強と称えられる伝説の道具(アイテム)である。


 なぜ火かき棒が有るのか? ストーダ大廃棄場は全てを吸収するのだ。時代の流れと共に廃れた道具も流れ着く。火かき棒もその一つだった。


 何よりスクラップモンスターの恩恵か、何と武器も肉体の一部として換算されたのだ。つまり、どんなに錆びて壊れている物であってもスクラップモンスターの一部、又は装備された瞬間に耐久力を上書きされるのだ。


 しかも今は人の手の形に近い防具を肉体として【換装】している為、手に持って使う道具の取り回しが、鉄板の屑をつなぎ合わせた様な手では出来ない滑らかな物になった故に武器を持っているのだ。


 そのお陰で修行の初日から新たなスキル、技能スキルの【剣術】と【武器術】、称号スキルの【3Rリデュース・リユース・リサイクル】、【殺戮者(スロウター)】と【剣士見習い】を獲得していた。


 修行3日目にはレベルも最大値の20まで上がり、火かき棒も本来の使用用途に沿わない使い方で流石に壊れた。その時点で出会ったモンスターの中でミノタウルスの次点に手強かったスクラップソードマン。(ソード)とは名ばかりの金属製の長さ1m のパイプを持った左右対称の鉄屑人形と言えば分かりやすいだろうか? 見掛けによらず両手持ちでパイプを手足の様に振るい、まるでその剣戟は鞭による多角的な猛攻に似ていた。


 スキルで監視していたユダが冷や汗を掻く程に危ない勝負だが、スクラップは相手に真っ向から挑み、最後はお互いに駆け抜け、すれ違い様に放たれた一撃によって、火かき棒が半ばから叩き折られ、その隙を見逃さずに体制を反転させ、全力の力を込めたパイプを振りかぶったソードマンのガラ空きの胴体に渾身の右正拳突きで胴体を破壊し、折れて宙を舞っていた火かき棒の先端部分を左手で逆手に持ち、魂結晶(カルマ)を掴んだ掌ごと突き刺した事で男達の熱戦は終わりを告げた。


 修行を忘れて、それを見入っていた観客の2人は共に喜び合い、完全に仲の良い友人の様な関係になっていた。


 そして、7日目。スクラップモンスターとなり不眠不休でも問題無く動ける男は、何と1人でスクラップミノタウルスに挑んでいた。


 それには理由があった。


 ────────《ステータス》───────


 種族:スクラップゴースト《個体名:洲倉 風》


 Level:20/20


 経験値:200/200


 体力:280/280【最高】


 スタミナ:280/280【最高】


 魔力:450/450【最高】


 攻撃力:350/350【最高】


 防御力:286/286【最高】


 スピード:275/275【最高】


 生命力:01[×5=2|<9々/〆|2々48=5【究極】


 《妖精化:魔力に補正【+50】。不老。【相互生命(リンクライフ):何方も生きている限り死なない。お互いが生きている間は傷付いても即時治癒される】》


【契約主:スクラップフェアリー】


 ────────《スキル一覧》───────


 来訪者:他の世界よりやって来た来訪者自身や魂に与えられるスキル。一部スキルが優遇される。スキル経験値なし。


 未練:死者限定のスキル。この世にやり残した未練が残っている者に与えられるスキル。未練が満たされた時、君は進化する。50/100


 ステータス閲覧:来訪者専用のスキル。自分のステータスのみ閲覧できる。スキル経験値なし。


 妖精の加護:Levelの上限が種族値の最高Levelの4倍になる。獲得する経験値が倍になる。妖精は誠実な者のみに加護を与える。全てのステータスに補正【+50】。


 妖精の愛:体力とスタミナ、魔力が回復し続ける。妖精王国(フェアリーテイル)への(ロード)を開ける。妖精は真の愛を知る者だけに愛を示す。全てのステータスに補正【+100】。


 妖精の心:契約した妖精と添い遂げる。状態に《妖精化》が常時発動。魔力に補正【+200】。純真無垢な妖精の心は愛する者のみに送られる。


 剣術:剣を扱う術。88/100


 武器術:単純な武器全般の扱いに長ける。95/100


 3Rリデュース・リユース・リサイクル:捨てられた物、捨てられる筈の物を大切にした者に与えられるスキル。物持ちが良くなる。まだ使える。それもまだ。え? 腐ってる?


 殺戮者(スロウター):多くのモンスターを殺した者に与えられるスキル。罪深い者が罪人なのか? 攻撃力に補正【+50】


 剣士見習い:剣を扱い始めた者に与えられるスキル。剣術を覚える。剣術系のスキルの成長度によって変化する。まだまだ甘い!


 強敵殺し(ジャイアントキリング):自分より格上の敵を倒した者に与えられるスキル。どんな方法であれ、勝利は勝利だ。攻撃力に補正【+10】。体力に補正【+10】。


【常時発動】【自分よりLevelの高いモンスターに与えるダメージ量がX倍になる。


 X=(《スキル取得時に倒した敵のLevel》−《スキル取得時に相手を倒した時の自分のLevel》)】

 ──────────────────────


 彼の未練が半分も溜まっている。理由はある。彼自身の人生について語ろう。彼が平凡な家庭に生まれたとは言い難い。父親は九州生まれの九州育ち。昔ながらの生真面目な血気盛んな男だった。故に母親との馴れ初めもかなり情熱的だったが、今は割愛しておく。兎に角、そんな男が東京下町育ちのお嬢様と結婚し、生まれた子供は3人。長男、風。長女、(いと)次男、兎堂(うどう)。彼らの子供時代は暗澹たる物だった。父親は仕事の疲れを家族にぶつけた。昭和生まれの彼は自分の父親がした躾を子供達にした。今のご時世で言うならドメスティック・バイオレンス、DVである。子供の尻を全力で叩き、泣かせ、それで謝らないと余計に叩いた。愚か者である。泣いて声が乱れるのに、聞こえなければ更に叩くとは……。


 上の2人は3人目の兎堂が生まれるまで、その恐怖に支配され続けた。特に酷いのは長男の風に対する当たり方だ。彼が何か言えば、口答えと思い、睨んで怒鳴りつけるのは当たり前。ひどい時には蹴りを見舞った。


 そんな時に、母が父に突き飛ばされ廊下の柱に頭を打ち付け救急車を呼ぶ事件が起きた。


 その時、風は寝ていたが何かがぶつかる物音と父の母を呼ぶ声で目を覚まし、部屋のドアを開け廊下を見ると、母が倒れていた。


 母は父を警察に突き出さなかった。幼い風は母に尋ねた。


「どうしておまわりさんに言わないの?」


 母は風に対し、頭を撫でながら言った。


「生活の為よ」


 風は幼くして、ヒーローも正義も、嘘っぱちだと思った。


 その影響か、彼は残酷な夢を見る様になった。自分が殺される夢。化け物になる夢。永遠に続く物語の様な夢ばかり見るうちに、彼は心を偽った。本心を誰にも語らない。周りに合わせる主体性のない人間になった。


 その後、弟が生まれるまでの数年間、父は大人しかった。風は心の中で残酷にも、考えていた。


 父の殺害を。


 しかし、実行はしなかった。出来なかった方が正しいが、寝ている父の傍で包丁を持ち立っていても、殺意と同等の子供としての情が歯止めを掛けていた。その不思議な心境に戸惑った。殺意という理性と愛情という本能が二律背反しながら決して消えない。言うなれば水と油が溶け合ってしまったのだ。彼の心は無くなった。


 弟が生まれてからは齢の所為か、父親の気性はなりを潜めた。


 それに風は内心、憤慨した。自分は今でも苦しんでいる。それなのに何故、自分だけ怯えて、他の奴らは笑っているんだ!? 怒りが残っている。彼は感情までは無くしてはいなかった。


 風はその日から常に誰かに勝ちたい欲、勝っていたいという願望が出て来ていた。


 だが、現実は彼を叩きのめし、嘲笑った。彼がどんな努力をしても、どんなに鍛えても、上には上がいた。同級生からいじめを受けていたのも要因の1つだろう。


 彼の勝利への欲望は歪んだ。


 強者に勝ちたい。理不尽に叩きのめしたい。自分より力も知識も地位も金も名誉も、何もかも強い奴を!


 それが人間、『洲倉 風』の本当の未練だった。


 だからこそ、スクラップソードマンとの戦いで半分も貯まったのだろう。


 そして残りの半分に相応しい相手を本能的に選んでいた。


「やっぱり、お前に勝たなきゃ、意味が無いよな」


「ブフゥ……」


 ユダもピピ子も居ない中での戦闘は、この1週間で慣れている筈なのに緊張している。


 そこで彼は大胆不敵にも、自分に警戒心を募らせている目の前の怪牛に宣言する。


「1発だ。1発で終わらせる」


 目の前の虫が指一本だけ立てながら言った言葉に野獣はぶち切れた。


「ブモオオオオオオオオオ!!!!」


 怒りを燃料にしたロケットの様な突進をスクラップは冷静に弱点の胸の傷痕を見出し、的確にパイプを投擲した。


 圧倒的な攻撃力とスクラップの一部と認識されたまま、一直線に目標へ進んでいくパイプの槍は、弱点を覆っていたスクラップの装甲をマーガリンに熱したナイフを突き入れるよりも容易く貫き、弱点の中にあったスクラップミノタウルスの魂結晶を粉々に破壊した。


 呻き声も、断末魔も上げることなく番人は文字どおり、4つに分かれて散った。


「……ザマァ見ろ!! はははははははははははははははははははははははは!!!!」


 彼が善人の部類では無いと言ったことを覚えているだろうか? こういう事だ。相手の命を奪い、相手を嘲笑する。彼の本質は決まっている。幼稚な復讐者。しかも、力を持ち合わせている厄介な部類の物だった。


 彼は直様ステータスを開き、【未練】が満たされ、【転生進化(エヴォリューション)】が出ていた。迷わず、彼は宣言した。


転生進化(エヴォリューション)


 彼は思った。これでもっと多く、もっと強い奴を叩きのめせる。


 君は転生進化(エヴォリューション)してしまうんだね。世界を嘲笑う為に。


 宣言した彼のスクラップで出来た身体が塵になり、宙空に魂結晶(カルマ)だけがどす黒く光輝きながら浮かんでいる。その輝きは暗闇の荒野で焚かれる焚き火。その光はまるで悪魔が恐れる地獄の炎。


 魂結晶(カルマ)は次第に巨大化し、人間の大きさにまでなった。その中で漆黒の異形の骸骨が形作られ、次に臓物、目玉、全身の筋肉と血管の順に生まれる。そして最後に皮膚が被せられるが、その色は肌色ではなく、黒に近い不気味な鼠色であった。


 魂の檻は壊され、彼は世界に解放された。


 そして表示されたままだったステータス欄に、新たに表示された種族名を彼は見た。


「ゼビィスト?」


 ────────《ステータス》───────


 種族:ゼビィスト《個体名:洲倉 風》


 Level:1/∞


 経験値:0/10


 体力:2205/2205【高】


 スタミナ:2295/2295【高】


 魔力:4050/4050【高】


 攻撃力:3150 /3150【高】


 防御力:2304/2304【高】


 スピード:2295/2295【高】


 生命力:01[×5=2|<9々/〆|2々48=5【究極】


 《転生進化(エヴォリューション)転生進化(エヴォリューション)後の進化先が消える。未練の内容によって転生進化(エヴォリューション)先が変化。称号スキルの中に倍率系の効果があれば、初期ステータスにその数値分倍率を適用する》


 《妖精化:魔力に補正【+50】。不老。【相互生命(リンクライフ):何方も生きている限り死なない。お互いが生きている間は傷付いても即時治癒される】》


【契約主:スクラップフェアリー】


 ────────《スキル一覧》───────


 来訪者:他の世界よりやって来た来訪者自身や魂に与えられるスキル。一部スキルが優遇される。スキル経験値なし。


 ステータス閲覧:来訪者専用のスキル。自分のステータスのみ閲覧できる。スキル経験値なし。


 妖精の加護:Levelの上限が種族値の最高Levelの4倍になる。獲得する経験値が倍になる。妖精は誠実な者のみに加護を与える。全てのステータスに補正【+50】。


 妖精の愛:体力とスタミナ、魔力が回復し続ける。妖精王国(フェアリーテイル)への(ロード)を開ける。妖精は真の愛を知る者だけに愛を示す。全てのステータスに補正【+100】。


 妖精の心:契約した妖精と添い遂げる。状態に《妖精化》が常時発動。魔力に補正【+200】。純真無垢な妖精の心は愛する者のみに送られる。

 ──────────────────────


 修行終了のその日、この世界に最強の悪魔が1人、産まれた。


 それは同時にスクラップがガンビットと邂逅する日まで1ヶ月を切っていた事を意味していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ