表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第10話

 

 ゼビィスト(THEBEAST)


 その名前は黙示録の中に出てくる災厄の象徴。人の形をしている獣。始まりの時に到来して以来、一騎当千の猛者、時には同族の血肉すら喰らう悪魔。背中から青い炎の翼でワイバーンより速く、ドラゴンより高く飛ぶ。


 その姿は地獄の泥を塗りたくった様な色の皮膚を持った身体、深紅の虹彩を宿す両眼、蛍火の様に明滅を繰り返す漆黒の髪を持った男。時に女を惑わせ子を産ませる。


 その身の内に宿した力は、あまりにも強大である。


「と言うのが、ゼビィストの概要です!」


「完璧悪役じゃねぇか!?」


 ユダの説明に完全に自分が人類の天敵ポジション。最悪の事態を考えれば、ラスボス後の裏ボス、世界の裏側で暗躍していた真の黒幕的な立ち位置だ。そんな危険な立場、大手を振って喜ぶ人間は居ない。人間じゃないけど。


「なんだよ女を惑わせって!? 催眠とか洗脳って事か!? 俺、そんな酷い事しねぇよ!? そんなの二次元だけの話にしてくれ!? あとなんで小さくなってんだ!?」


 彼の文句は最もだろう。だが何より気にしていたの身体の変化。坊主頭。眉毛すら無い。産毛はあれど全身の成人男性にあるべき毛髪の全てが消失していた。その身長は人間の新生児と同等。愛らしい大きな瞳はルビーの原石の様な輝きを放ち、


赤ちゃん(レベル1)だからじゃないですか?」


 転生進化(エヴォリューション)。その弊害は進化した個体の成長がやり直し(リセット)、進化した種族の幼体になる事だった。


 しかも【妖精化】の影響で不老の為、現状、彼は永遠に赤ん坊である。


 髪の毛生えてくるといいね。


「なんじゃそりゃあああああああ!!??」


 脳内で逆光源氏計画を絶賛組み立て中のユダに抱えられたまま、全ての説明を一言で済ませられた元男、現赤子は、自身と契約している妖精に悪魔的な破壊力の天使の頬っぺたを突っつかれながら、非情な現実に打ちのめされていた。




「それじゃあ、スキルのお知らせで〜す!」


 ステータスの補正で必要は無いのだが、強制的に彼の世話をしているユダは蕩けた危ない笑顔でオムツを履かせようとしていたのを、スクラップ本人と母性本能が目覚めたピピ子の抵抗で三日三晩に渡り今世紀最大の戦い、「霜の御世話大戦」を繰り広げ、最終的にプライドを捨て、赤ん坊の泣きの一声で終戦する先程までの狩人の様な雰囲気とは打って変わり、何時もの意図が読めない口調で勧告した。


「スキルのお知らせ? そんなの今までやってたか?」


 ユダが見つけてきた箱型の乳母車に乗せられながら、屈辱を感じつつも疑問を口にする。


「もう! 私、その為に態々、来たんですよ!」


「嘘つけ。変態(ショタコン)」「ピィピィ」


 2人は完全にエターナルベビーと化した彼を愛でる為にピピ子の修行を切り上げてミノタウルスが支配していた部屋まで急行したのはバレていた。


 何せ部屋に到着した瞬間に、その豊満な自分の胸に彼を抱き締め、授乳をしようとしていた程に、キワモノ過ぎた。


 勿論、そんな事はピピ子が阻止し、スクラップも本気で嫌がった為、実現しなかったが。


「ぶぅ! じゃあ2人とも勝手に自分のステータス見ればいいんです!」


 その言葉に反応せず、静かにステータスを表示し、スクラップとピピ子はお互いのステータスを見比べた。


 そこに表示されたスクラップのステータスには、何故か新たなスキルが存在していた。


 ────────《ステータス》───────


 種族:ゼビィスト《個体名:洲倉 風》


 Level:1/∞


 経験値:0/10


 体力:2205/2205


 スタミナ:2295/2295


 魔力:4050/4050


 攻撃力:3150 /3150


 防御力:2304/2304


 スピード:2295/2295


 生命力:01[×5=2|<9々/〆|2々48=5【究極】


 《転生進化(エヴォリューション)転生進化(エヴォリューション)後の進化先が消える。未練の内容によって転生進化(エヴォリューション)先が変化。称号スキルの中に倍率系の効果があれば、初期ステータスにその数値分倍率を適用する》


 《妖精化:魔力に補正【+50】。不老。【相互生命(リンクライフ):何方も生きている限り死なない。お互いが生きている間は傷付いても即時治癒される】》


【契約主:スクラップフェアリー】


 ────────《スキル一覧》───────


 来訪者:他の世界よりやって来た来訪者自身や魂に与えられるスキル。一部スキルが優遇される。スキル経験値なし。


 ステータス閲覧:来訪者専用のスキル。自分のステータスのみ閲覧できる。スキル経験値なし。


 妖精の加護:Levelの上限が種族値の最高Levelの4倍になる。獲得する経験値が倍になる。妖精は誠実な者のみに加護を与える。全てのステータスに補正【+50】。


 妖精の愛:体力とスタミナ、魔力が回復し続ける。妖精王国(フェアリーテイル)への(ロード)を開ける。妖精は真の愛を知る者だけに愛を示す。全てのステータスに補正【+100】。


 妖精の心:契約した妖精と添い遂げる。状態に《妖精化》が常時発動。魔力に補正【+200】。純真無垢な妖精の心は愛する者のみに送られる。


 屑山の主:ステータスが自分より下のスクラップモンスターを支配できる。《支配数:0》


 黙示録の獣(THEBEAST):身の内に力や物体を吸収できる。吸収した量に応じて肉体を変化、増減させられる。身体から一部分を顕現させる事も可能。《ストック数:0/100》。


 手加減:手加減を覚えた者に与えられるスキル。敵に致命傷を与える攻撃でも命までは奪わない様にできる。生命力に補正。【+25】

 ──────────────────────


 ────────《ステータス》───────


 種族:【スクラップ】フェアリー《個体名:ピピ子》


 Level:15/15


 経験値:600/600


 体力:140/140 【高】


 スタミナ:245/245【高】


 魔力:1250/1250【並】


 攻撃力:132/132【高】


 防御力:632/632【高】


 スピード:3650/3650【究極】


 生命力:160/160【高】


 《スクラップ化:魔力にマイナス補正【-500】。魔力以外のステータスに補正【+100】。【凶暴化:元種族の補正により無効。性格に若干の変化あり】》


 【契約者:洲倉 風 《親愛度:100/100》】


 ────────《スキル一覧》───────


 逃げ切った者(ランナー):自分より格上の相手から逃げ切った者に与えられる。逃げた先に勝利を見出せ。スタミナとスピードに補正【+40】。


 固定砲台(キャノン):遠距離攻撃で敵を近付かせず、撃破した者に与えられる。弾幕も砲弾も威力によっては変わらないだろ? 魔力に補正【+50】。


 時間停止:超神速の中で超神経を用い動き回った者に与えられるスキル。時を止められる《3秒間》。神の速度を体験した君へ、世界は君の物だ。スピードに補正【+3000】。


 不撓不屈:決して前に進む事を諦めなかった者に与えられるスキル。君は試練に打ち勝った。防御力に補正【+500】


 光魔法:妖精王国(フェアリーテイル)の妖精にのみ許された魔法。破邪の力。スキル経験値なし。


 妖精の祝福(フェアリーギフト):三回だけ使えるスキル。特定の人物に特殊スキル:【妖精の加護】【妖精の愛】【妖精の心】を与える事が出来る。契約者の全てのステータスに補正【+50】。


 ──────────────────────


 ピピ子のステータスを見てスクラップは戦慄した。ピピ子がどんな修行の皮を被った拷問に耐えたのか。考えただけで目の前の天使が悪魔に見えてくる。


 ユダが課したピピ子の修行は、なんとユダ自身に紐で繋がれ、天使の最高速度で飛び回り続けるというもの。飛び回るとは名ばかりで、実際にはユダの足に繋がった紐に吊るされた状態で飛びながら強制的に神速の世界を認識するまで延々と慣性の法則や遠心力で放り出され、壁にトマトをぶつけた様な事態になるのを死に物狂いで回避しながらスピードの上昇とモンスター討伐を同時にやらされていたのだ。分かりやすく言うなら、最高時速で走り続けるジェットコースターの最後尾に乗りながらスナイパーライフルで地上にいる特定の人物を一撃必殺で狙い撃つ。そんな馬鹿げた芸当をユダはやらせ続けた。


【不撓不屈】のスキルはまさに彼女の努力の結晶。惚れている男の為に手に入れた力だった。あと手に入れてなければ壁に激突しても死んでいた、という事情があるが、彼女は愛しの彼には教えないだろうね。


 スクラップは何から聞けばいいものか、と真剣に乳母車の中で仰向けに寝ながら考えてしまう。当然だろう。感情に任せればユダを叱咤するかもしれない。理性的になればピピ子の努力を無意識に貶してしまうかもしれない。


 男性は結果に至るまでの過程を話す際、その時に抱いた感情を話す事は少ない。女性はその時感じた感情や思い出を飛び飛びで常に話題が変化しながら話す方が多い。


 その事を知っていたスクラップは、「異世界とはいえ、女子だしなぁ。通用しないとも限らないしなぁ」と、多少ずれた理性的な考え方をしていた。


「あぁ、ピピ子?」


「ピ?」


 乳母車の縁で座りながらステータスを眺めていたピピ子に話しかけ、返事をしたピピ子を見る。よく見ると羽が壊れた日本の扇子から小さめの西洋扇子になっている。


 修行の最中に完全に破壊された扇子の羽が邪魔だと判断したピピ子は【換装】で修行中に外していたのだ。今の羽は修行終わりにユダが見つけてきた物の中の一つで、細かな花のデザインを気に入って付けているのだ。どんなに小さくてもお洒落には気を使う。それが女性なのだろう。


 ピピ子を見つめる内に彼は、単純に気持ちを素直に言った。


「ありがとう」


 そう言われた彼女は、一言。


「ピィ♪」


 と、言った。

 



(あれ? 私、除け者? 空気?)


 乳母車を押しつつ第二階層へ向かう女はその2人の独特な雰囲気に気まずくなっていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ