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エッセイ

自分にとって面白くない作品がランキング上位に載っていると不正

作者: いかぽん

 視聴者の皆様、こんにちは。


 小説家になろうの闇を探る、『なろうダークシーカー』。

 司会はわたくし、シー・カーイでお送りさせていただいております。


 さて今日は、いくつかのランキング作品の感想欄を眺めていこうかと思うのですが──


 ──おっと、たった今、とあるランキング作品に、新しい感想が書かれたようです。

 さっそく読んでみましょう。


『中学生でも書けるような駄文ですね。こんな作品が何故日間ランキングに? 不正ですか?』


 おやおや、いきなり不穏な感想が来ましたね。


 これはどういうことなんでしょう、解説のカイ・セッツーさん。

 この作品の作者は、何か不正をしているんでしょうか?


「あー、いやいや、違います。不正をする作者なんてのは、実際はほとんど皆無だと思いますよ。ただね、こういう読者っていうのは、よくいるんです。自分にとって面白くない作品は、誰にとっても面白くないはずだと思い込んで、こんな作品がランキングに載るはずがない、だとしたら不正に違いないって、そう思いこんじゃうんですね」


 ははぁ、なるほど。

 あ、この作品の作者に関する映像が届きました。

 作者は部屋で一人、パソコンの前に座っているようです。


 ──おや?

 感想を見て、そっと感想欄を閉じましたね。

 腹立たしそうにぶつぶつと何かを言っているようですが。


 この作者も、不正なんてしていないならしていないと、返信で堂々と書いても良さそうなものですが、何故そうしないんでしょう。


「それをしてしまうと、自分の首を絞めてしまうからじゃないでしょうか」


 と、言いますと?


「読者に噛みついたら、私怨で2chとかに晒されて、ブラックリスト入り決定ですからね。下手に返信できないんですよ。ああやってただ黙って耐えるしかない。読者に噛みつきさえしなければ、まだそのまま、忘れてもらえる可能性がありますから。作者は自然災害に襲われたとでも思って、ただただその読者が興味を失って、過ぎ去るのを待つしかないんですね」


 過酷な世界ですね。

 しかし、晒されると言いますが、そもそも実際に不正をしていないなら、晒されても問題にはならないのではないでしょうか。


「だといいんですけどね。空気に同調する人って、多いでしょう? 誰かが私怨で、こいつ不正してるぜ、悪人だぜって誰かが言ったら、だいたいそういうことになってしまう。きちんと情報を精査すれば、そんなことないってわかるはずなんだけどね。みんなが悪いって言ってるから、きっと悪いに違いない。あいつは悪人だって、そうなってしまう。──まあ、イジメの発生状況なんかと、よく似ていますね。こいつは叩いていいヤツだってなってしまうと、もう状況復旧は不可能に近いんですよ」


 なるほど、闇が深いですね。

 何とかならないものなのでしょうか?


「まあ無理でしょうねぇ。例えば、作品が不正でのしあがったわけじゃないって証明でもできれば、少しは違うんでしょうが、不正をしていないことの証明なんて、悪魔の証明ですからね。できやしませんよ」


 ──あ、でも、この作品には、好意的な感想もたくさん書かれていますね。

 これを見てもらえば、不正ではないということも、分かってもらえそうなものですが。


「あー、ダメなんですよ。それ全部、作者の自作自演だと、そういう風に捉えられるんです」


 ……は?


 この多種多様な感想を全部、作者本人が書いたと……?

 質的にも量的にも、ちょっと無理があると思いますが……。


「やってできないことはないでしょう。だったらね、作者が自演したことにされちゃうんですよ」


 ふむふむ……(感想欄を眺めてゆく)……でもこれ、仮にこの感想欄を本当に作者本人が自演しているんだとしたら、逆に感想欄そのものが、凄まじい作品ですね。

 よっぽど多種多様な人間の心理を、しっかり描ける作者じゃないとできないですよこれは。


「そうですね。不正だと罵ることで、逆に作者の有能さを認めてしまっている。自己矛盾ですね。まあそれでも、すでにその作者を悪人だと決めつけてしまった人には、そんなことは関係ないんですよ。こいつは不正をしたに違いない、不正をしたんだから悪人に違いない、悪人だから不正をしているに違いない……とまあ、そんな感じなんです」


 そうですか……あ、今スタジオに、件の作品の本文原稿が届きました。

 ちょっと読んでみましょう。




(画面には、しばらくお待ちくださいというメッセージとともに、子どもが書いたようなお花畑の絵が表示される)

(ぺらぺらと原稿をめくる音だけが聞こえてくる)

(やがて、画面がスタジオに戻される)




 ……っと、読みふけってしまいました。

 これ、結構面白いですよね。

 先の感想では中学生でも書ける駄文だと言っていましたが、これを中学生が書いたとしたら、その中学生は相当すごいと思いますよ。

 確かに文体は砕けていますが、これどう見ても、わざとやってますよね?


「(原稿をぺらぺらとめくって)それは間違いないですね。ただ、僕はあまりこういう作品は好きじゃないかな。でも好きな人はすごく好きそうだっていうのは、思います。それにこの作者は、この作品の素地となる知識について、かなりしっかりとした勉強をしていますね。その点は好感が持てます」


 うーん、私は面白いと思うけどなぁ……(ぺらぺら)


「どんな作品を面白いと思うかは、人それぞれですから。面白い作品は誰が見たって面白いって思ってる人が結構いるんですが、そんなことはないんですよ。その読者の年齢、性別、性格、仕事、環境、経験、知識、思想信条……その人を構成する様々な要素が、その人が何を面白いと感じるかを、大きく変えます」


 ですが、世の中にはすごく評価されている作品と、そうでない作品とがあります。

 あれは、面白い作品が評価されて、そうでない作品が評価されていないのではないのですか?


「あー、それはですね、世間でものすごく評価されている作品というのは、世の中の『多くの人が』面白いと感じた作品なんですよ。1億人が読んで、そのうち10人の人が面白いと評価する作品よりも、1万人の人が面白いと評価する作品の方が、高い評価を受けるってことなんです。決して、読んだ1億人のうち全員が、面白いと思っているわけじゃない」


 ……?

 ですが、作品が面白いから、1万人の人から評価されるのですよね?


「あーっと……うーん、何て言ったらいいのかなぁ……。例えばの話ですよ、その1億人の中に、文学的な作品が好きな人が100人いて、異世界ハーレムな作品が好きな人が100万人いたとしましょう」


 ──あ、言いたいことが分かりました。


「そう、そういうことなんですよ。そもそもの分母の問題でね、文学好きのうちの10人に1人に面白いと思ってもらえる作品よりも、異世界ハーレム好きのうちの100人に1人に面白いと思ってもらえる作品の方が、世間的な評価は遥かに大きくなるんです。シーさんも経験あるでしょう、こんなに素晴らしい作品が、どうしてこんな程度の評価しか受けていないのか、一方でこんなに程度の低い作品が、どうしてこれほどの評価を受けているのかって、そう思うような作品に出会った経験が」


 ええ、ありますあります!

 ……ですが、本当に面白い作品なら、文学作品であっても、異世界ハーレム好きの読者にもその面白さを分かってもらえるのではないですか?


「そこは、理由は二つですね。一つは食わず嫌いで、そもそも読まれないというパターン。そしてもう一つは──やはり本当に面白い作品って、そのジャンルを本当に好きな人にしか、良さが分からないんですよ。マニアックっていうのかな。普通の読者はそんなとこ気にしないよっていう部分に拘ってしまうから、マニア以外の人を置いてけぼりにしてしまう。高度な文学作品なんてのは、その典型でしょう。──やっぱね、世間にウケて評価されるのは、大衆に読んでもらうことを意識した、大衆向けの作品なんですよ」


 そうですか。

 『面白い』と一言で言っても、いろいろとあるのですね。


「そういうことです」


 分かりました。


 ──おっと、早いもので、もうお別れの時間になってしまったようです。

 それではまた次回、『なろうダークシーカー』で、お会いしましょう。

 さようなら。




(収録が終わり、スタッフ間で労いの声があがる)

(司会のシーも、スタッフに労いの声を掛けながら、カメラの近くで様子を見ていたプロデューサーの元に向かう)




 お疲れー、お疲れ様でしたー。


 ところでプロデューサーさん、この『なろうダークシーカー』っていう作品タイトル、何とかならなかったんですか?

 厨二病的っていうか、英語としても変ですよね?


 ──え、そういうのが、案外ウケるんですか?

 うーん、私には、よくわかりません。


 それよりプロデューサーさん、この後一緒に、パフェ食べて帰りません?

 おいしいお店見つけたんですよ~。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大統領選での陰謀論やら不正選挙やら騒いでた話を知った上で、今読むと言動そっくりに見えて味わい深い 分野や時代によらずそういう人がいる?
[良い点] なかなか面白い視点で展開されてる(´・ω・`) [一言] 不正だ厨さんはね…ただ文句言いたいだけですからね… なぜランキング上に来るかとかの考察全くしてないと思うのよね…つまりはAHOに構…
[良い点] 終わり方が好き [一言] 取り敢えず、この作品は面白かった
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