奇妙な訪問者
人が生きるのに理由は必要ない
chap.6
AM10:30
かぶいていたのではない、傾いていたのだ。
「ちわーす」
囚は全く気にせずに扉を開けて店に入った。
そこにいたのは見知らぬ黒スーツの男と自称日系イタリア人のマイケルだった。
「おやおや、お客さんですか?」
「ちがうネー、うちのバイト君ダヨ」
すると黒スーツの男はこちらに歩み寄り名刺を差し出した。
そこには「正法党 第一課 拾」としか書かれていなかった。電話番号もメールアドレスもない
「余所者か、お前」
囚の目が細くなる。囚は余所者がこの商店街に入ってくるのをなにより嫌っている。
「はいそうですけど、それが何か問題でも?」
「じゃあ話は早い、さっさと出て行け」
囚は高圧的だ。
しかしそんなことはお構いなしに黒スーツの男は言う。
「たとえ私が余所者であってもあなたには関係のないことです。私はこの店の主人に用があってきたのです。そこのところをお間違えなく」
大人の対応だった。
「マーマー、喧嘩したらダメヨ、一曲弾きますかコレ」
相変わらず独特なしゃべり方をするマイケル。喧嘩を止めることには慣れている。
「ちっ、二度と顔見せんな」
「ええ、あなたとはもう二度と会うことはないでしょうから」
『拾』と名乗る男はそう言うとカウンターに封筒を置いた。分厚い封筒だ。まさか札束でも入っているのではないだろうか。
「では、ごきげんよう」
男はそう言うと早足で出て行った。
「何なんだ、あの『ひろう』ってやつは」
いや『ひろう』ではなく『じゅう』だろ。
そんな突っ込みはさておき、自分の知能の低さを披露(ギャグではない)してしまった囚は託されていた肉をマイケルに渡した。
「おー、助かりマース、これでロシア名物ボルシチ作れマース」
さて、どこから突っ込もう




