静寂の商店街
狂わない少年
狂った少年
chap.5
AM10:10
新政党『正法党』についてはひとまず置いておいて僕らは旧国立商店街についた。ここは大正時代から存在する結構広い商店街だ。端から端までで約3kmはある。往復すると6kmだ。全力疾走すると相当疲れる。僕みたいな運動不足が走ると寿命が縮む。
「へーい、正、囚いらっしゃーい」
軽い感じでしゃべりかけてきたのは精肉屋「破竹」の大倉創兵である。
小太りの中年おっさんはいかにも肉屋といった感じだ。
「あんな事件があったのによく営業できるな」
そういう囚の顔はまったくあきれてはいなかった。むしろ、笑っていると言っていい。
「いやいや、どんな時にも笑顔を欠かさないってのが打ちの商店街のポリシーでね」
と言って僕らに魚肉ソーセージを渡した。始めてあったときから、会うたびに渡してくる。そんな謎の習慣が僕らの間には多々ある。
「でも、半分くらい店閉まってるし、客もほとんどいねぇだろ」
「それを言っちゃだめだぜ、いつもどこでも営業スマイル」
おっさんは似合わない笑みを浮かべた。この人の顔はあまり笑うのに適していない。怒った顔の方が数倍迫力ある。大らかな性格ではあるが、気弱なのだ、この男は。
「そうだ、マイケルの店に寄るならこれもってってくれよ」
おっさんが取り出したのは国産黒毛和牛のA5ランク天然100%だった。
「おっさん、どうしたんだ、これ」
囚はまるで人生の絶頂期のようにさけんだ。
「以前マイケルが日本の肉食いたいって言ってたからなー。たまたま手に入ったんで分けてやろうかと」
「俺らの分は!!」
「さっきソーセージやったろ」
「これかよ!!しかも牛じゃなくて魚だし」
元気のいい二人だった。
なぜ大蔵さんが不良である僕らに肉を託したかというと囚と僕は絶対に商店街では悪さをしないからだ。囚も僕も商店街を愛している。
大きな商店街なのでマイケルの店までは少しかかる。まあ昨日その商店街を走り回ったんだが・・・
「本当に人がいないなー」
囚は言った。確かに人が少なすぎる。いつもの活気がまったくない。
すると誰かが視界を横切ったような気がした。
「んっ?」
囚が怪訝そうな顔をする。
しかしそのまま歩みは止めなかった。なんだろう、一瞬うちのパソコンみたいにフリーズしたかと思った。
そういえばなんで昨日囚はいなかったんだろう。囚の家の鍵は開けっ放しだった。二日酔いの人間を置いていくなんて
―――――そう言おうとした瞬間
「T国が消滅したのに世界が回っているのに1000人程度の人間が消えたぐらいで商店街が静まり返るのはおかしいよな」
そうだろうか。T国の人口は約1000万人ほどいたはずだ。
今回の事件で消えたのはたった1/10000にしかならない。だが少し前まで国単位で消えていくことはさして珍しいことでもなかった。強力な化学兵器に超人的な特殊部隊、結果さまざまな国が滅亡していった。今はもうだいぶ回復しているがまだ傷跡も大きい。そのため国連は小さな国を大きな国に無理やり吸収合併させた。効果は絶大だった。T国もそのひとつでさまざまな国が合併してできた。日本はその立会国だ。
まあそんなわけで囚が考えるのも無理はない。日本国はたしかにT国と交流があった。けど消えてしまったものを今さら考えても仕方がない。
「見えたぜ」
目線の先にはマイケルの店が傾いていた。
内容と進行度合いは比例します