黄金時代
時代の幕開け
正義の少年 同正
悪の少年 囚
消えた世界
消える世界
時代の渦に巻き込まれる少年
時代を渦に巻き込む少年
心ない少女
人でない少女
孤独の少年
孤独な少年
見えない壁
見切れた壁
商店街
焦点外
マイケル・M・マクマーニ
人類最強の男
不気味の谷
不敵の警察官
不適の警察官
憲法回生
chap.13
8/9 AM8:00
目覚まし時計の音で僕は目覚めた。
広くも狭くもない部屋
僕はこの部屋で4年間生活している。
けれど、今日はいつもとは違う何かを感じた。
何かが僕の周りで変わってしまうようなそんな感じ。
この世界は広くないそう思って生きてきたが撤回しよう。
この世界は悪意に満ちている。この世界は堕落を喫している。
この世界は欺瞞を愛している。この世界は欲望を殺している。
この世界は正義を必要としていない。この世界は善意を嫌っている。
この世界は友情を認めていない。この世界は絶対を信じていない。
この世界は人間と混じ合わない。
だからこそ彼らは悪を憎んだ、悪を妬んだ、悪を嫌った。
そして彼らは悪を消し去った。
この世界の全てから――
彼らは自らの正義を実行したのである。
家にはもう父さんはいなかった。
この世界にはもう警察も自衛隊も存在しない。
先日特監による憲法回生により二つの組織を『大和軍』と改め合併した。
あの日以来大和軍の人間の行方は分かっていない。父さんからの連絡は一切ない。
僕は一人取り残された。
そして今日新たな時代の幕が開ける。
AM9:00
僕は外に出た。今日もいい天気だ。
外には誰一人いなかった。皆部屋に閉じこもっているのだろうか。
静かだ。こんなにも世界が静かだったなんて――
まるで悪い夢を見ているかのようだ。
しばらく歩いていると近所の公園に着いた。そこには五歳くらいの女の子が一人でボール遊びをしていた。この少女は今この世界がどんな状態にあるのか知らないのだろう。
するとボールが僕の目の前を通り道路に転がっていった。女の子はそれを取ろうと道路に飛び出した。
僕はそれを引き止めなかった。
刹那
ファーン
自動車(大型四輪)のクラクションの音が聞こえた。旧車に乗っていたのだろう。車は止まらなかった。車が女の子に正面衝突する。
走る凶器に吹き飛ばされた女の子の体が宙を舞った。
むごたらしい――そんな風にも僕は感じられなかった。
引かれたほうが悪いし、引いたほうが悪い。僕には何の関係もないし、姦計ない。
しかしその音が僕の耳に入るより早く女の子と自動車は共に消滅した。その間約0.01秒。
道路にはボールが一つ転がっているだけだった。
AM10:00
僕は商店街とは逆方向に進んでいた。
理由は僕にも分からない。
途中何人か通勤途中のサラリーマンとすれ違ったが、皆僕とは目を合わそうとしない。ひょっとすると誰かが消えるのを見てしまったのだろうか。
それとも彼らは「あれ」に消されるのに怯えているのだろうか・・・・・・
そんなことを考えながら歩いていた僕の前に――
「よお」
囚が目の前にいた。こんなところにいるはずがないのに・・・・・・
囚はそこに立っていた。まるで僕がここに来るのをあらかじめ分かっていたかのようだ。
「奇遇だな」
囚はいつも通り半袖のシャツにダメージジーンズ両腕に十字架型のブレスレットをしてへらへら笑っていた。顔には新しい傷跡がいくつもできていた。シャツもジーンズも所々破れている。そこから覗く皮膚には火傷の痕さえある。
それでも囚は笑って――
「いやー、急にお前の顔が見たくなってなー」
と言った。
ここ一週間、僕は囚と会っていない。どこにいたんだ。
そんな僕の心を読むかの如く――
「わりぃな、姉貴を探していた」
囚はなんでもないかのように言った。
囚には年の離れた兄と二つ年上の姉がいる。
いや、もっともいたというのが正しいか。二人ともすでに絶縁している。
しかし、なぜ囚は今更あの姉を探していたのだろう。
「姉貴の奴、あの大会に出ていたらしいんだ」
なるほど、あの人ならやりかねん。
僕は笑いそうになった。
「そうだよな、やっぱりお前はそれがいいよ」
囚は呟いた。
何のことだ?
「いや、なんでもない」
なんでもないのか?
「この一週間、全然寝てなくてよ、俺らしくもねーな」
何をしているんだこいつは。
そんなこんなで僕と囚は戯れていた。こんなに囚と戯れるのは何日ぶりだろう。
それがいけなかった――
「来たみたいだな」
囚が僕の後ろに向かって言った。
僕が後ろを振り向くとそこにはダンボールを被った明らかに異質な男が立っていた。僕は全くその人に気付けなかった。男の手には何やらアルファベットのようなオブジェが握られている。
「よお、早かったな、いやもう手遅れと言うべきか」
くくっ、と囚はまるで友達に接するかのように――囚に友達などいないが――男にしゃべりかける。
するとダンボールのせいで表情の読めない男は――
「最悪発見、これより正義を実行に移す」
よく分からないことを呟いた。
男は手のひらから「H」「O」のアルファベットをどこからともなく取り出す。
男の周囲が揺らいだ。
蜃気楼だ。
いったいどんな原理なのだろうか。さっぱり分からない。
ただ、分かったのはこの男は僕らを殺す気だということだけだ。
それを見た囚は――
「同正お前は何も悪くない。こうなったのも全部俺が悪い。お前が正義を貫くなら、俺は悪を支配する。だからお前は――生きろよ」
いや、だから状況が全然分からないのだが・・・・・・
最後までへらへら笑って言う囚に僕はどう反応したらいいのか困惑する。
「心配するな、墓には線香代わりにポッキーでも立てておいてくれ」
いやだよ。それに僕はプリッツ派だ。
囚の目は本気だった。
囚はダンボールの男目掛けて一直線に走り出した。そして、右手を強く握り締め、必殺の右ストレートを放つ。
僕はそれを止めることはできなかった。止めるつもりも始めから無かった。
一瞬
囚とダンボール男はこの世から消滅した。
僕には分からなかった。
囚の行動も考えていることも
分からなくなってしまった。何もかもが・・・・・・。
絶対で最悪な囚が絶体に絶命してしまった。
いくら必殺のこぶしでも自分も殺す必要などないのに・・・・・・。
「終わりましたか」
僕の後ろから声がした。
何度目だよ、このパターン、何回後ろを取られたら気が済むんだ僕は――
声の主はあの白い少女だった。
一週間前に出会った時と同じ服を着て同じような目で僕を見ていた。いや、多分この娘は僕を見ていなのだろう。僕が囚を見ていなかったように。
「あなたはなぜそんなところに立っているのですか?」
少女は僕に尋ねた。
僕は答えない。
「あなたは誰なのですか?」
僕は答えない。
「あなたはいったい何を考えているのですか?」
質問攻めである。僕は初めから答えるつもりはないのに。
「あなたは何者なのですか?」
ここで僕はようやく理解した。
嗚呼、この子には心というものがないのだ。
なにがこの子をこんな風にしてしまったのか僕には想像もつかないが――まあ仕方が無い。
答えてやろう。応えてやろう。
「人のことを尋ねる前にまず自分から名乗るべきだよ」
僕は口を開いた。
すると白い少女は驚いたような、さして驚いてもいないような表情をした。無理やり表情を作っているかのようだ。
「あなた普通にしゃべれるのですね」
平気で失礼なことを言う子だ。礼儀を知らないらしい。
「まあね」
僕はそっけなく答えた。なんでか分からないがこの子の前ではクールキャラを保っていたかった。
「それでは改めまして、私は『コール』本名を短冊 願望と申します」
心無き少女 短冊願望は頭を下げた。しかしその姿からは全く敬意など感じられない。
「『コール』?」
「コードネームですよ」
さらに分からなくなった。
しかしそんな僕にはお構いなしに短冊ちゃんは続ける。
「私はサークル『バトン』のメンバーですよ」
「・・・・・・」
だから君は僕に今の状況を優しく説明してくれる役割じゃないのか!?
けど、だんだん話は見えてきた。
「あなた、私と一緒に来る気はありませんか?」
「ないよ」
即答した。当たり前だ。僕がそんなわけの分からない組織に入るわけ無いだろ。そんなこと雨が降ろうがありえない。
「そうですか、仕方ありませんね。でもこれも『あの人』の言ったとおりです」
あの人?
表情が顔に出ないため短冊ちゃんが何を考えたかは分からないがもう一度同じ質問をした。
「あなたは何者ですか?」
――一呼吸おく
「僕は不動同正、ただの高校生さ」
他人に名前を教えるのはいつぶりだろう。
EP1 完 「動かざる正義」
やっと最終回です。
全然話が進みませんでした。
EP2からはもう少し分かりやすく書きます。
読んでくれてありがとう。




